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初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第七章「カーネルパニック」

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第70話「【白】い同窓会」

同窓会当日、俺は同窓会の会場である丸の内の小洒落たバルに、受付開始の30分前には到着していた。


少しだけ早いのは分かっているが、初めて行く店で迷う訳にはいかないし、慌てるのも好きじゃない。


特に立食ビュッフェスタイルで貸切部屋、人数は30名くらいともなれば、初動が何より大事だ。


ビルの共用スペースにある鏡の前で立ち止まり、新調した白いジャケットの襟元を整える。


髪型に乱れがないことを確認してから、スマートフォンを取り出した。


画面に表示されるのは、参加表明をしてから何度も更新したメモ帳のデータ。


<同窓会準備メモ>と題されたメモを開き、内容を上から順番に確認していった。


そして、断片的な情報を整理しながら、頭の中で会話の流れを組み立てていく。


これでどんな会話になっても、雰囲気やテンションを管理できる。


そう考えるのは、ごく普通のことだと思い、スマートフォンを閉じる。


受付開始までは、まだ十五分ほどある。


俺は壁際に立ったまま、店の入口とエレベーターホールの両方が見える位置へ何気なく移動した。


受付開始の時間近くになると、懐かしい顔ぶれが次々と集まってきた。


「おー、佐藤!卒業以来じゃん!」


「全然変わらんなお前!今、何やってんの?」


地元を離れて数年、久々に顔を突き合わせた連中は、少し太っていたり、逆に痩せていたり、垢抜けていたり、皆学生時代とは違う顔になっていた。


「今、KLKって会社でシステム関係やってるよ。」


「まじ?SIerの超大手じゃん!やっぱ理系は勝ち組か。」


「そっちは?」


相手の近況を聞き返しながら頷き、返ってくる情報を頭の片隅で整理しながら、俺は時折視線だけを入口へ向けた。


俺は、まだ奈南が来ないことに不安を感じる。


彼女は遅刻するタイプではなく、高校時代は時間に正確だった気がする。


なら、電車の遅延か、もしかして急な仕事が入ったのか。


俺はそんなことまで考え始めている自分に気付き、内心で苦笑した。


久しぶりの再会を前にして、少し浮かれているのかもしれない。


歓談の輪が広がり始めた頃、入口が開く音がして、俺が視線を向けた瞬間、俺の思考が完全に止まった。


奈南だ。


肩まで伸びた髪に、白を基調にした柔らかな服装を纏い、化粧をしていても高校時代の面影は確かに残っている。


綺麗になった、という月並みな感想しか出てこない自分に、少し驚いた。


SNSの写真では何度も見ていたし、服の好みも知っているし、休日によく行く場所も知っているし、最近ハマっている趣味も知っている。


なのに実際に目の前へ現れた奈南は、俺が集めていた情報のどれよりもずっと現実的だった。


奈南は会場を見回し、すぐに女子グループを見つけたらしい。


「あっ!」と言いながら、弾かれたように駆け寄っていく。


「久しぶりー!」


「奈南ー!!」


「全然変わってない!」


そんな、楽しそうな声が会場に響いている。


奈南は自然に輪の中心へ入り、友人たちと肩を寄せ合って笑っている。


その姿を見ながら、俺はふと気付いた。


奈南にとって、この同窓会はただの同窓会なのだ。


懐かしい友達と再会し、昔話をするための場所だから彼女は何の緊張もなく笑っている。


俺は手元のグラスを軽く回しながら、遠くで笑う奈南を見つめる。


そして無意識のうちに、最初の一言は何から入るべきかを考えていた。


俺は男連中の会話に相槌を打ちながら、頭の中で動線を組み立てていたその時だった。


「……あれ?」と、不意に声がした。


俺が振り返ると、グラスを片手に持った奈南が立ち止まっていた。


最初は少し首を傾げ、次の瞬間、その顔がぱっと明るくなった。


「直樹じゃん!」と言いながら、そのまま数歩近づいてくる。


「やっぱり直樹だ!久しぶりー!」


特別な意味もなく、昔の同級生を見つけた時のごく自然な笑顔だった。


だが、その奈南からその笑顔を向けられた瞬間、俺が頭の中で何十回も繰り返していた挨拶も、会話の切り出し方も、全部吹き飛んだ。


「お、おう。奈南、……久しぶり。」


俺が辛うじてそれだけ返すと、奈南はそんな俺の様子など気にも留めず、「本当に久しぶりだよねー!」と笑った。


「卒業式依頼だよねー?」


「そうだな……」


「直樹、SNSも繋がってないし、ほんと久々だね!」


奈南の明るい態度に、さっきまで胸の中を埋めていた緊張が、少しだけほどける。


少なくとも嫌われてはいないことが分っただけで、今の俺には十分だった。


しかし、そこから先は思っていたようには進まなかった。


「あ、奈南!こっち来て写真撮ろうよ!」


「え、ほんと?行く行く!」


俺が次の話題を口にしようとした瞬間、別の女子グループから声が飛ぶ。


奈南は「あ、ごめんね。また後で!」と笑いながら手を振り、そのまま輪の中へ吸い込まれていった。


結局、その後も似たようなことの繰り返しだった。


誰かに呼ばれたり、誰かに話しかけられたり、写真を撮ったり、昔話で盛り上がったり、奈南の周囲には常に人がいて、一人になる時間がほとんどない。


同窓会なのだから、皆と話したいだろうし、俺が焦る必要もない。


俺は無理に割り込むことはせず、手元のグラスを傾けながら、奈南のことをぼーっと眺めた。


本当にただ眺めているだけだ、別に目で追いかけているわけじゃない。


ただ、今どこにいるのかくらいは把握していると、その程度のことだった。


スマホのメモ帳には、参加表明からしてから掻き集めた話題が並んでいるが、それを使う機会はまだ訪れない。


まだ開始から一時間も経っておらず、慌てるような時間じゃない。


だから今は待てばいいと考えながら、俺の視線は再び奈南のいる方角に向いた。


---


パーティーが終盤に差し掛かった頃、流れも落ち着き、会場のあちこちで小さな会話の輪ができている。


奈南が1人で空のグラスを持ってカウンターに向かうのを見て、俺も飲み物を取りに向かう。


ようやく訪れた、まともに話せる機会だった。


「あ、また会ったね。」と奈南が俺に向かって笑ってきた。


「本日2回目だな。」


「ふふっ、そうだね。」


グラスに飲み物を注ぎながら、奈南は肩をすくめた。


「同窓会って昔にちょっと戻れるような気がして、意外と楽しいね。」


「分かる。久しぶりでも普通に話せるもんな。」


「ねー。」


奈南と自然と会話が続き、仕事の話や地元の話、上京してからの話に花が咲く。


俺は途中で、メモ帳にまとめていた内容をほとんど使っていないことに気付いた。


だが、それで準備が無意味だったとは思わない。


事前に情報を整理していたからこそ、落ち着いて話せているのだと思った。


それでも俺は、奈南の笑う頻度、口角の上がり具合、相槌の打ち方、頷きの深さ等を観察してしまう。


そして、話題を変えるタイミングは適切か、今の話は興味があったのか、社交辞令の対応が為されたか、そんなことを無意識に考察してしまう。


「直樹、今どこ住んでるんだっけ?」と、何気なく奈南が尋ねる。


「一応都内だけど、限りなく千葉よりのとこ。」


「あー、なんとなくイメージ通り。」


奈南はそう言って笑った。


その笑顔の意味を、俺はまた考え始めていた。


「でもさ……直樹って、全然変わってないね。」


会話が一区切りついたところで、奈南がグラスを指先で回しながら笑った。


不意を突かれ、俺は少しだけ目を瞬かせる。


「そうかな?」


「うん。なんて言うんだろ。話し方とか、空気感とか、高校の頃の直樹そのままって感じ。」


奈南が懐かしそうに笑った瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。


「そっか。」と俺は、自然と口元が緩んだ。


「うん。なんか安心した。」


奈南はその後すぐに誰かから呼ばれ、「じゃあまたね」と手を振って輪へ戻っていった。


俺はその背中を見送りながら、手元のグラスを傾ける。


『直樹って、全然変わってないね。』


奈南の言葉が何度も頭の中で反響していた。


この言葉はきっと、悪い意味じゃないと、俺にはそう思えた。


俺はスマートフォンを取り出し、メモ帳を開く。


<同窓会準備メモ>のページの一番下、まだ空白が広がっている部分に新しい行を追加した。


<「全然変わってない」「安心した」と言われた>


そう打ち終えてから、そっとスマートフォンを閉じた。

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