表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄は全国同時生配信でした~公開処刑のはずが、処刑されたのは王子の名声でした~  作者: カルラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/19

第九章 聖女の決定的証言

次の開廷までの数日間、王城は水面下で慌ただしく動いていた。

アルフレッド様からの報告は、日を追うごとに具体性を増していく。

宰相邸に出入りする者たちの中に、アリア様の実家と縁のある商人がいたことも分かってきた。

偶然と呼ぶには、あまりにも出来過ぎている。

それでも、今はまだ確たる証拠が足りない。

焦らず、一つずつ積み上げていくしかない。

この数日、私は父の書斎に籠もり、神殿関連の記録を洗い直していた。

その中で、一つ気になる記述を見つけた。

半年前、大聖堂の礼拝堂で小さな火災があり、しばらく閉鎖されていたという記録だ。

もし、これが事実であれば。

アリア様が語った教会での一件そのものが、根底から崩れることになる。

当日の謁見の間には、これまで以上に重い空気が漂っている。

国王陛下が、静かに開廷を告げる。

 

「本日をもって、証言に関する審議を終える予定である」

 

その言葉に、アリア様の顔が強張る。

これが、最後の機会だと悟ったのだろう。

彼女は、これまでとは違う、切羽詰まった表情で顔を上げる。

 

「お待ちください!」

 

突然の声に、会場中の視線が集まる。

 

「教会での一件だけは、本当のことです!」

 

「私は、あの日、教会にいました!」

 

「あれだけは本当に真実だったのです!」

 

悲痛な叫びが、謁見の間に響き渡る。

これまでの涙とは違う、追い詰められた者の必死さがそこにはあった。

一瞬、会場の空気が揺れる。

ここまで断言するのだから、本当なのではないかと、そう思う者もいたのかもしれない。

三つの証言のうち二つがすでに崩れた今、彼女にとって、これが最後の砦だったのだろう。

私は、静かにアリア様を見つめる。

そして、懐から一枚の書状を取り出す。

 

「アリア様」

 

「その日、教会は閉鎖されていたはずです」

 

会場が、一瞬静まり返る。

 

「半年前の記録によれば、礼拝堂で小火が発生し、修復のため、しばらくの間、教会は閉鎖されていました」

 

アリア様の顔から、みるみる血の気が引いていく。

 

「そ、それは……別の教会のことでは……」

 

声が、明らかに震えている。

私は、静かに首を振る。

 

「王都の大聖堂は、一つしかございません」

 

会場に、重い沈黙が落ちる。

私は、国王陛下へ向き直る。

 

「畏れながら、この場に神官長様をお呼びし、確認をお願いしたく存じます」

 

国王陛下が、静かに頷く。

衛兵に案内され、白い法衣をまとった老齢の神官長が、謁見の間へと入ってくる。

その佇まいだけで、会場の空気がさらに引き締まる。

神殿における最高位の一人であり、これまで表舞台に立つことのなかった人物だ。

その存在感だけで、会場の誰もが自然と背筋を伸ばす。

私は、静かに問いかける。

 

「神官長様、半年前のあの時期、大聖堂は閉鎖されていたと伺っておりますが、事実でしょうか」

 

神官長は、静かに、けれどはっきりと答える。

 

「はい」

 

たった一言。

けれど、その一言が、謁見の間の空気を完全に凍りつかせる。

誰も、声を発することができない。

神官長は、さらに続ける。

 

「修復のため、一月ほどの間、一般の立ち入りを禁じておりました」

 

「その間、礼拝堂に人の出入りは一切ございませんでした」

 

会場の誰もが、その言葉の重みを噛みしめるように黙り込んでいる。

アリア様は、その場に崩れ落ちるように膝をつく。

もはや、言い訳の言葉すら出てこないようだった。

全国の視聴者たちも、この瞬間を見ているはずだ。

コメント欄がどうなっているか、想像するまでもない。

 

「終わった」

 

たった一言の、けれど誰もが同じ思いを抱いているであろう言葉が、全国の画面を埋め尽くしている光景が目に浮かぶ。

これまで彼女を信じ続けていた者たちでさえ、もはや何も言えずにいるだろう。

国王陛下が、重々しく口を開く。

 

「アリア・フェルミナ」

 

「これまでの証言は、そのすべてが偽りであったと認めるか」

 

アリア様は、しばらく答えられずにいる。

やがて、消え入りそうな声で、ぽつりと呟く。

 

「……はい」

 

その一言に、会場が大きくどよめく。

三か月にわたる裁判の末、ようやく本人の口から真実が語られた瞬間だった。

けれど、私の中に、勝利の高揚感はほとんどない。

むしろ、これからが本番だという緊張感の方が強い。

なぜならこれほど大胆な偽証を、彼女一人が企てたとは思えないからだ。

国王陛下が、静かに私へ視線を向ける。

 

「セリーヌ、続けるべきことがあるようだな」

 

私は、静かに頷く。

 

「はい。この嘘を、誰が仕組んだのか。それを明らかにする必要がございます」

 

レオン様は、青ざめた顔で立ち尽くしたまま、動けずにいる。

王妃マリア様は、静かに涙を拭っている。

かつて我が子の婚約者として選んだ相手が、これほどまで真実を貫くとは、思ってもみなかったのかもしれない。

宰相グレゴール様だけが、依然として穏やかな表情を崩さずにいる。

その静けさが、もはや不気味にすら感じられる。

国王陛下が、重い声で告げる。

 

「よかろう。次回、その背景についても審議する」

 

会場を出ながら、私は静かに息をつく。

三つの嘘は、すべて崩れた。

三か月にわたる長い戦いの、一つの区切りだった。

それでも、心の中で何かを祝う余裕はまだない。

控えの間で待っていたリズが、そっと肩に触れてくる。

 

「セリーヌ様、本当に、お疲れ様でした」

 

その優しい声に、張り詰めていたものが、少しだけ緩む。

 

「ありがとう、リズ」

 

「でも、まだ終わっていないの」

 

リズは、少し驚いた顔をした後、静かに頷く。

本当の戦いは、まだこれからだ。

誰が、何のために、これほど周到な筋書きを描いたのか。

その答えを暴くまで、私は歩みを止めるつもりはなかった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ