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異世界でなんでも斬れる剣を拾った  作者: チラシの裏の汚い妖精さん
一章 駆け出し冒険者編
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第19話 穴の中

 

 

「うげ・・・!」


 カンテラに薄い灯りを灯してそれだけを頼りに巣窟を奥へ進む。

 パキ、と硬いものを踏んだ音がしたので下を見ると、そこには人間のものらしき白骨があった。

 十中八九あいつらの犠牲者だろう。


「どうかしましたか?」


「いや、その、骨が・・・・」


「そのぐらいで情けない声を上げないでください」


 ちらりと先導しているクレアがこちらを振り返ったが、目を細めて残念なものを見る目をしたあとすぐに前を見て歩き始めた。

 ゲームのそれとは違う生々しく痛々しい白骨死体を見ると、現代人の感覚としてはやはり背筋がぞくぞくと冷たくなる。

 死というものがすぐ身近なものに感じられて、日本人が死を穢れとして遠ざけようとした気持ちがよくわかるのだが、彼女にとっては道端に落ちた犬の糞と変わらないらしい。

 経験の差というものだろう。


 大人が歩くのに少し余裕がある程度の道幅を5分ほど歩いている。

 それだけの距離でも外界とは違う冷たさというか、湿っぽさというか、独特の閉塞感を感じる。

 入ったら二度と出られないような気さえしてきた。


「巣穴の横幅から考えて、そう長く続きそうな気配はしないんですけどね」


 俺の緊張が伝わったのか、クレアが何気ない感じで声をかけてきた。


「そんなのわかるもん?」


「ただの経験則なのであまり信用しない方がいいかもしれない話です。

 話半分程度に聞いてください。

 でも大きな巣穴ならそろそろ、もっと道幅が大きくなることが多い気がします。

 早く帰れそうですよ、よかったですね」


「大きい洞窟だったら本気で引き返したくなるかな、正直」


 苦笑いを返す。


「大した剣の腕をお持ちのようですのに、随分と肝が小さいんですね。

 あれほど鮮やかな死体の切り口を作れる方を見たのは、貴方で二人目です」


 さすが凄腕の弓使いは目ざとかった。

 街道戦でクレアがこちらを振り向いたのなど、ほんの一瞬のことだったと思うのだが。


「あ、いや、たまたま運が良かっただけで俺は全然強くないからね?

 戦力として期待されると困る・・・」


「命のやりとりをする場で、己以外に必要以上の期待をするつもりはありません。

 彼我の戦力を冷静に分析し、己の出来ることをするだけです」


『よい心がけだ』


 何故かうちの娘が満足げに鼻を鳴らした。

 ジェダイマスターにでもなったつもりかお前?

 君のマスターは彼女に上から目線できるほど強くないんですが。


「足音の反響が変わってきています。

 そろそろですよ。

 心の準備はいいですか?」


「できてない。

 ・・・って言いたいけどなんとか。

 これでも一応、男の子なんで」


「軽口が言えるなら十分です」


 ちらりと振り返り、冷めた目線でこちらの様子を確認したクレアだったが、俺の答えを聞いて口の端を吊り上げた。

 ニタァ、という殺気と狂気の入り混じった、少女とは思えない恐ろしい微笑だ。

 弓の腕といい、いったい彼女はこれまでどんな暮らしをしてきたのだろう?



 もう少しすると俺にも微かに音が聞こえ始め、ぼんやりと視界の先に明かりも見え始めた。


「ウギャ!ウギャ!」


 出迎えたのはドーム状の大部屋の中央に置かれた焚き火と、数え切れない白骨死体。

 そして数匹のゴブリンと、その真ん中に立つ、一際体の大きなゴブリンの親玉らしき存在だった。

 親玉は他と違って成人男性ぐらい大きいだけでなく肌が赤黒く、知能も高いのか冒険者から剥ぎ取ったらしき装備で武装している。

 ゴブリンごときに言うのは自分でもどうかと思うが、するどい牙からヨダレを垂らす姿はぶっちゃけ怖い。


「わざわざ出迎え付きとは気が利いていますね。

 通常種以外にもホブゴブリンウォーリアにゴブリンシャーマンですか。

 少し面倒ですが問題はありません。

 連中は私が始末します。

 ただ、ゴブリンシャーマンの魔法には気をつけてください。

 魔法の発動までは止められませんし当たったら痛いじゃ済みませんから」


『デカブツがホブゴブリン、杖を持っているのがゴブリンシャーマンだ。

 シャーマンは石の魔法を得意とする。

 が、まあ私とマスターなら問題ない。

 石が飛んできたら真正面から切り伏せろ』


 クレアとエルの注意を受けてもう一度よく観察すると、確かに後ろの方に体より大きな杖を持ちボロ切れを羽織ったゴブリンが居た。


「ま、魔法を切る・・・か?

 本当にできんのかそんなこと・・・?」


 エルの言葉に半信半疑だが、いざとなったらやるしかない。


「いきます」


 静かに言ったクレアが、口火を切るように目にも止まらぬ速さで背中の矢を弓に番えて放つ。

 本当に狙ったのかと疑いたくなるスピードにも関わらず、矢は一直線にシャーマンの眉間へと吸い込まれていく。

 ・・・・が。


「ギャッ!」


 ホブゴブリンが脇をすり抜けていこうとする矢を、手の剣で弾き落とした。


「ちっ。ゴブリンにしてはやるじゃないですか」


 クレアが舌打ちして走り出す。

 その口調は矢を外された苛立ちどころか、楽しげでさえあった。


『小娘はもう敵以外は目に入っていないはずだ。

 放っておいて死ぬタマではないが、ホブゴブリンとシャーマン相手ではこちらの援護までさせられんぞ。

 せいぜい頑張って数を減らして楽にしてやらねばな』


「っし!行くぞ!」


 俺もクレアに続いて走り出す。

 標的は周りのゴブリン達だ。

 5匹ほど居るうちの1匹と距離を詰める。


「っら!」


 まずは牽制に速く小さく軽く剣を振り・・・


「ギッ!」


 避けたところに本命の一撃を叩き込む!


『ほう、成長が見える。

 なかなか筋がいいな主』


「さっき見たから少しは目が慣れた!」


 エルの青白い刀身がゴブリンの脇腹に突き刺さり、ごぽっと血が噴き出す。

 ごく小さな軌道であっさりと腹の革を貫通された事を信じられないような目で見て、まず一匹が倒れた。

 出だしは好調。

 ちゃんと『斬る』ことを意識しなくても勝手に刃が通るっていうのはやっぱり、それだけでかなりのチートだ。

 全攻撃が即死攻撃っていうか、会心の一撃。

 命中率を高くしたまじん斬りみたいなもんだからな。


 斬る為に力む必要がない。

 斬るという行為の理屈を理解する必要もない。

 エルは刀身に重さなんてほとんど感じないし、ボクシングの試合に剣道の竹刀持って乗り込んで一発でも当たったらこっちの勝ちって言ってるようなもんだ。


 だがそれでも。

 俺は別に運動神経が良いわけでもなし、数はあちらが上。

 油断すれば簡単に漬け込まれて――――死ぬ。


「まだまだこっからだぜ!」


 吠えながら地を蹴り、背筋に熱と寒気の両方を乗せて次のゴブリンへと走り出した。



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