「第2章 思い出探索」(4-1)
(4-1)
さやかと別れてから二週間。直人は、ずっと約束の日を待ち続けていた。
仕事をしている時もそれは常に頭の片隅にそれは存在していたし、朝起きたらあと何日だと考える日々だった。
その日は、この間と同じく土曜日だった。
晴香には今週は土曜出勤が入ってたと伝えている。こういう事は過去にもあったのでこちらの言う事に彼女は何も疑う事なく、信じてくれた。
そして、とうとう約束の土曜日を迎えた。
直人は、晴香に怪しまれない為に土曜出勤日と同様にスーツを着ていた。ただ彼女は泊まりに来ていないので流石に朝はゆっくりしていた。
さやかとはLINEをやり取りを交わして、会うのは午後五時と決まる。
それまでに自分は用事を済ませるから、東京駅周辺で美味しい店を決めておいてほしいとの事。
直人はそれに了解と返して、以前に晴香と行った和食の個室居酒屋を用意していた。午後七時を予約している。
待ち合わせは東京駅構内にある書店だった。東海道新幹線側ではなく、丸ノ内坂エリアの書店が良いと判断したのは、店内がガヤガヤとしていないからすぐに見つけられるからだ。
向こうに決められた待ち合わせ時間は、食事までに余裕があるので、軽くお茶でもと考えていた。
東京駅構内には喫茶店なんて幾らでもある。
直人は、待ち合わせの時間十五分前には、書店に着ていた。駅構内の書店にしては広い方だが、店内を見回してもさやかの姿はない。
どうやらまだ彼女は来ていないようだ。
スーツのポケットからiPhoneを取り出した直人は、既に到着した旨をさやかに連絡しておこうと思ったが、急かすみたいで悪いかと、ポケットに戻した。
十五分ぐらい適当に店内を物色しているふりをして過ごせばいい。
直人がそう考えて小説の新刊コーナーを探したり、雑誌のコーナーを物色したりしていた。店内には人の流れから外れて、時折客が入ってくるが、さやかはまだ来ない。
サラリーマンや大学生風の客など、様々な客がやって来る。
腕時計で時間を確認すると、待ち合わせの時間が迫っている。そろそろやって来るかなと考えていると、丁度一人の客が入ってきた。
しかし、さやかではなくブレザーを着た制服姿の女子高生だった。
スクールバッグを肩に掛けているところを見るに土曜日も勉強のようだ。大変だな、今時の学生は。
直人は、さやかを待ちながら手に取っていた雑誌を読んでいた。すると、入ってきた女子高生は真っ直ぐと直人の方にやってきた。
「すいません」
女子高生は迷いなく、直人に向かって話し掛けてきた。
「はい?」
まさか話し掛けられるとは思っていなかったので、直人は若干上擦った声で返してしまった。道でも聞きたいのか? それだったら自分ではなくて駅の総合案内を紹介しよう。
そう考えて身構えていると、彼女がそっと口を開く。
「間違っていたらすいません。横溝 直人さんですか?」
「はっ? いや、はい。そうですけど……」
名前を呼ばれた事で道を尋ねたいという線が消えて、代わりに警戒心が一気に上がった。どうして俺の名前を知っているんだ?
警戒している直人に、女子高生は頭を下げた。
「私、滝沢 さやかの妹で、あゆみと言います。姉から今日の出来事を聞いて、神戸から来ました」
「あっ! 妹さん!」
自分から名乗ってくれた事で上がった警戒心が今度は一気に緩む。一度緩んで冷静になると、待ち合わせしているこの場所でピンポイントに自分の名前を知っている人間なんて一人しかいないか。と考えて拍子抜けする。
今日までのさやかとのやり取りで妹の存在は知らされていないが、本人がそう言っているのと、この場所を知っている時点でこれも信じる事にした。
「えっと、さやかさんは?」
「その話ですが、ココで話していてもお店に迷惑です。何処かに移動しませんか」
「……あっ、ああ、そうですね。すいません」
流れのままつい聞いてしまったが、妹を名乗る彼女の指摘はもっともだった。
「では近くの喫茶店に移動しましょう。でもその前に一冊、文庫本だけ買わせて下さい」
「分かりました」
流石に待ち合わせに利用して何も買わないのではお店に悪い。それに物色した時に過去に読んでいた好みの作家が新刊を出していた。
最近は仕事が忙しくて小説なんて久しく読めていないが、これを機会に読んでみようと思った。
「どうぞ。私はお店の外で待っていますね」
「すいません。すぐに済ませます」
直人は平積みになっている新刊コーナーから素早く本を取り、レジへと持っていく。会計を済ませて直人が書店を出ると、店の横に立っている彼女がいた。
「お待たせしました。行きましょう」
「はい」
直人は、彼女の少し前を歩いて、通りを挟んですぐの喫茶店に到着した。




