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パープル・グラスシーリング  作者: 綾沢 深乃
「第2章 思い出探索」

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「第2章 思い出探索」(2-2)

(2-2)


「なあに?」


 直人は話す前に小さく深呼吸をした。今日まで何度も脳内でシミュレーションをしたのにいざ話そうとすると、緊張してしまう。会社の面接や会議で話す時とは違う種類の緊張だった。


「……実は、ちょっと前から頻繁にある夢を見るんです」


「夢?」


 想像していなかった角度からの話だったようで香夏子が首を傾げる。


「はい。その夢の中では僕はまだ高校生でグリーンドアで勉強をしていました。それだけなら、ただの懐かしい昔の夢で終わるんですけど、そこに一人思い出せない人がいるんです。間違いなくグリーンドアで一緒に勉強していたはずなのに」


「うん」


 香夏子は直人の説明を聞いて、ゆっくりと頷く。


「女性だったのは覚えているんです。でもそれだけしか覚えてなくて、名前も顔も分かりません。声だって夢の中だから曖昧でハッキリしたものじゃない。それで、少しでも何か手掛かりがあればとココに来ました」


 直人は今日まで誰にも話した事のない胸の内を全て打ち明けた。香夏子は彼の言葉を聞いて腕を組み、何かを考えるようにしている。


「香夏子さんは、彼女について何か覚えていませんか? 正直、ココ数日は毎晩のように夢を見るんです。それが苦しくて……」


「なるほどね」


 軽くため息を吐いてから香夏子は言葉を零した。少なくとも同じ現場にいた彼女なら何か知っているのではないか。希望を抱いて次の言葉を待つ。


「私も直人君の話を聞いて、誰かいたかも知れないとはうっすらと思うけど、それが誰かまでは思い出せないや。……ゴメンね」


「そう、ですか」


 香夏子なら絶対を知っているという期待をしていたので、分からないと言われてしまうと、もうどうしようもない。


 年齢が近いかどうかすら分からない。例えば、実家に帰って卒業アルバムから、探そうとしても正解が判別出来ない。最悪、完全な別人を彼女だと認定してしまう事すらあり得ある。


 だからこそ、第三者からの正確な認識が欲しかった。その為にわざわざこの店まで来たのだ。

 しかし、香夏子が思い出せない以上、この話はココで潰える。

 

 そう考えていると、香夏子が「あっ、」と小さな声を上げた。


「ちょっと待ってて」


 それだけ直人に言い残すと、そのままフロア奥のドアを開けて、中に引っ込んでしまった。一体、どうしたのだろう? 言われた通りに待っていると、ドアを開けて香夏子が戻ってきた。


「これアルバム。もしかしたら、コレに写ってるかも知れない」


「えっ?」


 目の前に置かれたのは、〜2008とマジックで書かれたアルバムだった。写真を撮っていた? 全く覚えがないがもし、このアルバムに当時の景色が内包されているなら、是非とも確認したい。


「見せてもらってもいいですか?」


「勿論。一緒に見よう?」


 香夏子から了承を得て、二人はアルバムを広げてページを覗き込む。どうやら一年を通して撮られた写真が収められているようで、店の外観の景色が四季によって変わっていた。直人はこのお店は何も変わっていないと思っていたけど、写真を通して見ると、細部が結構変わっている。


 直人は一ページずつ丁寧に捲っていく。今のところ景色や香夏子とこの店の主人である純一郎の写真しかない。


 確かに当時自分が写真に撮られた記憶があまりない。


 写っていない可能性は充分にある。何とか見つかってほしい。そう願ってページを捲り続ける。そうして半分程進んだ時、そこに写った写真に手が止まった。


「あっ、俺だ」


 長方形の写真に写っている直人は笑顔でソファ席に座っている。高校の制服を着て、勉強をしているようだ。


 良かった、ちゃんと写っている。


 だが、肝心の彼女の写真はない。いや、テーブルには二人分の勉強道具がある。


 もしかしたらトイレか何かで席を外していて偶然、写っていないだけも知れない。


「あっ、直人君だ。わか〜い」


 一緒に写真を覗き込んで確認していた香夏子が写真に写る直人を見て、笑顔でそう言った。


「本当ですね、高校の制服姿が懐かしいな。でも彼女がいないですね。テーブルに広がってる二人分の勉強道具からこの店にいるのは間違いないと思うんですけど」


「本当だよね、次のページ捲ってみてよ。もしかしたらそこに写っているかも」


「はい」


 香夏子と同じ考えを抱きつつ、直人はアルバムを捲る。


 すると、そこに一人の女性が写っていた。


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