「第3章 変化していく世界」(1-2)
(1-2)
二人は東海道新幹線の改札口まで歩く。
帰りの切符は既に自由席を購入している為、購入は不要との事だった。
切符を片手に歩くあゆみに直人は「ねぇ」と声を掛ける。
「あゆみさんはこのまま帰るの? せっかく東京に来たんだから。どこか行きたい場所とかある?」
彼女ぐらいの高校生が東京に来たら、色々と遊びたいのではないか。少なくとも自分が高校生だったら、絶対に何処かに寄り道してから帰っただろう。
だがあゆみにはそんな気配は微塵も感じられない。既に何処かに行った後、というのも考えられるが、持ち物はスクールバッグだけ。本当に学校の帰りに直接来たという印象だった。
直人の質問にあゆみは、納得したように「あー、」と声を出した。
「いいんです。ちょっと前にも友達と来ましたから。それにやっぱり姉の事が心配なので」
「……そうだよね、ゴメン。変な事を聞いた」
無神経な事を聞いてしまった。直人が謝罪するとあゆみは首を振る。
「いいえ。私も今日行く時は何処かに行こうって考えてました。けど次の機会にします」
「もし良かったら、今度来る時には連絡してくれ。これでも東京暮らしはそこそこ長いから色々案内出来ると思う」
「ありがとうございます。その時は宜しくお願いします。今日は本当にありがとうございました」
「礼の言うのはこっちだよ。わざわざ東京まで説明にしに来てくれてありがとう。何かあったらいつでも連絡して」
「はい。では、失礼します」
あゆみは笑顔でそう言って、改札を通っていった。通ってから一度こちらを振り返り、頭を下げてくる。それに手を振って答えた。彼女はそのままエスカレーターに乗り、ホームに上がったので直人も反転してその場から離れた。
時刻は午後六時を過ぎたところ。
さて、これからどうしようか。
直人の頭の中でこれからの予定を考える。居酒屋は予約しているが、あれはさやか用に予約した店だ。流石に制服姿の女子高生を連れて、個室居酒屋に入る勇気はなかったので、誘わなかった。
直人はその場でしばらく考えて、iPhoneを取り出して晴香に電話を掛ける。
「もしもーし。直人君? どうかした〜?」
「実はさ、仕事が早めに終わったんだ。今、東京駅にいるんだけど良かったら晩御飯一緒に外で食べないか?」
晴香には仕事が早く終わって時間が出来た風を装った。直人は彼女の予定を聞いていないのでダメだったら、大人しく諦めてお店にはキャンセル料を支払うつもりだった。
「いいよ〜。丁度、家でゴロゴロしてたから」
「良かった、じゃあ午後六時四十五分頃に東京駅に来れる?」
「うん。でも何を食べに行くか決めてるの?」
「えっと、実は個室居酒屋を予約してるんだよね」
変に取り繕うよりも素直に告白した方が得策だと考えて、直人は正直に伝えた。すると晴香は電話口の向こうで「ええっ!?」と驚いていた。
「今日、仕事終わりに晴香をご飯に誘えたらなって考えてて、こっそり予約してました。だから了承してくれて助かってるよ」
「もし、私が断っていたら?」
「その時は泣く泣くキャンセル料を支払う羽目になっていたかな。それか適当に他の誰かを誘ってたかも知れない」
我ながらよくスラスラと嘘がつけるものだと感心してしまう。その中に真実が少なからず混ざっているのでタチが悪い。
直人の話を聞いて、晴香は「なるほど〜。知らない間にサプライズを計画されていた訳だ」と言ってきた。その口調は嬉しそうだった。
「そういう事になるかな」
これには話しながらも直人の心情は痛みを訴えたが、知らないふりして晴香が話すサプライズという話に乗った。
「どんな店に連れてってくれるのか楽しみにしてる。東京駅に着いたらまた連絡するね」
「ああ。分かった」
無事に晴香と行く約束が出来て、彼女との通話が切れた。
残り時間は大体、四十分程度。
一旦、マンションまで帰ってもいいが、それだと滞在時間は三十分もない。だったら、時間まで東京駅まで待っていた方がいいか。それにやっておきたい事もある。
直人は先程、あゆみと話していたのと別の喫茶店へ。
中央通路にあるパン屋兼カフェまで歩いた。
店内には沢山のパンが並んでおり、小腹も空いたのでクロワッサンを一つと本日二杯目のホットのカフェ・ラテを持って、奥にあるテーブル席に座った。
本当はパソコンで調べたかったが、iPhoneしかないのでしょうがない。直人は早速ブラウザアプリを開いて、検索欄に忘望病と入力した。
果たして、どれくらいの検索結果が出るのか。緊張しながらも検索をかけると、想像よりも多くの結果が出た。自分が知らないだけで世間ではこの病気が認知されている事実を知った。
検索結果一覧から、病院のページにアクセスして、忘望病の概要を読んだ。
書かれている内容は僅かであゆみが話した事と同じだった。直人が知りたいのは、これ以上の情報である。
再び検索結果一覧に戻り、他のサイトはないかと巡回する。
その中で有志が作成したとされるWikiのページを見つけた。
どうやら当事者同士で積極的に情報交換をしているようだった。人々から忘れられしまう忘望病でもインターネット上では関係ない。
直人はwikiにアクセスして、書かれている情報を読んだ。
忘望病の基本的な説明から(病院の概要欄より詳しかった)家族・恋人が罹患してしまった場合の対処までかなり詳細に記載されていた。そこには皆で手を取り合って病気と戦っていこうとする強い意志を感じた。
直人はiPhoneが次第に熱くなっていくのも構わず、夢中になってページを読み漁った。家に帰ってからもすぐにパソコンから読めるようにwikiのページはブックマークしておく。
ブブブッッ。
Wikiのページを見ていると、振動と共に画面上部に晴香からのLINE通知が届いた。
『東京駅着いたよ〜。どこに行ったらいい?』
キョロキョロとこちらを探す猫のスタンプと一緒に送られてきたメッセージ。
ココまでか。
直人は小さくため息を吐いた。
ブラウザアプリを閉じるとLINEを開いて、晴香に連絡をした。
お互いの現在地を確認してこちらが彼女の下へ向かう事になった。
まだ半分残っていたカフェ・ラテを一気に飲み干して、直人は店を出た。




