第20話 あんたらに存在価値なんてないのよ!
「――――魔法が来ます!避けて下さい!!」
クレアの叫びが岩に反響して届く。
本来なら既に二、三匹は片付けていそうな彼女だが、攻撃をホブゴブリンに弾かれているようだ。
『右奥だ、マスター。
シャーマンが詠唱をしている』
見るとボロ切れゴブリンがこちらに杖を振りかぶるところだった。
「あ、あんな距離に居るやつを俺にどうしろと!?」
『どうかするのではない。
どうかされるから迎え撃つぞ。
――――来る!斬り払え!』
エルの警告に応えるように、何も無かったシャーマンの前方に人間の頭ほどもある石が淡い光とともに突然現れた。
「き、斬るって――――」
エルなら石ぐらい斬れそうなのは分かっているが、飛んでくるものを斬ったところで二つに別れて各部に当たるだけじゃね?
五右衛門の斬鉄剣ってよく銃弾切ってるけど、現実であれやるとたとえ斬れても、綺麗に斬れば斬るほど結局は多少逸れるだけで体には当たるんじゃないかといつも思っていた俺ですが。
『考えている場合か!私を振れ!
真っ直ぐだ!』
エルの言葉を信じて剣を振らなかったら、今頃命が無かったかもしれない。
頭部大の石、いや岩が、剛速球並みの速度で真っ直ぐに俺の頭へと飛んできたのだから。
直撃すれば頭蓋骨陥没どころでは済まなかったかも・・・。
結果的に幸運も相まって岩に刃を当てることはできた。
刃が当然のように岩の中をすり抜けていくのを、一瞬のことだが確かに見た。
それでどうなる!?と次の瞬間襲ってきそうな衝撃に身構えたが・・・。
「う、うわぁすげ・・・!」
斬った岩が青い炎に包まれて飲まれるように一瞬で燃え尽きた。
呆気にとられて手品のようだと呑気な感想を浮かべてしまう。
「起動魔法解除ですって!?
え、エピック級のエンチャントじゃないんですかそれって!?
なんですかその剣!?」
「え、ええと・・・!」
ホブゴブリンを近寄らせないよう矢を打ち込みながらもこちらの成り行きを伺っていたらしいクレアが驚愕の声をあげて凄そうなことをしたのだと説明してくれたのだが、逆に俺には説明を返す機転も余裕もなかった。
ということで俺は聞こえなかったふりをして、次の目標にしたゴブリンへと雄叫びをあげて突っ込む。
「おらぁあああああ!」
命の危機に瀕したことで脳内物質でも出たのか、これまでよりゴブリンの回避しそうな方向を正確に予測できてそこへ追撃を入れる。
一匹のゴブリンの首があっさりと胴から離れた。
「今は問い質す時じゃないですか・・・。
というか、お前、いい加減邪魔なんですよ。
そろそろ死んどけ。
――――“剛射”!」
クレアが一際力強く引き絞った弓矢が淡く、オーラのように朱色に光る。
そこから放たれた弓は恐ろしく速く、オーラの軌跡が描く光そのものにしか見えないほどだ。
が、それでもホブゴブリンは弓を弾いてみせる。
「う、ウッソォ!?
ほんとにゴブリンかよあいつ!?」
とても反応できる速度じゃないと思ったのだが、ゴブリンの剣は綺麗に矢と交差する。
しかし、そこからが今までとは違う展開になった。
「ギッ!?」
砲弾でもぶつかったように矢を弾いた剣が大きく弾き飛ばされる。
いや、剣どころかゴブリンの体ごと大きく仰け反らせ、顎も腹部もガラ空きになった。
決定的な隙だった。
「それではお勤めお疲れ様でした。
おやすみなさい?
“剛射”!!」
クレアほどの名手がその隙を見逃すはずもない。
可憐な笑顔で別れを告げると、再び朱色に輝いた弓矢がホブゴブリンの晒した胴体に吸い込まれ、鉄の鎧を紙切れのように打ち抜いた上でその胴体を爆散させる。
「――――!!」
悲鳴さえあげることなくゴブリンが崩れ落ちていく。
まるでマグナム弾、いやダムダム弾でも撃ち込まれたみたいな映像だ。
これが本当に弓矢の起こした被害なのだろうかと目を疑ってしまう。
「矢弾きなんて小賢しいスキルどこで覚えたか知りませんが?
何度も見せていいほど面白い芸じゃありませんから、それ」
だらりと舌をだして落ちるホブゴブリンの上半身を、クレアは冷徹に嘲笑った。
『剛射は弓使いの基本となるスキルの一つだが、あの大した威力・・・スキルレベルがかなり高いのだろうな。
地道な鍛錬の成果だろう。
やはりあの娘侮れん。
基本がよくできている』
「うへぇ・・・」
予想以上の派手な殺し方に情けない声が出る。
魔法ならまだ納得するが、武器のスキルであんな威力になるのか。
銃いらねーなこの世界。
「ギャ!?ギャギャ!?」
「ギャッ!ウギギィ!?」
親玉の無残な死に様を見て明らかに浮き足立つ残りのゴブリンども。
普段ならここで撤退かもしれないが、あいにく外界に繋がる唯一の出口に行きたければ俺とクレアの脇を通り抜けるしかない。
唯一シャーマンだけがまだ抵抗の意思を残していたようだ。
「ウギギギギィー!!」
耳障りな声はゴブリン流の詠唱ってやつだったんだろうか?
今度は薄暗がりを染め上げる炎がシャーマンの前に現れ、ぐるぐると凶悪な渦を巻く。
『ファイアボールも使えるか。
だが・・・・』
対処法は既に手の中にある、か?
「炎でも斬れる、・・・だよな?」
確信を込めてエルの言葉に問い返す。
答えはいらなかった。
さっきの岩と変わらない、十分以上に殺傷力を感じさせるサイズの炎の弾が飛来する。
が、スピードはさっきの岩弾より遅い。
さっきの岩弾はまさに剛速球って感じで、刃に当たったのはサイズが大きいからと幸運もあった感じだが。
さっきのが剛速球なら今度のはせいぜいチェンジアップだ。
犠牲バントでいいなら狙いを外す速さじゃない。
「っっらぁ――!!」
気合の一声と共に炎の弾を叩き切ると、炎は内側から青白い別の炎に飲まれるようにして弾け散った。
「詰み、ですね」
本日三本目の赤い矢がシャーマンの頭をザクロのように弾け飛ばし、さらに茫然自失の残党どもの頭まで射抜いてしまう。
残ったのは俺たち二人を除けば、モノ言わぬ死体だけだ。
「やれやれ。
矢弾きまで持ってた癖にゴブリンに食われた馬鹿のおかげで、ゴブリン如きにスキルまで使わされてしまいました」
クレアの溜め息が勝利宣言の代わりだった。
じわじわと実感がこみ上げる。
「・・・・っく、ふぅ、・・・へへ」
死臭漂う洞穴の中で自分でもどうかと思うが、俺は生き残ったという興奮に笑っていた。




