第21話 ほっと一息、鼻から牛乳
「「らん、らんらららんらんらーん!」」
意気揚々と鼻唄を歌いながら並んで歩く俺とクレア。ナカヨシ。
冒険者用のリュックサックにはゴブリンから採取した魔石の欠片と素材が詰まっている。
二束三文だろうが他に予定がないなら拾う。
無いよりはましだ。
『まったく・・・現金な連中だ』
エルの呆れたような溜め息も入ったそばから耳の反対側から抜けていく。
命懸けの戦いに生き残ったのだ、このぐらいはテンション上がっても許されるだろう。
「でも巣を潰して万々歳はいいけど、このまま報告して信じてもらえるのか?」
よくあるファンタジーなら倒した敵の首とかを証拠として持ち帰るはずだけど、この世界では魔物を倒すと、魔石と素材を残して黒い魔力の霧になってしまうので証拠が残らない。
村としても存続を賭けた一大事に村民からかき集めた金を冒険者への報酬に当てているのだろうし、逆に冒険者は命懸けで金を手に入れられるかどうかの瀬戸際なのだから嘘をつくやつもいるだろう。
時間が経てば腐る御首と違って、他所から持ってこれる可能性のある素材ぐらいで証拠の代わりになるのだろうか?
「ゴブリン退治の報酬ぐらいならギルドに帰って報告し、その場でいくつか質問に答えれば報酬をもらえますよ。巣穴の位置も聞かれるので後から調査員が巣穴を確認し、また被害があればずさんな仕事ということで再調査と討伐の指令が出されます」
暇潰しの世間話の代わりに聞くと、クレアが簡単に説明してくれた。
「いくらゴブリンが繁殖力旺盛といっても、人間の棲家の近くにいくつも巣を作るほど繁殖していればもっと大きな被害が出ていておかしくないですから、今回は大丈夫でしょう。ギルドに虚偽の報告をすれば除名あるいは最悪の場合討伐令まで出されますから、そんなことをする馬鹿者は・・・まぁたまにいるんですけどね。目先の金に目が眩む。馬鹿は死ななきゃ治らないというやつです。シドーさんも依頼の達成に失敗したときは、大人しく違約金を払ってでも嘘の報告なんてしない方が懸命ですよ。命あっての物種ですから」
なるほど。
コワイ!
「いやーそれにしてもやっぱり私の弓の腕は自分でも惚れ惚れするばかりですね。なかなか二人でゴブリンの巣穴を潰せる新米冒険者なんて居ませんよ?」
もはや彼女は俺に対して猫を被る気はないようだ。
『確かに。通常種だけでもなかなかの働きだが、巣穴のボスもきちんと居ての活躍だ。マスターも胸を張っていいぞ』
エルの言葉を照れ臭く思いつつ、それよりもそういえばと、聞いてみたかった事をクレアに聞いてみる。
「ほんとにな。その年であの弓の腕はびっくりしたよ。いったいどこで鍛練を積んだんだ?」
何気ない質問のつもりだったのだが、クレアが一瞬言葉に詰まった。
「・・・・乙女には色々と秘密があるものです。秘密といえば、貴方にもあるようですね。その剣、どこで手に入れたんです?」
武器屋で勝ったロングソードの鞘に納めたエルを見てから、じとりとクレアの鳶色の目が値踏みするようにこちらを見る。
敵意も悪意もない視線だったが、それでも俺にとっては猛禽類にでも睨まれているようだった。
今度は俺の方が言葉に詰まり、ごくりと唾を飲む番だ。
『藪をつついて蛇を出した、というやつだな』
やれやれという感じに言われたが、まさにその通りである。
「・・・・紳士にも色々秘密はあるんだよ」
実家の宝物庫から引っ張り出してきたなどと下手な嘘をついても、彼女の視線を前にするととても通用しないように思われたので大人しく誤魔化しておくことにした。
「・・・まあいいでしょう。冒険者同士、お互いの事を深く詮索するのはマナー違反。出身地を何気なく聞いてすぐに答えが返らなければそれ以上は聞かぬが花というものです。平気で突っ込んでくるうざったい馬鹿者もいますけどね」
「そっか・・・すまん、俺の質問も迷惑だったか?」
「紳士なら年下の娘にそんなことを聞かないでください。ですがまぁ、貴方は弁えて下さる部分もあるようなので許します。世間話でそこまで気を使っていては疲れますしね」
肩をすくめる少女の姿は俺などより、よほど大人に見えた。
「でもね、私、貴方に興味が湧いたのも事実です。お姉さま以外であれほど見事な剣の斬り口を見たのは初めてですから」
小走りで俺の前に走り出ながらくるりと身を翻し、こちらを見たまま言うクレア。
平坦な街道とはいえ後ろ歩きがまったく危なげないのは器用なものだ。
やはり感覚的なものが普通の人間より優れているのだろうか?
「それもぶっちゃけこの剣のおかげなんだけど・・・」
なんかバレてそうな気がして、もういいやと言ってしまう。
流石に神剣であることまでは言わないが、特殊な剣であるとは思ってもらおう。
『いいのかマスター、そんなことまで喋ってしまっても』
『よくはねえんだろうけど、なぁ。なんか普通の剣じゃないとは見抜かれてるみたいだし、俺が凄腕だと思われるデメリットの方が大きそうでな。それに、なんだかんだ悪い娘には思えないんだよな』
『やれやれまったく。お国柄か知らんが、少しは人を疑え』
頭の中でエルにたしなめられた。
実際異世界で冒険者として生きていくにはその方がいいんだろうなぁ、と平和ボケした日本人としては頭を掻くしかない。
「やっぱりそうですか。剣の振り方はとても、お姉様の惚れ惚れするような鮮やかさと比べ物になりませんもの」
こっちもやっぱりバレバレか、って感じだよ。
「そのうち紹介して差し上げますから、剣の手ほどきをしてもらえばよいのですけどね。素直に頼んで聞いてくださる方でもないのですよねぇ」
「いや、そこまでお世話になるわけには・・・」
「いえいえ、良いのです。私、貴方をスカウトしたいと思っていますから」
「・・・・・は?」
あ、あれれェ?おっかしいぞぉ?
なんだか話が不穏な方向に・・・・。
「今のままでは使い物になりませんが、成長の見込みはあると思っておりますの。私もお姉様も腕には自信がありますが、なかなか腕に見合うパーティが見つからないのですよねぇ。ですから貴方が入れば肉盾ぐらいには使えるかと」
「は、はぁ・・・そりゃどうも・・・?」
内心勝手な事言ってんじゃねーぞと思っているのは秘密だ。
脳天打ち抜かれる。
「すぐに、というわけではありません。機会があればの話です。でも貴方もパーティのあてがあるわけでもなさそうですし、しばらくの間協会にいるときは声を掛けさせて頂きますね?」
「アッ、ハイ・・・」
もう二人パーティで死地に乗り込むのも肉盾として扱われるのも嫌だったが、確かにパーティのあてはないので鼻水を出しながら頷くしかなかった。
この先もこの危険な香りをそこはかとなく漂わせる少女と組んで、俺の儚い命は足りるのだろうか?




