第19話「実績解除【黄】」
数秒の沈黙のあと、明日菜が少しだけ視線を逸らしながら、小さく笑う。
「……終電、なくなっちゃいましたね。」
半分冗談みたいな声音で理解した俺は、「じゃあ、そろそろ出ようか。」と言って、伝票を手に取った。
カフェを出た時、俺は落ち着いた声で、明日菜の目を見て言った。
「明日菜ちゃんの家、この近くでしょ。……送るよ。」
ここで明日菜の自宅への赴くのは、計算した仕様通りの展開だった。
「ありがとうございます!じゃあ……こっちです……」
そう言って明日菜は俺の腕を取ると、身体を寄せるようにして歩き始めた。
夜風に当たったせいか、それとも酒が回っているせいか、明日菜の頬はまだ熱を持ったままだった。
駅前の通りを抜け、人気の少ない住宅街へ入る。
その途中、俺は開いている手をさりげなく自身のポケットの中へ滑らせた。
指先に触れた小さなアルミ包装の感触に、内心で小さく安堵する。
準備不足で台無しになるほど、俺はもう無計画じゃない。
明日菜はそんな俺の確認にも気付かず、嬉しそうに腕へ体重を預けていた。
「……なんか、夢みたいです。」
「何が?」
「だって、佐藤さんとこうやって歩いてるの。」
照れ隠しみたいに笑いながら、明日菜はさらに距離を詰めてくる。
その拍子に、細い太腿が俺の脚へ何度も触れた。
俺は絡まれた腕をそっと動かし、スカート越しに細い脚のラインへ触れる。
びくっと身体を震わせながらも、明日菜は嫌がるどころか、小さく息を漏らした。
肉付きの薄い太腿は、久美子には無かった煽情的な華奢さを、指先から直接伝えてくれる。
「……や、やっぱり佐藤さん、ずるいです。」
「何が?」
「そういうの、慣れてそうで……」
困ったように笑いながらも、明日菜は俺の腕を離さない。
むしろ、自分から擦り寄ってくる熱が強くなっていた。
数分後、明日菜が立ち止まったのは、駅近くに建つ十二階建ての賃貸マンションの前だった。
エントランスにはオートロックがあり、学生の一人暮らしにしてはかなり設備が整っている。
「……ここです。」
「へえ。結構ちゃんとしてるんだな。」
「親が、女の子の一人暮らしだからって……」
苦笑しながら、明日菜はエントランスキーをかざし、自動ドアが静かに開く。
「私の部屋は、ここです。……電車動くまで休んでいってください。」
明日菜の部屋は、きちんと整頓された女の子の部屋だった。
玄関を上がった瞬間、生活臭より先に、柔軟剤の淡い香りが鼻を掠める。
ワンルームに近い1Kで、白を基調にした家具で統一されている。
床には髪の毛一本落ちていない。
机の上の参考書も綺麗に揃えられていて、充電ケーブルですら几帳面に束ねられていた。
ここへ来る可能性を、明日菜は最初から想定していたのだと俺はすぐに理解した。
「なんか緊張して、今日ずっと掃除してました……」
照れたように笑う明日菜を横目に、俺は洗面所を借りる。
鏡に水垢一つ無く、タオルはきっちり畳まれ、洗面台は新品みたいに光っている。
明日菜のような真面目で良い子が、俺に落ちていく過程が、余計に心地良かった。
部屋へ戻ると、明日菜が少し困ったように笑った。
「ソファ無いので……ベッド、座っちゃってください。」
「ん。お邪魔します。」
腰を下ろした瞬間、シーツの張りから、替えたばかりなのが分かる。
布団カバーも真新しく、洗いたての匂いがした。
ここまで準備しておきながら、『終電、なくなっちゃいましたね。』なんて言っていたのかと思うと、自然とにやけてしまいそうになる。
明日菜はキッチンからマグカップを一つ持ってきて、俺へ差し出した。
「どうぞ。」
俺がそのまま受け取り一口飲んだところで、ふと気付く。
「明日菜ちゃんの分は?」
「あ、私は大丈夫です。」
「え、酔ってるし、飲んだ方がいいよ。」
「えっ……いや、その……」
俺は小さく笑って、カップを持ったまま明日菜を見上げた。
「……飲ませてあげよっか?」
「えっ……」
俺の提案に、明日菜の喉が小さく動く。
そのまま数秒迷ったあと、明日菜は顔を真っ赤にしたまま、小さく頷いた。
「……はい。」
俺は口に茶を含み、そのまま明日菜の腕を引き寄せる。
唇を重ね、そのまま少しずつ明日菜の口内に流し込む。
少し熱を含んだ液体が、互いの呼吸の隙間を滑っていく。
飲み切れなかった茶が、明日菜の口端から溢れ、顎を伝った。
細い首筋をゆっくり流れ、鎖骨の窪みに小さく溜まる。
「……ぁ。」
熱に浮かされたような明日菜の声を肯定と捉え、俺はその滴を舌先で辿る。
顎から細い首筋にかけて、白い肌の上をゆっくり這わせるたび、明日菜の呼吸が乱れていく。
俺の舌が綺麗に隆起した鎖骨へ触れた瞬間、明日菜の細い指が優しく俺のシャツを掴んだ。
「……佐藤さん……っ」
掠れた声を聞いた瞬間、俺が奥に沈めていた欲望が一気に熱を帯びる。
明日菜の細い肩をそのまま押し込み、ベッドへ倒した。
シーツが小さく沈み、髪が白い枕へ広がる。
見下ろした明日菜は、逃げるどころか、熱に浮かされたみたいな潤んだ目で俺を見上げていた。
押し倒された拍子にブラウスの襟元が少しだけ乱れ、白い肌が露わになる。
華奢な首筋、薄い皮膚の下を通る細い鎖骨、呼吸のたびに小さく上下する薄い胸。
そこへ淡い色のレースのストラップが覗いていた。
少し大人びたその下着はその下の細身の体形を想像させ、俺の欲望を強く刺激した。
スカートの裾もわずかに乱れ、細い脚がシーツの上へ投げ出されている。
太腿には余計な肉がほとんど無く、膝の骨が綺麗に浮いて俺の胸を高ぶらせる。
腰へ手を添えると驚くほど細く、片手でも抱え込めそうなくびれ。
そのまま指を滑らせると、めくれたブラウスの隙間から、小さな臍と尖った腰骨がちらりと覗いた。
美しい骨のラインが見えているのに、触った指先から女性らしい柔らかみがほんの少し伝わってくる。
守ってやりたくなるような細さと、抱き潰したくなるような危うさが同時に存在していた。
「そんなにまじまじ……見ないでください……」
そう言いながらも、明日菜の脚は逃げるどころか、俺を挟むみたいに僅かに閉じた。
さらに熱を逃がすように浅い息を繰り返しながら、俺のシャツをぎゅっと掴んでいた。
耳まで赤く染まった顔、潤んだ瞳、唇の端に残った茶の雫、そして俺を拒まない細い身体。
その全部が、俺の理性をゆっくり削っていく。
始めて真子を貪った時のような、荒々しい衝動とは違う。
これは、自分の言葉と誘導で、目の前の理想的な容姿の女をここまで辿り着かせたという支配感だった。
俺は細い腰を引き寄せるように抱き直し、露わになった鎖骨へもう一度唇を落とす。
その瞬間、明日菜の背が小さく反り、甘い吐息が零れた。
その熱を確かめるように、俺はその唇へ、もう一度深く口づけた。
ということで、3人目の実績解除でした。
腰骨すごく好きです。




