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初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第五章「デッドロック」

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第49話「【紫】の変化」

俺は久美子を送り出した後、真冬と出るタッグトーナメントが開催される会場へと向かっていた。


電車のシートに揺られながら、俺の視線はスマホの画面から外すことが出来ない。


昨晩、真冬から送られてきた最後のメッセージが、今も真冬との履歴に居座っている。


<あと、その子大事にしてあげな>という文言を、何往復したか分からない。


俺は、思考を占有しようとするノイズを、無理やり消去しようと試みる。


真冬はただのセフレであり、ゲームの相方だ。


お互いに深く踏み込まない、責任のない関係が構築できているはず。


だから、真冬が久美子の肩を持つ理由もなければ、俺を責める義理もない。


あれはただの、真冬なりの軽い揶揄いの一言に過ぎないはずだった。


会場に到着すると、平日大会と比較にならないほどの人数が、独特の熱気のなかひしめき合っていた。


人混みを掻き分けてプレイヤー受付の近くへ進むと、壁に寄りかかってスマホを弄っている真冬が見えた。


「おっ、寝坊しなかったね。偉い偉い。」


俺の気配に気付いた真冬が顔を上げる。


「するかよ!一応楽しみにしてたんだからな。」


「はいはい。直樹は信用ないからなー。」


そう言って真冬は手元の缶コーヒーを投げてきたので、片手で受け取る。


俺は真冬のその行動に違和感を覚えた、


前のテンションだったらここで、「えらいえらい!」と頭をくしゃくしゃに撫でられたり、無意味なボディタッチ付きで絡んできたはずだ。


だが今日は違い、缶コーヒーを投げた真冬は、そのままスマホをポケットへしまうと、受付表を指差した。


「ほら、先エントリー済ますよ。」と、それだけを言った。


会話はいつも通りのトーンだし、表情もいつも通りのように見える。


しかし、どこか噛み合わない歯車が混じっているような感覚が残る。


理由までは分からないが、真冬と会った瞬間に感じていた昨晩からの重苦しさは、不思議と薄れていた。


俺は缶コーヒーのプルタブを開けながら、小さく息を吐くき、考えすぎだったのかもしれないと思い直した。


少なくとも今の真冬は、いつも通りの真冬に見えた。


大会が始まると、俺たちの『なおまふ』タッグは驚くほど順調にトーナメントを勝ち上がっていった。


同じキャラクターでも別の使い方をしている俺たちは、相手チームの構成を見ただけでどちらが先に出るべきがが有る程度わかる。


「次、蛇と蟲のタッグだな。蟲の烙印対策どのくらい自信ある?」


「対空が正直無理そう……蟲相手の先読み自信ない……」


「じゃあ、俺が蟲、真冬は蛇頼むわ。」


そんなやり取りを続け、お互いに得意と苦手をカバーしながら当たるキャラを調整する。


長年積み上げてきた癖がお互いに違うからこそ、同キャラタッグでも次々に勝ちを拾えた。


「よし、一本!」


俺の試合が決まるたびに真冬が立ち上がり「ナイス!」とハイタッチが飛んでくる。


しかし、俺の手に軽く衝撃が残るだけだった。


前の大会ならここで、「直樹、やるー!」と腕を組まれたり、抱き着かれたりしていた。


だが今日は違い、真冬はハイタッチを終えると、「次どこと当たるんやろ。」と言いながら、そのままトーナメント表へ視線を向けた。


その動作が完全に自然だったからこそ、俺には余計に引っ掛かった。


ベスト8に入った頃には、俺たちは配信台へ呼ばれていた。


他の対戦台とは異なり、プレイヤー用のモニターの他、大型のプロジェクターで投影が為され、少し離れたところに実況席や観客席がある。


そして頭上には大会配信用のカメラが光る。


「なおまふだー!」


「また夫婦タッグかよ!」


後方からそんな声が聞こえるが、真冬はそれに反応しようともせず、そのまま席に座る。


前の大会と同じテンションだったなら、笑いながら俺の肩を叩いてきたり、ネタで腕を組んで見せたりしただろう。


そのことについて、俺も何も言わなかった。


実況者だけが、「カオカタ使い同士でのなおまふチームですが、なおき選手はオフ大会2回目ということで……」等と紹介を続けている。


画面には俺たちの名前が並んで映し出され、前回よりも高揚していいはずだ。


しかし、俺たちの間には、前回とは少しだけ違う空気が流れていたように感じた。


ベスト8で一度負けた後、敗者側で俺たちはまた勝ち続け、気付けば会場の視線が少しずつ集まり始める。


「なおきって奴、オフ2回目なのやばくくない?」


「ってか同キャラチームなのに、ここまで来るのやばいやろ……」


後ろからそんな声が聞こえてくる。


そのまま試合を進めた俺たちは、ルーザーズファイナルでは惜しくも敗れた。


大会前の規模や下馬評を考えれば、3位というのは十分すぎる結果だった。


「ほら、直樹。SNS用リザルトのチーム写真撮るって。」


真冬に言われ、俺たちは入賞者用のパネルの前へ並ぶ。


俺が立った位置の隣り、真冬も自然に来る。


「はい、撮りまーす!」


運営スタッフがスマホを構えたその瞬間、俺は無意識に真冬との距離を確認していた。


肩が触れるでもなく、離れすぎてもいない、ごく自然な距離。


本当に、何もおかしくない。


他人から見れば仲の良いチームメイトに見えるだろうが、なぜか俺にはその数十センチが物凄く遠く感じた。


フラッシュが光って撮影が終わると、真冬はすぐにスマホを取り出した。


「投稿されたらRepostしよーっと!」


それだけ言って、運営のSNSを確認し始める。


俺はその横顔を見ながら、理由の分からない違和感を胸の奥へ押し込んだ。


たぶん気のせいで、大会で疲れているだけだろうと、そう思うことにした。


---


大会終了後、俺は真冬に誘われ、そのまま近くの居酒屋で、他のプレイヤーたちも交えた打ち上げに参加していた。


ジョッキがぶつかり合う音の後、今日の試合内容の振り返り、アップデートへの文句等、ゲーム好きには堪らない話なかりが飛び交っている。


真冬は早いペースでビールを煽り、大声で笑いながら輪の中心にいた。


ベスト3の結果もあって、何人ものプレイヤーが入れ替わりで俺たちに話しかけてくる。


「なおまふ強すぎ。まふゆどこでなおき見つけたんだ?」


「同キャラ、しかもカオカタでタッグ出て3位やばすぎ!」


「なおきは次のタッグあったら、まふゆと出るん?」


真冬はそのたびに笑いながら答えていた。


そんな時、ふと誰かが「なおきって、彼女とか居ないの?」と冗談半分で聞いた。


「うちは知らんから、本人にどーぞー。」と、真冬が先に答え、ビールを飲む。


面白がったり、揶揄ったりしない態度を見せた真冬の反応を見て、その会話は、それだけで終わった。


その後も真冬は通常運転に見えたが、その徹底ぶりに俺だけが違和感を覚え続けていた。


夜が更け、終電が近付いた頃。


打ち上げは自然とお開きになった。


駅へ向かう人の流れから少し外れた場所で、俺は隣を歩く真冬へ声を掛ける。


「真冬、今日この後どうする?」


「ん?」


真冬はスマホを見ながら気のない返事をした。


「2人で祝勝会……とか…行く?」


少しだけ間を置きながら質問した。


前回の大会のように終電が無い訳ではないが、俺にとっては真冬とまだ居たいという思いがあった。


真冬はスマホの画面を見つめたまま、「あー…」と小さく声を漏らした。


「今日は帰るよ。」


「……なんで?」


真冬は少し笑う。


「なんでって……ほら。」


そう言いながら真冬はスマホの画面を俺へ向けてきた。


それは真冬の出勤スケジュールの画面で、明日の欄には予約がびっしり並んでいる。


「明日、口開けから本指3本入ってるんだよね。しかも120、120、150。……ちゃんと寝ないとマジできついんだよね。」


そう言いながら真冬は肩を竦め、そして何でもないことのように続ける。


「うち、昼職じゃないから、出勤しないと実入りゼロなんだよね。」


その正論すぎる言葉に、なぜか俺は返事が詰まった。


真冬は元々そういう女だと分かっていたはずだ。


夜職で稼ぎ、趣味に金を使い、空いた時間にたまたま俺と遊んでいただけ。


ただ、俺の心には『俺とのホテル』よりも、『明日の本指名』が優先された当然の事実だけが強く残った。


駅前のロータリーへ入ると、真冬はスマホをポケットへしまい、小さく伸びをした。


「じゃー、またねー、今日はおつ!」


「……ああ。」


「また、オンラインで練習しよっか。インしてたら、チャット飛ばしてねー。」


真冬はそう言って軽く手を振り、何事もなかったように改札へ消えていった。


俺はその後ろ姿を見ながら、正しすぎた真冬の言い分を反芻していた。


明日は本指名が朝から3件入っている帰るというのは、夜職の人間として当然の判断だ。


当然すぎて反論の余地がないのに、俺はその当然さに傷ついている自分がいることに気が付いた。


傷つく資格など無いというのに。


---


深夜一時、静まり返った自分の部屋に戻ると、俺はバッグを床に放り出し、ベッドの端に腰掛ける。


部屋の中には、昨日久美子が置いていったミントブルーのドライヤーが、洗面所の定位置に収まっているはずだ。


スマホを取り出し画面を点灯させるが、真冬からの連絡は、当然のように1件も入っていない。


ゲームをして、飯を食って、ホテルへ行くという自然な流れは、再現性が有る者だと思っていた。


少なくとも俺は、前回同様に真冬との時間が過ごせると、そう思っていた。


静かな部屋で、俺は伏せたスマホを見つめながら、答えのない計算を繰り返していた。


俺は何か、致命的な失敗を起こしたのだろうか。

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