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パープル・グラスシーリング  作者: 綾沢 深乃
「第2章 思い出探索」

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「第2章 思い出探索」(1-1)

(1-1)


 あの日を境に直人は頻繁に彼女の夢を見るようになった。


 全く同じ夢を見るという事はないが、前回に見た夢の続き、もしくは別の展開の夢を見る日々が続いた。


 夢を見ている最中は、それが夢だと把握しているのに自分の意志で体が動かず、起きてから後悔だけが残る。

 自分の疲労度とは無関係に一週間に最低でも二回、多い時で四回程見てしまう。


 そこまで頻繁に同じ夢を見ていると、一般的な考えとして嫌悪を抱くのが普通だろう。だが不思議な事に直人は、嫌悪を抱いた事は一度もなかった。



「――直人君はさ、大学を卒業したらどうなりたいとか考えた事ある?」



「……んっ、」


 ゆっくりと直人は目を開く。カーテンの隙間から差し込む朝の太陽光が薄暗い部屋を微かに照らしていた。


 アラームは鳴っていない。今、何時?


 直人は枕元にあるiPhoneに手を伸ばす。


「んんっ、」


 すると、隣で寝返りを打つ晴香がいた。彼女は規則正しい寝息を立てて、眠っていた。


 そうか、今日は土曜日。


 いつものように晴香が泊まりに来てくれたのだ。

 月初は割と時間に余裕があるので、早めに帰る事が出来た。彼女もそれを分かってくれているので、昨夜はこの部屋で一緒にご飯を食べた。


 メニューはカレーとサラダ。カレーは晴香なりの拘りがあって、何回か食べているが回を重ねるごとに美味しくなっている。


 そしてカレーを用意してくれた翌日は、昼まで寝て、起きたら昨日のカレーの残りを食べる。

 それが晴香がカレーを作ってくれた日の習慣だった。


 隣で眠っている晴香を起こさないようにiPhoneを取り時間を確認する。


 時間は午前六時。土曜日にしては大分早い。たまにある土曜出勤の日だって、あと一時間は眠っている。


 かと言って、二度寝が出来る程の目覚め具合ではない。仕方なく直人はiPhoneで適当に時間を潰そうとする。その時にふと、ブラウザアプリを開いて、よく夢に出てくる当時通っていた喫茶店を検索した。


 最後に行ったのは、高校生の頃。年月が大分経過していたけど、どうやらまだ営業しているようで、表示された店の外観に当時の思い出が一気に心の内側から湧き上がる。


 そうだこの喫茶店だ。名前はグリーンドア。書かれていた名前を読んだ時、直人の中で埋まっていた何かが浮上する。

 今の今まですっかり忘れていた。


 三ノ宮にあり高校の帰り道によく通ったものだ。外観だけでなく、店内写真も見ようとiPhoneの画面をタップする。


 暖かみがある木製のカウンターと奥にあるテーブル席とソファ席。本当に当時と何も変わっていない。


 撮影日が今年となっているけど、あの日に撮ったと言われても信じてしまう。


 何枚か店内写真を見てから、レビューを読んだ。


 書かれているのは、どれも高評価でコーヒーが美味しい事、そして店内の雰囲気も良い事。女性店員さんも優しくて、居心地がいいと書かれている。


 女性店員、そうだ。高校生の頃にも通っていた店員と同じだろう。

 確か、名前は――、直人は記憶を掘り起こして、彼女の名前を思い出す。


 山科 香夏子さんだ。まるで、こちらが思い出そうするのを待っていたかのように名前を思い出すと、同時にその姿がも思い出せた。


 落ち着いた茶髪の髪は、少しパーマがかかっており、それをよく後ろで束ねていた。黒いメガネを掛けていて、落ち着いた雰囲気を纏っている。


 勉強も出来て、よく宿題を持ち込んでは教えてもらっていた。

 香夏子の教え方はとても上手で、ただ答えだけを教えるのではなく、考え方を教えてくれた。その教え方の上手さから過去に教師の経験があるのかと尋ねた事がある。


 その時は、経験はないけど目指していた時期があると答えていた。学校の先生よりも遥かに教え方が上手な香夏子が、経験がないと知って当時の自分は驚いたものだ。


「香夏子さん、今からでも全然目指せるよ。だって学校の先生よりも全然教えるの上手だもん。俺が保証する」


「本当? ありがとう横溝君。先生かー、今からでも頑張っちゃおうかなー。」


 高校生の直人の保証なんて何の効力もない。それでも香夏子は嬉しそうに笑顔で礼を言っていた。今ならあの歳から教師を目指すという事が、どれだけ大変なのか理解出来る。



「――確かに。香夏子さんは教えるの上手。私の学校にも香夏子さんみたいな先生がいてくれたら嬉しかったなぁ。」



 脳裏に彼女の言葉が再生された。

 それも夢の続きではない。本当に香夏子との思い出から出てきた言葉だ。


 そこには確かに彼女がいた。再生された声を聞いて直人は鳥肌が立つ。


 もっと彼女の事を知りたい。その為には、どうすれば良いのか。


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