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初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第六章「レースコンディション」

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第58話「【赤】の牛丼」

翌朝、出勤しても俺の脳内では、真子の言葉と久美子の言葉が、頭の中で勝手に結び付いて離れなかった。


『好きなら付き合おうって言うじゃん?』


『最近ね、真子ちゃんと話すこと増えたんだ!』


『……直樹くんとも仲良いみたいだしね。』


それぞれ単体なら、何でもない会話だというのに脳内では、それらが勝手に関連付けられ、膨れ上がっていく。


さらに、その隙間に同期たちの声まで割り込んでくる。


『でも佐藤って彼女いたよな?』


『古見さんだっけ?』


『格ゲー大会の相方じゃないん?』


まるで不要になったはずのプロセスが終了せず、メモリを占有し続けているようだった。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、画面の隅に社内チャットのポップアップが跳ねたことに気付いた。


<小松真子インフラ:新着メッセージ有り>


そのまま、ポップアップを押下し、真子との社内チャットの窓を開く。


<小松真子インフラ:今日定時?>


それ一言だけだった。


<佐藤直樹(更改PJ):なんで?>


<小松真子インフラ:錬士公式の動画、大画面で見たいから>


<佐藤直樹(更改PJ):上がれそうならウチ来て良いよ>


<小松真子インフラ:あざ>


真子からの返信を見た後、俺はなぜ真子が家に来ることを了承したのか、自分でも分からなくなっていた。


---


午前中はほとんど仕事にならなかった俺は、昼休みの鐘が鳴って少し経ってから席を立った。


今日は1人でゆっくり食事をしなければ、午後も使い物にならない気がして、俺は社員食堂へ向かった。


食堂の手前にある打ち合わせスペースを通りかかった時だった。


ふと視界の先に久美子の姿が見えた。


同じ課の女子社員達とテーブルを囲んで弁当を広げている姿は、普段通りに楽しそうだった。


誰かの話に笑い、頷き、時折身振りを交えて話している姿を眺めたところで、俺は唐突に昨日のことを思い出してしまった。


『最近ね、真子ちゃんと話すこと増えたんだ!』


胸の奥がざわつき、気づいたら俺は無意識に視線を逸らしていた。


別に隠れる必要なんてないのは分かっているが、今は顔を合わせたくなかった。


気付かれないよう、そのまま食堂へ向かおうとした時だった。


「直樹?」と、背後から声が飛んできた。


反射的に振り向くと、そこには真子が立っていた。


「何してんの?」


「別に…」


「絶対なんか考え事してたじゃん。」


真子はそう言って笑っていたため、俺は適当に肩をすくめた。


「お昼は?」


「まだだけど。」


「私も。じゃあ行こか。」


俺は断る理由も思いつかず、久美子の方を一瞥した後に、真子について食堂へ向かった。


食券を買って、空いている席を探すと、真子はいつものように窓際の二人席を見つけると、当然のように腰を下ろした。


俺も向かい側へ座ると、昨日のことなど無かったかのように、真子はラーメンをすすりながら話し始めた。


「新作の動画見た?」


「ああ。」


「何かめっちゃ敵がおっきくなる新要素あったよね!あれで、パキプレコンとか壁から殴ってきたらやばくない!?」


「それはもう無理ゲーなんよ。」


「いやー、やり込み勢からいっつも難易度ぬるいとか言われるからね!あそこのスタッフはそのくらいはやってくるよ!」


会話はいつも通りに盛り上がっていたからこそ、俺は逆に落ち着かなかった。


俺の中では全部が繋がっているのに、真子だけが何事も無かったように振る舞っている。


それが演技なのか、本当に気にしていないのか、もはや俺には分からなかった。


不意に視線を上げ目が合うと、真子にへへと笑った。


その笑顔が可愛く感じ、俺もそれ以上は考えず、真子との会話へ意識を戻した。


そのまま昼食を終えた俺は、「じゃ、俺、午後イチでミーティングあるから」と真子に言い、食べ終えたトレイを持ち、席を立つ。


そして真子の方は振り返らず、返却口へと向かった。


---


午後、里香が担当しているサブシステム仕様で不明点があり、島から離れた打ち合わせスペースで俺と里香は打ち合わせをしていた。


里香のノートPCを2人で覗き込みながら、仕事の話を進めていく。


それ以上でも以下でもないのだが。「お、いたいた。」と、不意に通りがかった同期の男が足を止めた。


「最近よく見るな、この組み合わせ。」


冗談半分の軽い口調だったため、俺も特に気にせず返す。


「プロジェクト一緒なんだから当たり前だろ。それに今仕事中。」


同期は笑いながら「そりゃ失礼。」と言って立ち去ろうとしたが、その直後だった。


「そういや小松とも昼いたよな?」


彼にとっては本当に何気ない一言だったのかもしれない。


だが俺は、一瞬だけ返答が遅れた。


「……昼?」


「食堂の2人席で、小松と食べてること多くね?」


「ああ、たまたま会っただけ。」


俺はすぐに肩をすくめる。


「ふーん。」


同期はそれ以上何も言わず、「じゃ、邪魔したな。」と言って去っていく。


残された俺は、なぜか胸の奥に小さな違和感が残った。


そして一連のやり取りを見ていた里香もまた、どこか微妙な顔をしていた。


「どうした?」


「いや、別に何も無いよ。」


と、少しだけ硬さのある表情で、里香は首を横に振った。


それ以降、2人の打ち合わせではどことなくぎこちなく感じたのは、きっと気のせいなんだろうと俺は思った。


---


定時を少し過ぎた頃、俺はようやくPCをシャットダウンした。


午前中から続いていた妙な集中力の欠如は最後まで改善せず、普段なら一時間で終わる作業に倍近い時間を使ってしまった。


帰り支度をしながら、真子に今終わったことを伝えないとと思います、スマートフォンを見る。


すると、同期のグループチャットに大量の未読通知が溜まっていることに気付いた。


普段は飲み会連絡か業務連絡程度しか流れないチャットなのに、未読が50を超えている。


少し珍しいなと思いながら開いてみると、内容は拍子抜けするほど普通だった。


<仕事暇すぎ>


<いいな、今週残業やばい、1時間もしてる>


<金曜のむやつー?>


<無理だー、またこんど>


そんな雑談が延々と続いているだけで、俺に関する話題は1つもない。


それなのに、俺の頭には違和感だけが残った。


ここ最近からずっと、同期たちの言動に違和感を覚えることが増えている。


考えすぎていると感じた俺は、すぐにスマートフォンをポケットにしまった。


同期も暇じゃないだろうし、まして俺のことを監視しているわけでもない。


昼間の会話だって、ただの雑談で冷やかされただけ。


そう自分に言い聞かせながら、真子に仕事が終わった事だけ送信し、会社を後にした。


---


帰宅してシャワーを浴び終えた頃、インターホンが鳴った。


玄関を開けると、真子がコンビニの袋を提げて立っている。


真子は「おつー。」とだけ言って部屋へ入ってくる。


もう何度も繰り返してきた光景で、違和感も覚えない行動に、俺は少し安心する。


「錬士くんの動画まだ始めないでねー!めうめうぎりおに食べるから。」


「普通に梅結びって言えよ。何だよ、めうめうって。」


「伝わったからいいじゃん。あと、最近音ゲーしてさー、めうめうーって曲が結構好きになったの!食べてる間流して。」


真子はソファへ腰を下ろし、コンビニで買ったおにぎりを開封する。


俺は真子の指示通りその曲を探して流し、真子が梅結びを頬張る姿を眺めていた。


「ほひぃ?あげないけど。」


「牛丼買ってきてるから、真子の食いかけなんて要らんわ。」


「え?私のは?」


「ねぎだく小盛で肉下か?…一応これな。」


「さすが直樹!気が利くー!紅しょーこちゃんは?」


「ん、真子用で3つどうぞ。あと粉チーズな。」


「分かってるねー!真子ちゃん検定8級をあげよう!」


「はいはい、いつ使うんだか。」


何事もなかったかのように雑な会話が繰り返され、食事と動画が終わってもその雰囲気のままだった。


昼間まで頭を占有していた違和感も、今だけは少し遠のいている気がする。


そして久美子や里香の話題などは一切出ずに、気づいた時には、日付が変わりかけていた。


「じゃあ、そろそろ帰るねー。」


真子が立ち上がった瞬間、テーブルの上のスマホが短く震える。


画面には久美子の名前が表示されていた。


<今週の土曜、どこ行こっか?>


いつも通りのメッセージを俺は数秒だけ見つめていると、真子は当たり前のように鞄を背負い始めていた。


「どうかした?」


俺は「いや、別に。」と答えながらスマホを伏せ、返信は後でいいかと判断した。


「……なあ。」


気づけば俺は、真子を呼び止めていた。


「ん?」


「まだ終電あるだろ。」


真子は一瞬だけ目を丸くした後、「何それ。」と笑った。


「泊まってけば?」


言葉は驚くほど自然に出た。


真子は数秒だけ俺を見つめ、「いいけど。……今日はシないよ?気分じゃないから。」と答えた。


テーブルの上では、久美子からの未読メッセージが静かに光り続けていた。

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