表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第六章「レースコンディション」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/81

第57話「【青】の確認」

一昨日、真子が残した言葉が、未だに俺の頭から離れなかった。


『私のこと好きじゃないでしょ。……ってか、ヤりたいだけ。』


『好きなら付き合おうって言うじゃん?』


何度も何度も脳内で再生されるため、俺は今日の業務も集中できていない。


キーボードを叩いている途中で指が止まり、メールを書いていても、一瞬だけ思考が途切れる。


真子と付き合いたいのかと聞かれると分からないし、久美子と別れたいのかと聞かれるとそれも違う気がする。


自分でも答えが出せない問いを抱えたまま、昼休みを迎えた。


社員食堂で1人でうどんを啜っていると、「お、佐藤じゃん。ここ空いてる?」と、同期の男数人が俺を見つけ、俺の周りに座ってきた。


俺は「空いてるから、使うならどうぞ。」とだけ答え、水に口を付けた。


「そういや佐藤さ…」と、唐揚げを頬張りながら、同期の一人が言った。


「最近ずっと誰かといるよな?」


「あー、それめっちゃ分かるわ!」


俺が反応する前に、別の同期が笑う。


「小松とよくいるし、家でも遊んでるらしいじゃん?」


「いや、狩野さんとも結構一緒じゃね?部署が一緒だからかもしれんけど。」


「俺は、休憩室で2人で話しているの見たぞ!」


同期との人間関係が希薄な俺に対する軽い雑談だろう。


「同期なんだから一緒にいることくらいあるだろ。別に珍しい話じゃない。」


俺は突き放すように返し、味噌汁を飲んだ。


それで終わる話だと思ったからだ。


「でも佐藤って彼女いたよな?」


また他の同期が何気なく言ったことで、周りの空気が止まる。


「あー、優しそうな……えっと、古見さんだっけ?」


誰かが思い出したように頷く。


その名前が出た瞬間、俺の胸の奥で何かが引っかかった。


理由は分からないが、嫌な感じがした。


久美子、真子、里香という、今まで別々に存在していた名前が、同じ会話の中に並んだ。


「そういや先週だったかの朝も小松といたよな。」


「あれあれ、っていうか、佐藤の彼女って格ゲー大会の相方じゃないん?」


「その子もいたな!あれ結局どういう関係なん?」


「そっちの部署で噂になってるらしいけど、狩野さんとも年休一緒に取ってんでしょ?」


同期達の話題は転がるように続いていくが、誰も俺を責めているわけではない。


ただ聞いたことのある情報を、雑談交じりに小出しにしているだけだ。


俺はそう思っているはずなのに、背中がじっとりと汗ばんだ。


他人の記憶はスマホの予定表と違って管理できない、なんていうう考えが頭をよぎった。


意味もなくスマホを取り出しかけて、やめる。


まだ続く同期達の情報整理の声を聞きながら、俺はなぜか落ち着かない気分になっていた。


「佐藤って結構インドアかと思ってたけど、まじで顔広いな!」と誰かが笑った。


俺はそれに乗じて「別にそんなことないって!」と笑って返し、言葉を続ける。


「小松はゲーム仲間だし、狩野さんは同じ部署だから話すだけだって。」


「格ゲーの子は?」


「同じキャラ使いのフレンドで、たまたま人数合わせで大会で組んだだけ。」


俺はなるべく自然に、なるべく軽く、ログの整合性を取るみたいに答えた。


「古見さんは?」


「彼女。」


俺はそこだけ即答し、その瞬間だけ、テーブルが少し静かになる。


「じゃあ全部問題ないのかー、つまんねー。」


そう言った誰かの言葉で、皆が笑った。


話題はそのまま別の同期の残業話へ移っていく。


本来なら、それで終わったはずだったが、俺の落ち着かなさは収まらなかった。


食事を終え、同期たちと別れて、自販機でエナドリを買って戻ろうとした時だった。


「直樹くん?」


聞き慣れた声に振り向くと、少し寂しそうな顔をした久美子だった。


「あ、おう。久美子はお昼食べたとこ?」


「うん。最近はお弁当、部署の先輩達と食べてるんだよね。」


そう言って久美子は小さく笑い、俺はいつも通りの久美子の笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。


「同期のみんなと一緒だったんだね……」


「たまたま捕まっただけで、約束してたんじゃないよ。」


「ふふっ」と久美子は楽しそうに笑った後、何か思い出したように言った。


「あ、そうだ」と、久美子が思い出したように言う。


「最近ね、真子ちゃんと話すこと増えたんだ!」


俺の心臓が一拍だけ遅れ、それに伴い反応も鈍ったのが分かる。


「……へえ?」


「同期会の時からちょこちょこ話すようになって、同じフロアで会うこと結構あってさ。」


俺の表情がどうなっているか自分では分からないが、久美子は俺の顔を見ていつも通りの笑顔のままだ。


「ゲームの話とか全然分からないけど、聞いてると面白いんだよね!」


「……そうなんだ。」


「うん。」


そこで久美子は数秒だけ言葉を切った。


「……直樹くんとも仲良いみたいだしね。」


その言葉に、俺は先ほどの同期への返事と同様に「まあ、同期だからな」と、反射的に返す。


それを聞いて「そっか。」と、久美子は頷き、それ以上は何も聞いてこなかった。


しかし、俺のは何故か胸の奥がざわついた。


久美子の性格を考えれば、その言葉に悪意や探る意図もない。


久美子は何も知らない、知らないはずだから、ただの雑談だとは分かっている。


それなのに、頭の中でさっきまでの会話が勝手に再生され、断片的だった単語が、勝手に繋がり始める。


「ごめんね、忙しいのに時間取っちゃって……じゃあ午後も頑張ろうね!」


久美子はそう言って手を振って去っていった。


その背中を見送りながら、俺は無意識的にスマホを取り出し、予定表を開く。


共有カレンダーにも不自然な点はなく、誰からも不審なメッセージは無かった。


それでも、この原因不明の不安は消えなかった。


---


その日の夜、寝る前に俺はカレンダーアプリを開いた。


<

【青】久美子

【赤】真子

【黄】明日菜

【緑】里香

【紫】真冬

>


色分けされた予定表の画面は、これまで俺に全能感を与えてきた。


だが今日は違い、画面を見つめる俺の耳に、昼間の同期たちの声がノイズのように再生される。


それらが網の目のように繋がり、俺という存在を縛り付けていく感覚に陥る。


俺は自分の予定を管理できる。


だが、他人の記憶までは管理できない。


その当たり前の事実を、俺は初めて恐ろしいと思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ