表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄は全国同時生配信でした~公開処刑のはずが、処刑されたのは王子の名声でした~  作者: カルラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/19

第十九章 祝福の配信

あの婚約破棄の夜から、一年が経った。

王都では今、私とクリストファー様の結婚式の準備が進められている。

今度の配信は、裁判のためのものではない。

祝福のための配信だ。

この一年の間、私たちはゆっくりと、けれど確かに、お互いを知る時間を重ねてきた。

焦らず、飾らず、ただ誠実に向き合い続けてくれた彼に、いつしか私は、心から寄り添いたいと思うようになっていた。

式の当日、王家の鏡は、あの日と同じように起動する。

映し出される先も、あの日と同じ、王都中の酒場、広場、そして各家庭の居間だった。

一年前、あの場所には、私を非難する言葉が溢れていた。

今日、そこに集う人々は、あの日とは違う表情を浮かべているのだという。

式に向かう馬車の中、アルフレッド様から届いた報告書に、そっと目を通す。

かつて「また王子やらかした!」と書き込んでいたパン屋のおばさんは、広場の魔導スクリーンの前で、こう呟いていたそうだ。

 

「今度は、泣いてもいい涙だねぇ」

 

契約書の条文を諳んじていた法律オタクの学生は、酒場の隅で、感慨深げにこう語っていたという。

 

「あの日の令嬢とはまた違う美しさがあるなあ」

 

そして、手のひらを返すことで知られていたあの酒場のおじさんは、少し照れくさそうに、こう漏らしていたらしい。

 

「最初は……その、悪役令嬢だと思ってたんだよな……」

 

その一言に、周囲の常連たちがどっと笑ったのだと、報告書には記されている。

皆、笑いながら、あの騒動を懐かしむように振り返っているのだという。

王都の大聖堂には、国内外から多くの賓客が集まっていた。

国王陛下、王妃マリア様、そして父の姿もある。

侍女のリズは、控えの間で、私のドレスを整えながら、目に涙を浮かべていた。

 

「セリーヌ様、本当に、おめでとうございます」

 

その声に、私は静かに微笑む。

 

「ありがとう、リズ。ここまで支えてくれて、本当に感謝しているわ」

 

純白のドレスに身を包み、私は静かに祭壇へと向かう。

クリストファー様が、穏やかな笑みで待っていてくれる。

誓いの言葉が、大聖堂に静かに響く。

 

「私は、生涯あなたの一番の理解者であり続けます」

 

その言葉に、迷いは一つもなかった。

私も、静かに、けれどはっきりと答える。

 

「私はもう、一人ではありません」

 

短い、それだけの言葉。

けれど、そこに込めた思いは、これまでの一年間のすべてを物語っていた。

式が、静かに終わる。

大聖堂を出ると、王家の鏡に映る全国のコメント欄は、もはや文字が読み取れないほどの勢いで流れていた。

 

「おめでとう!」

 

「幸せになって!」

 

「歴史に残る結婚式!」

 

「最初から見てた!」

 

「泣いた!」

 

一年前、同じ画面には、まったく違う言葉が溢れていた。

「悪役令嬢!」「聖女様かわいそう!」と、私を断じる声が、あの日を埋め尽くしていたはずだ。

それが今、同じ人々の手によって、まったく違う言葉へと姿を変えている。

 

「最初は疑ってごめんなさい」

 

「真実を話してくれてありがとう」

 

「あなたが未来の王妃でよかった」

 

そんな謝罪と祝福の言葉が、次々と画面を流れていく。

私は、それらの言葉を、静かに見つめる。

かつて、根拠のない非難を浴びせられた夜のことを、忘れたわけではない。

それでも、今この瞬間、誰かを責める気持ちは、不思議なほど湧いてこなかった。

人は、時に間違え、時に流され、そして、時には自ら過ちに気づき、詫びることもできる。

その事実の方が、今の私には、ずっと大切に思えた。

かつて「冷たい女」と呼ばれていた自分が、こうして多くの祝福に包まれている。

その事実だけでも、この一年がどれほど大きく世界を変えたか、静かに物語っているように思えた。

私は、ただ静かに、笑みを浮かべる。

クリストファー様が、そっと隣に寄り添ってくれる。

王家の鏡が、最後にもう一度、私の姿を大きく映し出す。

私は、カメラの向こうにいる、すべての人々に向けて、静かに語りかける。

 

「一年前、この配信は私からすべてを奪いました」

 

少しの間を置いて、続ける。

 

「でも今日は、この配信が私に新しい人生を届けてくれました」

 

その言葉に、コメント欄が、一段と大きく揺れ動く。

王鏡の映像が、ゆっくりと空へと立ち昇っていく。

光の粒となったその映像は、王都の空いっぱいに広がり、まるで祝福の花びらのように、静かに舞い落ちていく。

国中を包む歓声と、止めどなく流れる祝福のコメントに見守られながら。

私の物語は、ここに、穏やかな幕を下ろす。

 

終幕








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ