「第2章 思い出探索」(1-2)
(1-2)
隣で眠っていた晴香がモゾモゾと動いて、ゆっくりと目を開いた。彼女の表情は起き抜けでボンヤリとしている。
その目でこちらを見ると、彼女はにっこりと笑顔になった。
「おはよう。起きてたんだ直人くん、早起きだね」
「おはよう。いや、俺が変に速く目が覚めちゃっただけ。二度寝するのもあれだから、適当にiPhoneで遊んでた。起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。ぐっすり眠れたよ」
「それなら良かった」
「えっと、今って何時?」
晴香に聞かれて直人は、iPhoneで時間を確認する。
「午前七時を過ぎたあたり」
直人が時間を伝えると、晴香は小さく口を開けて驚いた。
「うわっ、早いね」
「そうだな。どうする? 二度寝したい? 土曜日だし、晴香が寝たいなら全然構わないけど」
「うーん。直人くんはどうする?」
「俺? 俺は起きるつもり。晴香を起こさないように大人しくしてるよ」
晴香に聞かれて、直人は微かに焦りつつそう答えた。何故なら彼は彼女が再び眠ったら、再度グリーンドアの事を調べようと考えていたからだ。
別に悪い事でも何でもないのに。
「それなら私も起きようかな。直人くんだけ起きたまま私が二度寝してもつまらないでしょ?」
「……ああ、うん。ありがとう」
「どういたしまして」
晴香は体を起こすと、「う〜ん」とその場で大きく伸びをした。
「土曜日に早起きするのって久しぶり。得した気分になっちゃうね」
「あぁ。確かに」
先週は土曜出勤だったのでそんなに久しぶりでもない。
だが、その事を口にしてもしょうがないので、晴香に同意しておく。
こちらの同意にニッコリと笑って、彼女はベッドから起き上がった。
「シャワー浴びてくるね」
「どーぞ」
直人がそう言うと、晴香が振り返って首を傾げる。
「どうする? 一緒に入る?」
「いいよ、ゆっくり入っておいで。何ならお湯張ってもいいから」
「りょーかい。じゃあ、湯船溜めちゃおっと。朝風呂だぁ」
もっともらしい理由を付けて晴香との風呂を断る。
晴香が脱衣所へと向かったので、直人もベッドから出た。
大きく伸びをしてから、カーテンを開く。太陽光が一気に部屋に入り込んできて、一日の始まりを教えてくれた。
ベランダの窓を開けると、そこから夏の陽気と蝉の鳴き声が入ってくる。
風呂場から浴槽にお湯を溜め始めた音が聞こえてきたので、直人は、そのタイミングで併設されている洗面所へ向かう。
磨りガラスの向こうから晴香の上機嫌な鼻歌が聞こえてくるのを余所に歯ブラシを終えて、リビングへ戻る。開けていたベランダの窓を閉めて、エアコンのスイッチを入れた。
涼しいクーラーの冷気が部屋中に行き渡る。ベッドを整えて、デスクに座りスリープ状態だったMacBookにログインする。iPhoneで調べるよりもこちらの方が速い。
直人は、グリーンドアの現状を知るべく検索をかけた。iPhoneの小さな画面以上の情報が多く入ってきて、それらを一つずつ確認する。
店の場所も名前も変わっていない。書かれている最新のレビューから香夏子もまだ働いている事だろう。っとなれば、実際に行くのが早いか。
もちろん一人で、誰にも言わずにである。
一度決めてしまうと、心がスッと軽くなった気がした。逆にどうして今までもっと早く決めなかったのだろうと不思議なくらいだ。
「ふぅ、」
あらかたグリーンドアの情報を調べた直人は、トラックパッドから手を離して、視線を窓の外にズラす。自分はあれから随分と歳を重ねた。
大学を機に東京に出てきて、そのままこっちで就職して彼女までいる。高校生の自分に比べたら、自由に使えるお金だってそれなりにある。
だけど夢の中の自分は高校生のままだ。
一体、これがどういう意味なのか。
どうして今になって彼女の夢を見始めたのか。
そして彼女は誰なのか。
考えれば考える程、疑問が湧き出てくるが、今はどうしようもない。
次の週末にグリーンドアに行き、香夏子に話を聞く。それで少しは進展する。
「ふぅ、」
直人は再度息を吐くと、ブラウザを閉じて立ち上がった。
脱衣所へ向かうと、まだ晴香がお風呂に入っているようだった。磨りガラス越しに彼女に話し掛ける。
「晴香〜?」
「んー? どうしたの?」
「やっぱり、俺も一緒に入っていい?」
直人がそう尋ねると、磨りガラスの向こうから、「どうぞ〜」と明るい声が返ってきた。
「ありがとう」
晴香からの許可を得た事で直人は、部屋着を脱いで、そのまま洗濯機へと入れる。ついでに洗剤と柔軟剤を入れて、スイッチも入れておいた。
これで出た時には洗濯が終わっている。せっかくの早起きだ、有効に使わないと勿体ない。
洗濯機内に水が出て、洗い始めたのを確認してから、直人はドアを開けて、お風呂に入っていった。




