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異世界でなんでも斬れる剣を拾った  作者: チラシの裏の汚い妖精さん
一章 駆け出し冒険者編
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第11話 もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな


 後ろから隠すように人混みと体の間でエルギヌスを召喚する。

 炎と共に剣が現れるが、熱はないので上手く体で隠せていれば気付かれてないと思う。


『やれやれ。そもそも勝算はあるのか?

 剣の振り方もろくにわからんのだろう。

 まぁ剣を一回でも合わせられればそれで勝ちだが』


「安心しろ。話し合いで解決する。

 お前は脅しだ。

 すまん通してくれ」


 人混みを割って輪の中心に向かう。

 当然迷惑そうな顔をされるが、抜き身の剣を見ると皆さん親切に通してくれた。

 優しい人達のおかげですぐに人だかりを抜ける。


「おいあんたら!

 女相手に二人がかりはひどいぞ!

 やるってんなら俺も助太刀する」


 存在に気付かせる為に大きく叫んだ。

 チンピラと周囲の視線が俺に向く。

「変な剣持った変な服の奴が割って入ったぞ!」

 とかいう野次が聞こえて、すいません間違えましたと引っ込みたい気持ちを我慢してみる。


「なんだてめぇ関係ねえだろすっこんでろ!!」


 お定まりのセリフをもらった。


「やいてめえら!さっき人が走っていったからすぐに警備がやってくるぞ!

 こんなとこで喧嘩してたら捕まるぞ!

 物が壊れたら店にも迷惑だろ他所でやれ!」


 こちらもお定まりのハッタリで応戦する。

 するともう一人の男が相方に何事か囁くのが見えた。


『「ちっ!あのバカはほっとけ!

  とにかくこの女拉致らねえと兄貴に殺される」

 「でも衛兵が……」

 「そんなにすぐにくるもんかっ!いいからやれ!」』


 使いっぱしりかよ。

 ならもっと目立たないようにやれよ。


『アホだな』


「俺もそう思う」


 俺を無視してチンピラが動き出しそうに見えたとき、それよりずっと速く女がチンピラ達の懐に飛び込んでいた。


『速いな』


 エルギヌスは呑気な感想を言ったが、俺から見たら速いなんてもんじゃない。

 少し離れた距離を男達に剣を抜かせる間もなく一瞬で詰めて、二振りの剣をそれぞれ男達の喉元に突きつけていた。

 まるで映画の見せ場となるワンシーンのようだ。


 どんな体のバネしてるのか知らないが、チーターか何かが飛び付いたのかと思ったぞ。

 周りからも「すげぇ」「何もんだよあの女」などとどよめきが聞こえる。


「うわぁ……」


『助太刀の必要などなかったな。

 まぁ予想通りだが』


「うっ……くそっ!!」

「こ、この……!」


 腰の剣に手をかけたまま後退りしそこねたポーズで固まった男たちは、情けない呻きをあげている。


「悪いことはするもんじゃねえな。

 衆人監視の中であの姿は晒したくない」


『なかなか容赦のない言い種だが同感だ』



「くそっ!覚えてやがれ!」


 男達はゆっくりと後退った後、ありふれすぎて誰も覚えてくれないような事を言いながら人混みを割って逃げていく。


『女が「次は殺す」と言ったようだな』


「うわ……俺があいつらなら怖すぎて田舎に帰るわ」


 あんなのと殺し合いとか、幾らもらってもやりたくないぞ。


『あの女……高みを目指すなら、いずれぶつかることもあるやもな』


「マジで?普通に嫌です。

 那珂ちゃんのファンやめるから許して」


 これまで後ろ姿だったため外套のフードで見えなかった顔が一瞬こちらを向く。

 毛並みのよい狐のような赤髪と、宝石のように光る翠の瞳、そしてツンとして険はあるが、その分どこか高貴さのようなものも感じられる美しい顔立ちがちらっと見えた。

 文句の付け所のない美女だった。

 俺を見ると一瞬何か言ったように見えたが、すぐに身を翻して悠々と人混みを割り去っていく。

 野次馬たちも女が近付くと、何も言われずとも怯えるように道を開けた。

 女の卓越した剣の腕を見たからでもあるだろうが、表情からして近寄りがたい雰囲気があったのでそれも手伝っての反応だろう。


「全然聞こえなかったんだけど、なんて言われたんだ俺?

 やだカッコいい?」


『「馬鹿ね」だ。

 アホを相手にするのが馬鹿らしい気持ちはわかるが、助けに入ってもらった相手に礼も言えんのかあの女は』


「まったく助太刀になってなかったけどな」


『確かに』


「いやそこは嘘でも否定しろよ」


 ふと気付くと輪の中に取り残された俺に人々の視線が向いていた。


「見せ物じゃねーぞ」


 一度言ってみたかった台詞を言いながらしっしっとジェスチャーを送ると、慌てたようにぞろぞろと人が散っていく。

 助けに入ったぐらいだからそこそこ腕は立つと思われたようだ。

 ハッハッハ、気分が良い。


『さっき目立ちたくないとか抜かしてなかったか?』


「…………うん。

 まぁでも十歩あるいたら俺の顔なんて忘れてるよみんな、きっと。たぶん」


 忘れられるのには自信があるし。


『確かに活躍としては女の方が遥かにインパクトがあったろうが、見た目で悪目立ちしていたのは貴様だな』


「…………服を変えたら誰も気付かないフラグだよキミィ」


 この場でエルギヌスを消すわけにもいかないし、鞘がないため仕舞うことも出来ないので取り敢えずこそこそと路地裏に入る。


「ちょうどいいからお前人間になれよ。

 果物買ったはいいけど、パーカーのポケットで持ち歩くとさすがにパンパンすぎる」


『わかりきった話だろう、まったく。

 こんなところで変化か?……仕方ないな』


 ぶわっと青い炎が路地裏を照らし、人間へと姿を変えた。


「……誰にも見られてないか?」


「大丈夫っぽいな。

 暗い路地とはいえ昼間だし、一瞬明るくなってもだれもこっちを見てない」


 大通りの様子を伺いながら返事をする。

 

「まったく迂闊な。

 そのうち私の事がバレて賊の類いに狙われはじめても知らんぞ。

 賊には常人に使いこなせない事などわからんし、そもそも奴らは好事家に売れるならそれでいいという考えだろうからな」


「わかってるから目立ちたくないんだよ俺も。

 まぁ少しは考えがあるから、今みたいな事にはそうそうならんとは思うがな。

 ――――ほれ」


 俺が投げて渡したリコを、エルギヌスは綺麗にキャッチする。


「そういえば貴様のリコはどこへいった?」


「連中に投げてぶつけたら一瞬怯むかと思って、隠し持ってた」


 自分のリコも反対のポケットから取り出す。


「……服がどろどろではないのか、汚い」


「ちゃんと汚れないように上手く入れたっつーの。

 まだ二口ぐらいしか噛んでなかったしな」


 言いながら自分の分を頬張る。

 酸味と甘味のバランスがやはり心地いい。


 エルギヌスもそれを見ておずおずと口をつけた。


「どうだ?お味のほうは」


「……なかなかいける」


 認めるのが嫌なのかそっけない答えだったが、まぁ素直に旨いと言っているので許してやろう。


「できればジャムも食ってみたいもんだ。

 焼きたてのパンにつけたらきっとめちゃ旨いぞ」


「ぬ。」


 想像したのか頬が緩みかけている。

 神剣といえど、人の姿をしている以上やはり食欲には抗いがたいようだ。


「今度一緒に買いに行くか」


「わさわざ言わずとも、既に私とマスターは一心同体のようなものだろう」


「ま、そうだな」


 別れたくとも別れられない奇妙な関係である。

 別にそんなつもりもないが。


「それよりあの女、面白い武器を持っていたな」


「ん?ああ、そういや片方の剣がなんかギザギザしてたな。中二病なのかな」


「アホか。いやアホだったな。

 あの剣の峰が櫛の歯のようになっていたのには、ちゃんと意味がある。

 あの峰の凹みに敵の剣を引っかけて、折ったり使えないよう絡めとったりするのだ。

 言うほど簡単ではないがな。

 ソードブレイカーというれっきとした名前もある。

 あの剣を使いこなせるなら、あの女は身体能力だけでなく、技術もそこらの男では勝負になるまい。

 さっきも言った今のマスターでは相手にならん達人という奴だ」


「うげ。絶対に敵として会いたくないな」


「いや、私と相性がいいから、不意を上手くつければ勝算は言うほど低くないはずだ。

 剣を折りにきたところをそのまま、逆に叩き切ってやればいい。

 とはいえ命がけの勝負になるのは間違いないな。

 むしろあの女がマスターに剣の使い方を教えてくれれば、私が苦労する必要もないのだがな」


「頼んで稽古代払えば教えてくれそうな相手に見えたか?」


「…………無理だな。話になるまい。

 まったく、世の中の歯車とはなかなか噛み合わぬものだ」


 なんか偉そうなこと言ってるぞこのおチビ。


「あ、そうだエルギヌス。

 お前食い終わったら一旦宝物庫に帰るんだよな」


「並んで歩くのは目立ちすぎるからな。

 なんだ?シルメリアに言伝てでもあるのか?」


「俺これから服屋だから、代わりにこれ捨てといて」


 食べ終えたリコの芯を手渡す。


 エルギヌスはたった今自分が何を渡されたのかわからないように二、三度俺と手の上のを見比べた後、額に青筋を浮かべた。


「…………貴様、この場で叩き切ってくれようか?

 私の事を何だと思っている?」


 わりとガチの殺意を向けられていたり。


「そう心の狭いことを言うなって。

 食べたはいいけどこの世界の道端にはごみ箱なんて無いことに気がついたんだよ」


「料理屋の裏でも探せ!

 くそ、不愉快だ帰る!」


 とは言うものの芯はちゃんと持ってってくれるあたり、この神剣さん親切である。


「それじゃ、服買い終わったら呼ぶからまたな」


「やかましい!

 しばらく一人で路頭に迷え!」


 あ、やっぱり怒ってはいるらしい。


「…………それと、私の事はエルでいい。

 エルギヌスはどう考えても人の名前ではないからな。

 誰かに盗み聞きされると面倒だ」


 そう言い残してエルは炎になって消えた。


 思ったよりちゃんとツンデレしていて、胸の奥が熱くなるな。


「…………さてと。

 それじゃようやくだが、服でも買いますか」


 ……何故かちょっと照れ臭い気持ちになったのを誤魔化すように、俺は首もとの後ろに手を当てて裏路地を後にした。



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