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婚約破棄は全国同時生配信でした~公開処刑のはずが、処刑されたのは王子の名声でした~  作者: カルラ


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第十一章 配信停止命令

次の開廷までの間、アルフレッド様の調査は、さらに核心へと迫っていた。

宰相邸に頻繁に出入りしていた人物は、神殿の会計を担う下級神官だと判明する。

その神官の口座には、説明のつかない多額の金銭が流れ込んでいた。

証拠は、確実に積み上がりつつある。

一つひとつの点が、少しずつ線としてつながり始めている。

それでも、宰相グレゴール様本人に直接繋がる証拠までは、まだ手にしていない。

慎重に、けれど着実に、包囲を狭めていくしかない。

当日の謁見の間には、これまでにない張り詰めた空気が満ちている。

国王陛下が、静かに開廷を告げる。

 

「本日は、これまでの調査結果について報告を受ける」

 

私は、静かに一歩前へ出る。

 

「宰相府と神殿との間に、不自然な金銭のやり取りがあったことが判明いたしました」

 

その一言に、会場が大きくざわめく。

私は、さらに続ける。

 

「この一件について、神殿の会計を担う神官への聴取を要請いたします」

 

国王陛下が、重々しく頷く。

 

「許可する」

 

その瞬間だった。

レオン様が、突然立ち上がる。

その顔は、これまで見たことのないほど、青白く強張っている。

 

「配信を止めろ!」

 

会場中の視線が、一斉にレオン様へと集まる。

 

「これ以上、恥を晒すつもりか!」

 

「今すぐ、鏡を止めるのだ!」

 

悲鳴のような叫びが、謁見の間に響き渡る。

誰もが、その豹変ぶりに驚きを隠せずにいる。

王家の鏡の管理を任されているノア様が、静かに一歩前へ出る。

これまで、どんな騒動の最中でも動じることのなかった彼が、今、初めてはっきりとした態度で口を開く。

日頃から「放送は絶対に止められません」とだけ繰り返してきた、その言葉の重みが、今この瞬間、本当の意味を持ち始める。

 

「レオン殿下、恐れながら」

 

「王家の儀式配信は、開始から終了まで、途中で停止することはできません」

 

その言葉に、レオン様は苛立たしげに詰め寄る。

 

「規則など、今はどうでもいい!私が止めろと言っているのだ!」

 

ノア様は、それでも静かに、けれど毅然として答える。

 

「王命であっても、この規則だけは、覆すことができません」

 

「王家の鏡は、王家自身の言葉に対しても、公平でなければならないからです」

 

会場が、しんと静まり返る。

誰も、その言葉に何も返せずにいる。

国王陛下が、静かに、けれど重い声で告げる。

 

「レオン、控えよ」

 

「この制度を作ったのは、他ならぬ私自身だ」

 

「お前が、それを覆すことは許さぬ」

 

レオン様は、なおも何か言いかけるが、言葉にならない。

やがて、その場に崩れるように座り込む。

この光景もまた、全国の魔導スクリーンに、余すことなく届けられているはずだ。

王太子自らが、配信を止めろと叫んだという事実。

それは、これまでのどの証言よりも雄弁に、彼の焦りを物語っていた。

全国の視聴者たちの反応が、容易に想像できる。

隠したいことがあるからこそ、止めようとしたのだと、誰もがそう受け取るだろう。

そして、規則を貫いたノア様の姿勢に、多くの喝采が送られているに違いない。

会場に、控えめながらも、確かな拍手が広がり始める。

最初は数人だったそれが、やがて、謁見の間全体を包むほどの拍手へと変わっていく。

公正さを貫いた一人の技師に対する、ごく自然な敬意の表れだった。

ノア様は、いつも通りの淡々とした表情のまま、静かに一礼するだけだった。

目立つことを望まない、その姿勢もまた、彼らしいと言えば彼らしい。

国王陛下が、静かに告げる。

 

「本日はここまでとする。次回、神官への聴取を行う」

 

会場を出ながら、私は静かに息をつく。

レオン様の叫びが、かえって彼自身の立場をさらに危うくした。

感情のままに動くことの代償を、彼はまだ、理解しきれていないのかもしれない。

かつて剣術に優れていた彼は、正面から立ち向かうことしか知らないのだろう。

けれど、この裁判という戦場では、力ではなく、冷静さこそが武器になる。

控えの間で、リズが心配そうに尋ねてくる。

 

「セリーヌ様、レオン様、あんなに取り乱して……大丈夫でしょうか」

 

その問いに、私は静かに答える。

 

「分からないわ。でも、今の私にできることは、真実を明らかにすることだけよ」

 

リズは、静かに頷く。

窓の外を見ると、いつの間にか夕暮れが近づいていた。

橙色の光が、謁見の間の廊下を静かに染めている。

真実に近づくほど、抗おうとする力も強くなる。

それでも、ここで止まるわけにはいかない。













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