第10話 助太刀、でも助太刀するとちょっと目立つ
「おー人がいるすげー。
大したもんだ」
『お前はこの街を何だと思っているんだ』
主婦に言われた通りに道を辿ると、見かける人の姿が段々と増え始め、もう少し歩くと開けた通りに出た。
商店街と聞いた通り、通りに面して様々な店が看板を出しており、露店商や行商人の荷車、屋台の姿もちらほらある。
通りを歩く人々もこれまで通ってきた裏路地に比べれば明らかに多く、篭を提げた主婦以外にも腰に剣を吊るした冒険者らしき姿や、露出の多い服にケモミミと尻尾を生やした獣人らしき姿、そもそも顔自体が毛むくじゃらの二足歩行するウサギのような姿など、バリエーションに富んでいる。
ぎゅうぎゅう詰めとかごった返しているというほどではないにしろ、人に阻まれて通りの端が見えない程度には人がいる。
車の通る日本と比べれば、道幅がほどほどなせいもあるかもしれない。
いかにも、ああ本当に異世界に来たんだなぁ、としみじみ思わせる光景だった。
『何をしているマスター?』
「パーカーのフードを被ってりゃ、少しは顔が見られにくくなるんじゃないかと思って」
『……………逆に目立つぞ』
話し掛けた主婦ほどあからさまに驚く人間はいなかったが、これまですれ違った人々からも視線を感じた。
少し目を丸くされるぐらいのもので、顔をしかめられたりはしなかったのが救いではある。
『あの反応だと、都会の流行りなんだろうか、ぐらいに思われている可能性はあるな。
まぁ獣人連中などは私から見てもどんなものが奴らの普通なのかわからんぐらいだし、奴らの方が目立つ。
案ずる程でもなかったか』
だとしたらありがたいが。
自分自身だとどうしても気になるが、他人はそれほど気にしていないというのはあり得るのかもしれない。
とはいえ、やはりこの格好で明日以降もうろつく気にはなれない。
「物珍しいもんがいっぱいあるが、今は恥じらいの方が勝ってるからな。
後で色々見て回ろう」
『服屋の場所を聞きたいところだが、通行人に聞くよりは適当な物を買って商人に聞いた方が早かろう』
「じゃああのおっちゃんにしよう。
果物だよなあれ」
日陰に荷車を置いて商品の果物らしきものを手に持ち、呼び込みをしている男に視線を向ける。
アゴヒゲが豊かな堅太りの男だ。
『ああ。リコの実だな』
「うまいか?」
『食べたことがない』
「ならお前の分も買ってやるよ。
ん?そういや食えるのか?」
『食事を摂る必要はないが、味はみれる』
「じゃあ丁度いいな」
『無駄な出費だ』
そっけない風を装いながらも、声に興味があるのを隠しきれていませんね。
恥ずかしい子に笑わかされそうになりながら、行商人のところまでやってきた。
「おっ、どうだいお客さん今朝とれた新鮮なリコだよ!
そのまま食べても美味しいし、煮詰めてジャムにするとほどよく甘酸っぱいし風味も良くて最高なのさぁ!」
「うまそうだ。
二つほどもらえるかおっちゃん」
「へいまいど!!……お、おっとぉ!?」
近づいてきた人間に反射的に商品の説明をする姿は商売人の鑑だが、俺の方を向くと流石に少し目を丸くする。
「変わった服だねぇお兄さん、どこから来たんだい?」
「……えーと、オーランからだ」
ごく自然な流れで言葉に詰まったが、頭の中で助け船を出されて考える間もなくそのまま答える。
「なんだよ都会っ子か!
あっちは最近物騒らしくて大変そうだな。
俺ぁまだ行ったことがないんだが、その服はあっちの流行りなのかい?」
「いやぁこれはちょっと事情があってさ。
着替えたいから服屋を探してるんだけど、どっちにあるか知らない?
ごく普通の店でいいんだけど」
「ああそれならあっちの店が近い。
たまに奥さんが商品を買ってくんだ。
丈夫でいい品を手頃に扱ってる。
大将はまぁ、ちょっとだけ変わった人だが……見る目は確かだから」
男は俺が歩いてきた方向の、通りの反対側にある店を指差した。
「助かったよありがとう。
あ、支払いだけどルカでいいか?」
「ぼ、冒険者だったのか!?
あ、あぁ。すまん。大丈夫だ。
2つで4ルカだ」
『安くはなさそうだな。
まぁルカだから少し割高は仕方ない。
真鍮貨を4つ渡せ。違う、その隣の奴だ』
小銭を探しているふりをしてまたエルギヌスに助けてもらう。
果物を買うだけで一苦労だ。
「はいぴったりね。袋は?」
「ああ、すぐ食べるからいいんだ。
手渡しでくれ」
「あいよ。また頼むぜ」
青リンゴのような見た目の果物を一つはポケットに突っ込むと、お互いに軽く手を上げて別れる。
「助かったぜ。
まったく異世界ってやつは。
馴れるまで緊張の連続だな」
教えてもらった服屋の方向に歩き出しながら、小さく安堵のため息をつく。
『……………』
「おいどうした?
果物ならちょっと待てよ。
服買ったら路地裏に入ってやるから」
『………………む?
ああすまん、何か言ったか?』
「お前な……。いや、何か考え事か?」
『うむ……オーランが物騒と言うのが少し気になった』
「俺の偽故郷か。
そもそも何処だそれ?」
『この国、レメディア王国の王都だ。
ここから街3つほど離れている。
レメディアは小国だが比較的平和な国だ。
その王都が物騒とは…………?』
「言われるとまぁ気にはなるな。
殺人鬼でも出たのかねぇ」
『当たらずとも遠からずかもしれんな。
とはいえ直ぐに向かう予定もない。
何かあっても今は対岸の火事だが、覚えておいて損もなかろう』
「なるほど。
テレビもニュースもない世界じゃ、噂話も貴重な情報源か」
『なんだそれは』
「俺の世界の庶民の娯楽グッズだ。
何かあるとすぐに斜め45度の角度でしばかれる可哀想な奴でな」
『貴様の嘘が声のトーンで見分けられるようになってきた』
「嘘ぉっ!?」
なにそれ怖い。
背筋をガクブルさせながらもせっかく買ったので、手に持ったままのリコとやらを頬張る。
『味はどうだ?』
「んーーーむ?
いや、なかなかいけるぜ。
酸味が強いがそれが癖になる味だな、これは」
食感はリンゴっぽいが味はスモモに近い。
後味が爽やかでけっこう気に入った。
「ヨダレが出たか?」
『馬鹿言ってないでさっさと歩け。
存在が通行人の邪魔になる』
「ひでえ!」
段々と返しが手慣れてきてやがる。
『ん?待て。
何か通りの向こうが騒がしくないか?』
「あ?ほんとだ。
人だかりができてるな。
大道芸でもやってるのか?」
『どちらかと言えば広場でやるものだろう、それは。
野次を飛ばしている人間もいるな。
十中八九何かのトラブルだろう』
「どれどれ?」
駆け寄って人波の後ろから様子を伺ってみる。
輪の中央には二人の男と一人の女が立っていて、確かに険悪な雰囲気で睨みあっていた。
お互い今にも腰の剣を抜きそうだ。
『「ようやく見つけたぞこのアマ」
「大恥かかせてくれやがって!
絶対にただじゃおかねぇ」
……見事なチンピラのセリフ回しだな』
「へぇ、じゃあ女の方が巻き込まれ系か?
まあどう見てもそうだけど、男は見た目もチンピラだし。
ていうか助けに入った方がよくねぇか?
女相手に二対一だぞ?」
『そうしたいなら止めはせんが、丸腰でか?
それとも街中で私を召喚するつもりか?
目立つぞ』
「目立たないようにできないのか」
『ある程度は可能だが、これだけ人がいれば、剣が急に手の中に現れたら気付く人間もいるだろう』
「誰も俺らのことなんぞ見てねえよいくぞ」
『あ。おい』




