表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第一章「プロトタイプ」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/81

第3話「【青】への言い訳」

研修に向かう電車の中で、俺は自分の中の倫理観を再構築し始めた。


浮気と世間は呼ぶだろうが、その定義は本当に当て嵌まるのだろうか。


恋愛というよりはラフで、同期というには密である。


それに久美子との失敗は、環境要因なのか、それとも俺たちの相性の問題なのか。


真子であっさり成功したのは、俺に欠陥があるわけじゃないことの証明にならないのだろうか。


真子と出来たということは、久美子側に欠陥があるという事なのではないだろうか。


俺は、そういうことにしておきたかった。


これは不誠実ではなく、久美子との関係を分析するために必要な、プロセスの一部だ。


研修室に着くころには、俺の理屈は少なくとも今は破綻してないと思っていた。


「おはよう。」


俺が部屋に入ると、久美子が視界に入った。


狩野里香かりのりかと話していた久美子は、俺に気づくとすぐさま会話を終わらせた。


久美子は小走りで俺の前に来ると、少し息を弾ませながら顔を覗き込んできた。


「直樹くん、大丈夫?土日、全然連絡来なくて心配したよ……」


「あー、ごめん。飲み過ぎてそのまま寝てて、二日酔いで体調よく無くてさ……」


出来るだけ軽く、事実のように聞こえるテンションで返す。


久美子は一瞬だけ目を伏せ、それからほっとしたように笑った。


「そっか……心配したけど、大事じゃ無くてよかった。体調はもう大丈夫?」


久美子の心配という言葉が、妙に重く残る。


「ごめんごめん。今度からちゃんと連絡するね。」


「うん……でも、無理しなくていいからね?」


無理という言葉に一瞬だけ引っかかるのは、面倒だからか、罪悪感からか。


「…今日、終わったら一緒に帰れる?」


久美子は少しだけ遠慮がちに、だが確かめるように言った。


逃げ道を塞ぐ聞き方に、心の中でため息が出た。


「……ああ、いいよ。今日は特に予定もないし。」


口にした瞬間、スケジュールが頭の中で再計算される。


「ほんと?よかった……」と、久美子は嬉しそうに笑った。


その表情を見て、俺の胸の奥にわずかな違和感が生まれる。


嬉しそうであればあるほど、負債が増える気がする。


「じゃあ、帰りにどっか寄る?この前の続き、ちゃんと……その……」


言葉を濁しながらも、久美子は俺の顔から視線を逸らす。


あの夜のやり直しを指しているのは明らかだった。


「……まあ、その辺は帰りながら決めよう。」


俺が曖昧に濁すと、久美子は「うん。」と、それ以上踏み込まず、小さく頷いた。


その距離感が、逆にこちらの自由度を奪っていることに、久美子は気づいているのだろうか。


ふと、視界の端に気配を感じる。


斜め後ろの少し離れた席で、同期と会話している真子がこちらを一瞬だけ見ていた。


だが、目が合う直前に、何事もなかったかのように視線を外し、再び同期と笑いながらスマホを見せ合っている。


観察しているのか、ただ視界に入っただけなのか判別がつかない。


少なくとも、俺と久美子を気にしている様子は一切ない。


俺がその温度差に引っかかった瞬間、同期の声が割り込んだ。


「朝からいちゃいちゃ話してー、今夜のデートの約束か?」


「まぁ、そんなとこ。じゃあ、また後で。」


「うん。直樹くん。……あとでね。」


久美子はそう言って、自分の席へ戻っていった。


残ったのは、ほんの少しだけ息苦しい空気と、説明のつかない微細な違和感だった。



研修が始まると、必然的に真子との会話が増える。


真子はあの日のことなどなかったかのように振る舞った。


「あ、佐藤くん。ここ、前に教えてくれたやつでいけるよね?」


いたずらっぽく笑う真子の言葉が、秘密を共有しているスリルとともに、胸に響く。


真子は俺に何も求めず、ただ今の瞬間の楽しさだけを共有する。


責任が発生しない関係の、なんと合理的なことか。


俺は楽に満たされるその海に、今夜も溺れたくて仕方なかった。


そして、出来れば今日の研修は終わって欲しくないとすら、思ってしまっていた。


---


駅から家に着くまでのファミレスで久美子と食事をして、なんて事はない会話をしながら部屋についた。


俺の部屋に入ると、久美子は少し緊張した様子で鞄を置いた。


お互いに入浴を済ませ、俺が淹れた紅茶を飲み始めた時だった。


「今日ね、ちょっと調べてきたんだ。」


「調べた?」


「その……リラックスできる方法とか。あと、痛くならないようにするコツとか……」


久美子がそう言ってスマホのメモを開きながら、ぎこちなく笑う。


俺が真子と過ごしている間、真面目に努力をしていた事実が摘示され、少しだけ居心地が悪くなる。


「……そっか。無理しなくていいからね。今日は、ゆっくりでいいから。」


俺が適当に返事をすると、久美子が恐る恐る距離を詰めてくる。


その慎重さが、逆に俺の意識を削いでいく。


そのまま久美子が差し出した唇に、俺はそっと唇をつける。


腫れ物を触る様に久美子の服を脱がそうとすると、久美子は「電気…消して欲しいな……」と顔を赤くしながら言った。


真子ならそんな事は言わないのに、と心の中で思い、俺は電気を消して再び久美子に向き直った。



結果は、同じだった。


またも途中で止まり、気まずい沈黙が落ちる。


「……ごめんね。」


先に口を開いたのは、久美子だった。


「やっぱり、まだ痛くて……でも、直樹くんのこと、ちゃんと応えたいって思ってて……」


久美子が必死に言葉を選んでいるのが分かるが、その一つ一つが、俺の温度をさらに下げていく。


真子だったら今頃終えて、ゲームで遊び始めてるころだろうか。


「……いや、頑張ろうとしないで。リラックスリラックス、無理は良くないよ。」


俺はそれだけ言って、天井を見た。


改善しようとしているのは分かるが、結果に繋がらないのは意味がないし、時間の無駄だ。


その一言で、俺の中では評価が終わっていた。


「本当は…痛いだけじゃなくて……」


隣で、小さく鼻をすする音がした気がする。


気のせいだと結論付けた俺は、この晩、久美子にそれ以上の言葉はかけなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ