表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初彼女持ち新卒SE、入社2日目で理想の美人同期と寝て、恋愛管理系クズになる  作者: Pyayume
第三章「マルチサイクル」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/81

第28話「【赤】との邂逅」

メーラーの画面から目を逸らし、俺は椅子の背もたれへ深く体重を預けた。


モニターの白い光が、静かなオフィスをぼんやり照らしている。


昨日の深夜、狩野とホテルへ向かう前、オフィスへ戻って送ったアリバイ工作の社内メール。


その直後に届いていた、真子からのメールをもう一度開く。


<会社戻ってきたよね?久美子と別れて、今度は狩野ちゃん?笑>


俺は席に付きながら自分の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえた。


真子はシステム運用部門で、夜間監視の当番があることは以前聞いたことがある。


昨日が、その当番だったということだろうか。


だが、真子のいる監視フロアと、俺たちの執務室は階が違う。


それに端末管理担当でもない以上、俺のPCログイン履歴や社内Wi-Fiの接続情報までは見られないはずだ。


そして、極めつけはこのメールには俺を追及する意思が感じられない。


怒りも、嫉妬もなく、ただただ、真子が見たであろう事実だけが、軽い笑いと一緒に投げ込まれている。


その温度の無さが、逆に気味悪く思えてくる。


まるで監視カメラのログを確認するみたいに、淡々と俺を見ている。


俺はスマホを取り出し、真子とのトーク画面を開いた。


否定や誤魔化し、軽い冗談でもいいから何か送った方がいい気がした。


だが、文字を打とうとするたび、指が止まる。


真子は、何を確認したいかが分からない。


俺を責めたいのか、ただ反応を観察したいだけなのか。


俺には分からないし、分からない相手には恐怖を感じる。


真子とは付き合っている訳でもないうえ、真子自身も久美子の存在を知りながら、俺との関係を続けている。


それなのに、なぜか俺は、真子にだけは『どう見られているか』を異常に気にしてしまっている。


俺の思考がループへ入りかけた瞬間、スマホ上部へ通知が滑り込んできた。


<直樹くん、来週の土曜、映画のチケット取ったよ!次のデートも楽しみだね!>


久美子からの無邪気な文面が、逆に今の俺には眩しすぎる。


俺はスマホを伏せ、深く息を吐いた。


今の俺には、管理すべき全データが正常に稼働しているように見える。


久美子からの信頼も、明日菜からの依存も、狩野との秘密も、全部、管理している通りだ。


なのに、真子だけが、どのカテゴリにも収まらない。


考えられるのは、好意・牽制・脅迫・観察、しかしどれであっても腑に落ちない。


その曖昧さだけが、静かに俺の思考へノイズを混ぜ始めていた。


俺は頭を覚醒させるため、ビル内のコンビニでエナドリでも買おうと席を立つ。


廊下を曲がったところで、向こうから真子が歩いてきた。


「あ、直樹おはよー。」


真子はダイエットドクターペッパーを片手に、眠そうな顔で軽く手を上げる。


「昨日、遅かったんでしょ。お疲れ。」


その言葉だけで、背筋に薄く冷たいものが走った。


真子の表情は、いつも通りだった。


少し気だるげで、眠そうで、何を考えているのか分からない顔。


だが俺の中では、『昨日、遅かったんでしょ』という何気ない一言だけが、異様な重さを持って響いていた。


「……ああ。……ちょっと作業が長引いてさ。」


「そっかー。わざわざ戻らなきゃいけないのも大変だねー。」


真子はそれ以上何も言わず、空手の側の手を振りながら俺の横を通り過ぎていく。


真子に何を見たのか、何を知っているのか聞くために呼び止めたくなる衝動に駆られる。


だが、ここで食い下がる方が不自然と判断し、俺は何事もなかったように歩き出す。


周囲から見れば、ただ同期同士が朝に軽く会話しただけ。


なのに俺の中では、警告音みたいな緊張だけが鳴り続けていた。


---


結局俺は、一日中真子に返信すべきか悩み続け、まともに仕事へ集中できなかった。


設計書を読んでも頭へ入ってこない。


コードレビューの指摘も、内容が薄く滑っていく。


気づけば、何度もメール画面を開いては閉じていた。


そんな俺を見かねたのか、夕方頃、上司が苦笑混じりに声を掛けてくる。


「佐藤、今日ちょっと顔死んでるぞ。体調悪いなら早めに上がれ。」


「……すみません。そうします。」


普段なら多少無理してでも残る俺が、素直に頷いたことに、自分でも少し驚いた。


寄り道もせず帰宅し、玄関へ鞄を置いた瞬間、どっと疲労感が押し寄せる。


ベッドへ倒れ込み、無意識にスマホを開いた。


画面上には、通知がいくつも積み上がっている。


<久美子:直樹くん、今日は早いの?しっかり休んでね!>


<明日菜:研究室のM1の先輩の指摘で悩んでます……聞いてくれません?>


<狩野:今日一日中、ほんと眠かったね笑>


真子とのやり取りは、俺のメッセージに既読が付いているだけ。


その一覧を見て俺は溜息が零れた。


ここから誰に何を返すか。どの温度感で返すか、全部、自分で制御しなくてはいけない。


通知が増えるたび、しっかり管理しなくてはという感覚だけが強くなる。


俺はスマホを伏せて、目を閉じながら、何も考えたくないと思い始めた。


その時、不意にスマホが震え、思わず見るとゲーム機の統合コンパニオンアプリだった。


仕事とも、人間関係とも切り離された通知というだけで、少しだけ呼吸が楽になる気がした。


通知を開くと、そこには勢いのあるメッセージが数件。


<mafuyouuuuu:18時半に中野集合!!ゲーミングスペースでやる同キャラチーム大会出るよ!!!>


<mafuyouuuuu:カオカタ使いの友達が飛んだ!!!>


<mafuyouuuuu:直樹しかいない!!DQだけはマジで嫌だからアケコン持って今すぐ来て!!!>


<mafuyouuuuu:返事は!?>


思わず、小さく笑ってしまった。


真冬とは客として会った後、2~3回通話しながらオンライン対戦をした程度だ。


だからまだまだ心の距離があると思っていたが、そんなのを全部吹き飛ばす勢いのメッセージだ。


俺から見れば、おそらくこのメッセージに裏はない。


真冬とゲームで遊べば、今は考えたくなかったあれこれが一旦忘れられる。


俺は<すぐ行く!>とだけ送信し、スマホをポケットへ押し込み、繋ぎっぱなしのアケコンをバッグに突っ込んだ。


そして、脱兎の如く家を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ