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異世界でなんでも斬れる剣を拾った  作者: チラシの裏の汚い妖精さん
一章 駆け出し冒険者編
23/33

第23話 ブードゥーブードゥーマルハゲソ!

 

 それは穏やかな昼下がりの出来事だった。


「はぁいお兄さん、おやおや随分溜まってるみたいだねぇ。ウチで処理してかないかい?今ならたったの40ルカでいいよ」


 宿屋に荷物を置いた後は特にすることもないので、飯でも食うかと商店街に繰り出した俺だったのだが。

 ぶらぶら歩いていると背後から女性の声がして我が耳を疑うような勧誘をかけられた。


「――ぶほっ!げほっ!・・・え?ちょ!?こ、こんな昼間から!?ていうか流石に安すぎない!?病気になりそうで怖いんだけど!」


 内心ドキドキしながら振り向くと、俺は更なる驚愕にあんぐりと口を開けた間抜けな表情で固まることになってしまう。


「し、シスターですとォ!?な、なんと背徳的な・・・!」


 驚きに声が裏返ってしまう俺。

 そう、そこに居たのは黒い服と頭巾を被った、まさしく教会で祈りを捧げていそうなシスターだった。

 紫と桃色の中間みたいな長い髪と、どこか大人っぽさというか妖艶さを感じさせる目付きが特徴的な背の高い女性だ。

 シスターにしては締まりのない、悪戯っぽいというかだらしのないというか、そんな彼女の雰囲気を象徴するような笑みを浮かべている。


「ま、いいからいいから」


 笑顔のまま突然顔が触れ合いそうなほど距離を詰められ、腕に体を押し付けられた。

 上腕に当たる柔らかい感触と淡い香水の甘い香りに頭がくらくらして、思考能力を奪われる。

 通常なら明らかに危険を感じる距離を侵犯されているというのに、俺は今にも鼻の下が伸びただらしない顔を晒すのを我慢することに全力を使わなければならず、有益なことは考えられない。

 まるで股間のスポンジボブに脳の大事な部分が全部移動してしまったかのような頭の悪さだった。


 そのうちいつの間にか恋人つなぎになっている手に引っ張られ、路地裏へと連れ込まれる。

 流石にこれは駄目だろう。


「あ、ちょっと!まずいですよ!」


 連れていかれたところに怖いお兄さんが何人も待ち構えていたらたまったものじゃない!

 しかもよりによってエルは実家に帰省中だ。

 流石に呼び出したら来てくれると思うが、そうなるとこの情けない顛末を説明する必要があるだろう。

 しばらくの間は白い目で見られる上に更に頭が上がらなくなる展開は明白だ!


「離して下さいって!」


「まぁまぁまぁ、固いこと言わずに。ちょっとだけでも」


 そんな展開が見えているのに白くて柔らかい手に誘われると本気で振りほどけない自分が憎い!

 我ながら意思が弱すぎるぞ、俺!


 裏路地を少しの間引っ張られてたどり着いたのは、袋小路。

 だがそこで待っていたのは怖いお兄さんでも娼館でもラブホテルでもなく、こじんまりした占いの館みたいな、テント張っただけの簡素かつ小さな露天だった。


「・・・・・え?な、なにこれ・・・」


 期待外れというか怖い予想が外れて良かったというか、な状況に唖然とする俺を放置して、シスターのお姉さんが水晶の置かれた台に座り、反対側の客席に俺を手招きする。


「一つの街で見かけたら四十の街で出会うと思え!な、さすらいのレベル屋ナツメお姉さんのお店にようこそ!経験値の溜まった冒険者はレベル屋として見過ごせない!どうぞ40ルカぽっきりでビフォーアフターにレベルアップしてお行きなさい若人よ!」


 シスターはキメ顔でそう言った。

 意味がわからない。


「・・・・・は?レベル屋・・・?なにそれ・・・?」


「なんとなんとなんとぉ!お兄さんレベル屋も知らないでそんなに冒険者として経験値貯めたのかい!?これは金ヅ・・・もとい将来有望な冒険者見つけてしまったものですね!神の思し召しに感謝を・・・!」


 ついていけない俺を置き去りに、一人で勝手に盛り上がるナツメさん。

 いったいこれはどういうことなのだろう?

 というか彼女のこのお店は何をするお店なのだろう?

 どうやらエッチなサービスをしてくれるお店でも、そう見せかけて信じられない相場でお酒とフルーツ盛り合わせを販売してくるお店でもないらしい。


「あの、これは何のお店なのか説明させてもらっても?」


「やーね、決まってるじゃんお兄さーん!」


 正月実家に帰ったらこたつに座ってる親戚のおばちゃんが「彼女と上手くいってる?」と聞いてくるときみたいに口許に手をあてひらひらと手を振るナツメさん。

 そこはかとなくイラッとくる。


「レベル屋と言えばその名の通りにレベルを上げるお店だよ。魔物を倒して貯めた経験値を神々に捧げて、代わりにレベルを上げて頂き冒険者として一回り成長させて貰うのさァ!私達は神様と冒険者諸兄の間を取り持つお仕事ってわけ」


 わかるようなわからんような・・・。

 いや、やっぱわからん。


「つまりこの世界じゃ、ほっといても経験値が溜まれば自然にレベルアップするわけじゃないってことか?」


 確かによくある転生ものみたいに、これまで俺の頭の中にレベルアップのお知らせが浮かんだりはしなかったけれど。

 単純にゴブリンじゃ経験値が少なすぎてレベルアップできてないか、知らないうちに勝手にレベルアップしてるものだと思ってたわ。


「やだなぁ、雑草じゃないんだから勝手にレベルアップなんてするわけないじゃん。ちゃんとレベル屋で神様にお祈りしないと、魔王倒してもレベルは1のままだよ」


 独り言のつもりで呟いたのに耳ざとく聞き付けられたらしい。

 自分でも聞こえないぐらいの小声だったのに!

 読唇術でも使えるんじゃないかこの人、と疑わしくなる。


「ていうことで早速レベルアップの儀式はじめちゃいまーす!」


「え!あ、ちょっと!」


 あからさまに胡散臭いのでせめてエルに詳細を聞くまで遠慮したかったのだが、ナツメさんは勝手に水晶に手をかざしてなにやら呪文を唱え始めてしまう。

 まだ金も払ってないのに押し売り根性すげえなこの人!


「クロミミ、クロミミ、ミミミルカ!イアイアクトゥルフ!おお偉大なる成長の神クロミミ様よ、この哀れな子羊の肉体とか海綿体とかに溜まりし経験値を生贄に捧げ、ブルーアイズホワイトドラg・・・じゃない、レベルアップの加護を授けたまえ!・・・さあお客さん、準備は整いました。神は言った!『ライフで受けよ』と!」


「おかしいだろ色々と!?」


 なんてこの上なく胡散臭い呪文なんだ!


「ふっふっふ、侮ってもらっては困るなお客さん・・・!呪文は毎回適当でもこのナツメ・オリヴァーカーンは生粋のレベル巫女体質!レベル屋としての腕前は祈るだけのそんじょそこらの小娘とはダンチでございます!」


「――な、なにぃ!?」


 俺の体からオレンジっぽい柔らかな光の靄みたいなものが出てきて水晶へと吸い込まれ、入れ替わるように白く強い輝きが水晶から放たれて俺の体に吸い込まれた。


『ぱらっぱぱっぱっぱー♪!シドーはレベルが上がった。

 316の経験値を神にしゃ、・・・捧げ、村人のレベルが6になった。

 15のスキルポイントを獲得。剣士にクラスチェンジが可能になった!』


 どこからともなく頭の中で声が響く。

 聞き覚えのない舌っ足らずな女の子の声だった。

 体感できる胡散臭さメーターが天元突破した俺はなにか漂白された感じの表情をしていると、ナツメさんが取調室の刑事みたいなポーズで言った。


「・・・聞いてしまいましたか、神の声を・・・!」


「うるせーよ」


 嗚呼、人は何故、たやすく他人を傷つける言葉を口にできるのだろう?


Q:クロミミ様、この茶番は物語の都合上必要でしたか?

A:逆に考えるのです迷える子羊よ。いつものことだし深く考えなければ一緒だと。


 ・・・次回はできればまともに強化回をやろうと思います。できれば。

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