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初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第一章「プロトタイプ」

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第7話「【青】への気遣い」

翌朝、アラームが鳴る前に目が覚めた。


隣では真子が、俺のTシャツを一枚羽織っただけの姿で、朝からゲームをしている。


スマホを見るといくつか通知が来ていたため、一番上の通知を開く。


<昨日はありがとう!後半疲れてたみたいだけど、ゆっくり休めた?今日の研修、お昼に少し話せるかな?>


久美子のメッセージになるべく寄り添う形で、俺はメッセージを返信する。


<ありがとう!大丈夫だよー!>


「……よし」


感情ではなく、久美子の仕様を理解した上での効率的な処理になっているはずだ。


この返信に罪悪感はなく、2人の平穏を維持するための管理だと思っていた。


まだゲームに夢中になっている真子に「そろそろ準備するぞ。」と、声をかける。


真子は「ほいほい。」と気のない返事をしながらも、視線は一切ゲーム画面から離さない。


布団の上へ投げ出された白い脚が、俺のシーツを無造作に踏んでいる。


昨夜脱ぎ散らかしたスカートやストッキングが床に落ちたままなのに、真子は気にする様子もなかった。


普通なら気まずくなるような朝なのに、真子といると妙に生活感だけが先に来る。


「……朝から元気だな。」


「今、私の錬士人生で一番の流れが来てるからね!5FでD-killer床落ち熱すぎる!」


「社会人の会話じゃねぇな。」


「直樹みたいなクズに言われたくないなー。」


真子はそう言って笑いながら、ようやくセーブしてゲームを閉じた。


そのままベッドから降りると、寝癖のついたまま洗面所へ向かっていく。


俺はその背中を見ながら、小さく息を吐いた。


久美子といる時みたいな、ちゃんとしなきゃという緊張感がない。


その気楽さが、少しずつ当たり前になり始めていた。


---


昼休み、研修室の隅で久美子が嬉しそうにスマホを差し出してきた。


「直樹くん、カレンダー。ちゃんと予定入れてくれてるね!」


画面には、週末の<桜を見に行く>予定や、平日の<研修後ご飯>が青色で綺麗に並んでいる。


久美子は、この青色の面積を愛の量だと信じているように見える。


予定と予定の間に存在する空白の時間を見ている俺とは、認識の差があることが分かる。


「あ、今日の夜は大学のサークルの奴と飲むことになったから、予定表に入れておくね。」


俺はそう言いながら、予定表の今日の夜に『真子の赤色』を差し込む。


「そうなんだ!教えてくれてありがとう!楽しんできてね!」


久美子がそう言って満足そうに微笑む。


予定表の共有は、俺の中の管理ツールとして精度を増していく実感が分かる。


久美子を安心させるための情報を入力し、その裏側で自分の自由を確保する。


この二重帳簿のような管理術が、妙な万能感を俺に与えていた。


---


「ねー直樹、今日泊まっていい?」


午後の休憩中、隣の真子が耳に顔を寄せ、小声で当然のように聞いてきた。


俺は慌てて久美子の席の方に視線を向けると、久美子が同期と真剣にコードを読み合わせているのが確認できた。


「……ゲーム目的だろ。別にいいけど、飯はどーすんだ?」


「ビニコンで良くない?……あ、直樹の家の途中のスーパーの弁当とかでも。」


真子のその要求の低さが、俺の欲を加速させる。


久美子との予定を維持しつつ、真子の要望も通す。


それは不誠実な嘘というより、限られたリソースを最適に配分し、自身の欲求発散と周りとの関係継続をする知的ゲームになりつつあった。


---


21時、俺の部屋。


ベッドの上では、真子が寝そべりながら相も変わらずゲームに没頭している。


部屋には、ゲームの効果音とスーパーで買った焼肉弁当の匂いが混ざった空気が漂っていた。


真子はスーツの上着だけ脱いで、シャツ姿のまま寝転がっている。


タイトスカート越しに細い脚が組まれ、その無防備さに視線が引っ張られる。


だが真子は、自分がどう見えているかなんて気にした様子もなく、「見て見て!やばい印ついた!」と嬉しそうな声を上げていた。


その空間は、恋人らしい甘さとは少し違う。


ゲームして飯食って眠くなったら寝るという、ただそれだけの、妙に居心地の良い雑な空間。


そして俺は、その雑さにどんどん慣れ始めていた。


「ちょっとコンビニ行くけど、何かいる?」


「ドクペよろー。あとザクザクしたやーつ!」


「何だよそれ。ポテチでいいか?」


「いえーい!」


俺はサンダルを履いて、そのまま外に出た。


4月とはいえ少し肌寒い風が吹いている。


エレベーターを降りたところでスマホを取り出し、久美子に電話をかけた。


「あ、久美子?うん、今飲みが終わったとこ。この間、心配かけたから…」


歩きながら話始めた俺には、もう嘘をついている感覚はほとんどなかった。


久美子が望む直樹の維持のために、真子の存在(余計なノイズ)を一時的にミュートしているだけだ。


『直樹くんの声聞くと、明日も頑張れる気がする。ありがとう!』


話すたびに、久美子の弾んだ声が俺の耳に届く。


『あ、周りの音変わったね。お店入ったの?』


「そう、コンビニに入ったよ。シジミ汁と水買おうと思って。」


『えらい。ちゃんと気遣ってるんだね。』


「さすがに社会人だし、飲み会の影響で日中だらける訳にはいかないからね。」


レジ横のホットスナックを見ると、真子の好きなスナックの匂いが鼻につく。


俺は適当にポテチとドクペをカゴへ放り込みながら、久美子の声を聞いていた。


『あ、そうだ。今週末の桜、私お弁当作ろうと思ってるんだけど……迷惑じゃない?』


「え?」


一瞬だけ、手が止まる。


『その……せっかく一緒に行くし。直樹くん、前に甘めの卵焼きと竜田揚げが好きって言ってたから……』


「あー……いや、嬉しいよ。ありがとう。」


『ほんと?よかったぁ!』


電話越しに、久美子が安心したように小さく笑う。


その笑い方を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなる。


それと同時に、真子はこういう確認をしないなという思いが過ぎる。


作るとも言わないし、喜ばせようともしてこない。


ただその場にいて、ゲームして、眠くなったら寝るだけ。


『直樹くん?』


「……あ、ごめん。レジ並んでた。」


『ふふ、大丈夫。あんまり飲みすぎないでね?』


「了解。」


『じゃあまた明日ね。おやすみ。』


「おやすみ。」


通話が切れたあと、スマホの画面に映る久美子の名前を数秒見つめる。


それから俺は、何事もなかったようにスマホをポケットへしまった。



部屋へ戻ると、真子はベッドの上で胡坐をかいたまま、ゲーム画面を睨んでいた。


「おそ!帰還おそ!ドクペエネルギー切れ!」


「レジ混んでた。」


「ドクペー。」


俺が机の上に袋を置くと、真子は寝ながら這いより、そのまま嬉しそうに袋を漁った。


その姿を見ながら、俺はさっきまで久美子と話していたスマホを机へ伏せた。


「誰と電話してたの?」


その姿を和みながら眺めていた俺に、真子が何気なく聞いてきた。


「なんで?」


「レジ待ちの遅さじゃないからねー。」


「ん?研究室の後輩。」


「ほー。」


真子は興味があるのかないのか分からない返事をすると、再びゲームへ視線を戻した。


その踏み込まなさに、俺はまた救われる。


久美子は、ちゃんと俺を見ようとしてくれる。


何が好きか、何を考えているか、何をしているか。


そうやって、少しずつ俺の中へ入ってこようとする。


でも真子は違う。


隣には来るのに、中までは入ってこない距離感を維持している。


「ねー直樹、協力プレイしよ。ここ、ここ、ここ行こ。」


薬局のシロップのような匂いをさせながら、真子が当然みたいに画面をこちらへ向ける。


俺はベッドへ腰を下ろし、そのまま自然に肩を寄せられた。


その瞬間、さっきまで電話越しに聞いていた久美子の声が、急に遠くなる。


世界を騙している感覚は、不思議ともう薄かった。


ただ、それぞれに必要な自分を割り当てているだけ。


俺はそう信じずにはいられなかった。

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