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パープル・グラスシーリング  作者: 綾沢 深乃
「第2章 思い出探索」

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「第2章 思い出探索」(4-2)

(4-2)


「この店です。奥にはテーブル席もあるので」


「はい」


 二人はそのまま店内へと入った。この喫茶店には仕事の外回り中によく利用している。Wi-Fiも入るし奥のソファ席に座れば、通りを歩いている人間の目は気にならない。


 ただし今日は土曜日なので、席が空いているか不安があった。その場合は、また別の候補の店に行くしかない。

 心配しつつおそるおそる店内に入ると、奥のテーブル席は奇跡的に空いていた。


「良かった。空いてるみたいですね。奥どうぞ」


 直人は通路側の椅子に自分のトートバッグを置いて、奥のソファ席に彼女を座るよう促した。


「ありがとうございます」


 彼女は肩に掛けていたスクールバッグをソファ席の横に置いた。身軽になった二人は、レジへと向かう。


 レジ横に置かれたメニューから二人共、ホットのカフェ・ラテを注文した。店内は冷房が効いていたので、長時間話す可能性を考慮すると、ホットの方が都合が良かった。


 代金はこちらが払うと言ったが「大丈夫です。姉から貰っているので」と彼女は自身の財布を取り出して小銭を渡してきた。

 渡された小銭を無下にする事もせず、直人は受け取る事にした。

 注文した二人分のカフェ・ラテが載ったトレーを受け取り、テーブルへ向かう。途中で彼女に砂糖とミルクはいるかと尋ねると「大丈夫です」と首を振った。


 お互いに席に座り、まずは購入した飲み物を一口飲んだ。温かいカフェ・ラテの味が喉から全身に染み渡る。


 両者の間に僅かな沈黙が生まれた。


 直人には聞きたい質問が山のようにある。


 どうして、さやかが来られなくなったのか。


 来られないなら、連絡をしてくれるだけで構わないのに何故、妹が来るのか。


 そして妹は、今日話そうとしていた事をどれくらい知っているのか。


 どれから聞こうかと直人が悩んでいると、あゆみから口を開いた。


「横溝さんが聞きたい事は大よその見当が付きます。なので先に私から話しても宜しいでしょうか?」


 高校生にしては妙に大人びた口調であゆみがこちらの目を真っ直ぐと見つめて、聞いてきた。直人が緊張しながらもゆっくりと頷いた。


「ありがとうございます。それではまず確認なのですが、横溝さんは記憶がない友人の行方を追っている。という認識で合っていますか?」


「……あぁ、うん。そうなりますね」


 第三者にハッキリと言語化されると歯痒さを感じて、直人はつい曖昧な返事をしてしまった。


「そうですか。事前に姉から聞いていた話と同じです」


「それは良かったです」


「はい。そして、私は横溝さんが探している御友人の居場所も把握しています」


「えっ!? そうなんですかっ!?」


 突然のあゆみの口から出たまさかの情報につい大声が出てしまった。


 店内にいた客の視線を集めてしまう。それだけではなく目の前にいた彼女が体をビクッと震えさせてしまった。


「あっ、申し訳ない。大声を出してしまって……」


「いえ。驚くのも無理ないです。それよりも私に敬語を使うのを止めてもらってもいいですか?」


「えっと、」


 この歳になって普通は女子高生と話す機会なんない。また事情が事情だけにどうしても身構えて敬語になってしまう。


 そんな直人の心境を見透かしたようにあゆみが小さく息を吐いた。


「横溝さんの心情はお察ししますが、私としては歳上の男性に敬語でずっと話をされても困ります。それこそ姉の妹なので気さくに話して下さい」


「わ、分かった。じゃあ、ココからは敬語は抜きで」


 あゆみに押されるような形にはなったが、直人はそれを了承する。


「ありがとうございます。それでは本題ですね」


「あ、うん」


 思わず敬語が出そうになったのを直人は寸前で止めた。


「私は横溝さんが探している御友人に直接会った事はありません。だから、全部に姉から聞いた話になります」


「ああ」


 あゆみの話と聞いて、やはりさやかは覚えていた事を知る。その上でどういう経緯かは知らないけど、あの日は覚えていないと嘘をついていたのだ。


「この間、三宮の喫茶店で会った時は、アルバムの写真を見ても覚えていないと言っていた」


「らしいですね。姉から聞きました」


 あゆみは直人の疑問にあっさりと答えた。

 本人不在で種明かしをされてしまった。こちらが聞きたいのは、更にその動機なのだが、妹に話しているのか不明だった。

 直人がそう考えていると、彼女は言葉を続ける。


「あの時は香夏子さんを守る為に覚えていないふりをしたそうです」


「あー、そうだったのか」


 香夏子を守る為だと言われたら、直人はそれに従うしかない。さやかがついた嘘の動機としては最適解だった。


「本当は姉が今日、直接謝る予定だったそうです。だから代わりに私が謝ります。ごめんなさい」


 あゆみが直人に向かって頭を下げてきた。


「いや、大丈夫大丈夫。香夏子さんを守る為だったのなら、納得出来るから。詳細は分からないけど、立場が逆なら俺だって同じ事をしたと思うし」


「ありがとうございます。そう言ってもらえれて、姉も安心すると思います」


「うん。それでその守る為の嘘っていうのは」


「はい。姉が嘘をついたのは、御友人の現状が関係しているからです」


「現状?」


 直人の頭に疑問が浮かぶ。現状とは一体何を指しているのだろうか。もしかして、動けないような重い病気でも患っているのか?


 考えが顔に出てしまったようであゆみは小さく首を振った。


「安心して下さい。病気で動けない訳ではありません。普通に生活を送れています」


「そうか」


 取り敢えずの無事を聞いて自然と口から安堵の息が漏れた。


「ですが病気ではあります」


「……えっ?」


 安堵も束の間、さやかの病気という言葉に直人に緊張が走る。


「その病気ってお姉さんから教えて貰ってる?」


「はい。ですが、その前にまず御友人のお名前を先に伝えておきます。和倉 瑠奈さんというらしいです。現在は、神戸ではなく都内で暮らしています」


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