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パープル・グラスシーリング  作者: 綾沢 深乃
「第1章 遠い夢からの声」

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「第1章 遠い夢からの声」(3-1)

(3-1)


 午前中の業務を終えた直人は、お昼休みを終えて会社へと戻ってきた。


 午後は近所のラーメン屋で済ませてから、帰り際に自動販売機で缶コーヒーを購入した。


 デスクに座った直人は缶コーヒーを開けた。

 午前と午後の仕事始めには、コーヒーを飲む。そうする事で頭が仕事モードへと切り替わり集中出来る。長年、会社員として働いている中で彼なりに見つけたスイッチの切り替え方だった。


 スリープ状態だったパソコンを起動させて、一時間ぶりに見る画面を確認する。Outlookを開いて、新たなメールが届いていないか受信メールを更新。どうやら野口から一件、届いている程度で残りは重要度の低い社内共有のメールだった。


 直人は野口からのメール(今朝とは違う単なる進捗確認)に返事を書いてから、例の三人の下へと向かう。今朝以来、ずっと話していない。


 彼女達の進捗を確認したいし、可能なら追加で資料を渡しておきたいところだ。


 まだ微かに昼休みの空気が残るフロアで直人は「お疲れ様です」と彼女達に声を掛ける。彼が来た事で三人はまた今朝と同様にこちらを向いた。


「江口さん、進捗はどうですか?」


 最初に一番仕事が進んでいるであろう江口に声を掛けた。


 聞かれる事をすでに想定しているのか江口は、午前中に終わると言っていた図面を畳んで、直人に渡してくる。


「朝、話した通り午前中に作業は終わりました。疑問点はないですけど、確認をお願いします。あと、調査班に聞いた方がいいと思う箇所には付箋を貼っています」


「ありがとうございます。後で確認します」


 江口の丁寧な仕事ぶりには本当に感謝しかない。彼女の資料を受け取ってから、直人は持ってきていた新たな図面を渡す。


「午後の分としてこちらをお願いします。少しややこしいかも知れないです。今日中に終わらなかったら、明日の午前中いっぱいでも全然大丈夫ですので」


「分かりました」


 江口は直人から何枚かの図面を受け取ると、早速開いて難易度を確認していた。彼女程の技量があれば、ザッと見たぐらいでどれくらいで終わるのかの目処が付けられる。


 直人の読み通り、図面を見終わった江口は、こちらに向かって「そうですね。明日の午前中には何とか終わると思います」と答えた。


「了解です。何かあったら、また言って下さい」


 直人がそう答えると、「はい」と答えて早速作業に取り掛かった。三人の中で一番、仕事が出来る江口だからこそ、二人より少々難しい図面を渡している。


 本当は三人均等に渡したいのだが、仕事である以上、そうも言っていられない。

 幸い、江口本人から不満はまだ出ていないが、いつか出るのではないかとヒヤヒヤしている。


 江口への指示を終わらせると、次は残り二人の確認だ。

 まずは高木から声を掛ける。


「高木さんの進捗はどんな感じですか?」


「すいません、ちょっとまだ終わらない感じで……」


 直人が尋ねると、高木は肩を落として申し訳なさそうな声でそう答えてきた。そこまで落ち込まなくても大丈夫だと咄嗟に答えそうになったが、すんでのところで抑える。


「ちょっと見せて貰ってもいいですか?」


「はい、どうぞ」


 直人は高木の図面を開いて進捗状況をチェックする。全体の進捗はおおよそ、七割といったところ。このレベルなら許容範囲内だ。


「大丈夫です。このまま作業を続けて下さい。えっと、多分定時までには終わると思うので、終わったら一回、声を掛けてもらってもいいですか?」


「分かりました」


 これで江口と高木に関してはクリア。残るはあと一人。


 直人は佐原の方を向いて「佐原さんはどうでしょうか?」と進捗を尋ねた。


「はい! 終わりました! 確認をお願いします!」


 佐原は待ってましたと言わんばかりの笑顔で折り畳まれた図面を渡してきた。


「ありがとうございます」


 佐原から受け取った図面には付箋が貼られている。その量は江口よりも多い。直人が何か言葉を発する前に彼女の方から口を開いた。


「朝に聞いたところ以外で分からないところには付箋を貼りました」


「了解です、確認しておきますね。あと、これは午後の分です」


 直人は佐原に新しい図面を渡す。ココのやり取りはなるべく手早く終わらせたい。それは隣の江口から発せられる無言の圧力のせいだ。


 江口は今朝に聞いといて、また聞くのかと思っているのだ。

 元々、彼女は社員の手をあまり煩わせたくないという傾向がある。それは本人が準社員という立場からなのかも知れないし、単に性格なのかも知れない。


 その気持ちは非常に有り難いのだが、人それぞれ理解度が違うので佐原のやり方に悪感情は持たないでほしい。

 まぁ、態度には出ているが口に出さないだけマシだ。


「分かりました。頑張ります」


「お願いします」


 三人に午後の仕事の配分を済ませた直人は、自分のデスクへと戻っていった。イスに座って一息つくと、缶コーヒーを一口。


 そしてパソコンに向かい仕事を進めようとする。

 そこでモニターに付箋が貼られていた事に気付いた。


『AKテクノロジー 野口様よりお電話有。折り返し希望との事 麻野』


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