表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋するアフロディーテ  作者: 沙莉
永遠のアフロディーテ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/74

第4話 痴女か乙女か、煩悶の朝

明日、いよいよ直人さんが一ヶ月ぶりに帰国する。


いつ戻ってくるのか分からない私は、何となく期待をこめて、本当は肌に良くないんだけど、うっすらメイクをしたままベッドに入った。


だって夜中に戻ってきて、私の寝顔を……素顔を見たら、引くかもしれない。


恐らく何度も私の素顔なんて見られているとは思うけど、でも一ヶ月ぶりに会うっていうのに、ブサイクなスッピンまどかを見せるなんて、私には出来ない。直人さんも私も、可哀想すぎる。


一番綺麗な姿ではないにしても、少しでもまともに見れる状態で会いたい。


そんなことを思う私は、いい年をして乙女なのだろうか?


布団を顎近くまで被り、目を閉じた私は色々なパターンでシュミレーションをしていた。


明日、昼間に帰ってきた場合。直接会社に来るのだろうか。それとも荷物を一旦実家かここに置いてから、来るのだろうか。


そうしたら、まずは企画室へ行くだろうけど、総務にも顔を出してくれるのかな。


あ、出すか。出張費精算しなくちゃならないもんね。その処理、誰がするのかな。私がしたい。うん、私がしよう。そうなるように、何とか仕向けなくては。


もし帰国が夜になったら、うちへ帰ってくるよね。夕飯どうしよう。私が作った味がいまいちはっきりとしない、ぶっちゃけ不味い料理でも作っておいたほうがいいのだろうか。


それとも、配達のピザか……疲れているだろうから、外食は絶対避けよう。宅配ってうち、ピザがお寿司のメニューしかない。久し振りの日本だから、お寿司の方がいいかも。でもあそこのお寿司屋さん、あんまり美味しくないんだよなぁ。


悶々とそんなことを考えて、更には何を明日着て行こうかとか、下着は新しいのに履き替えようとか。


更にそんなバカなことまで考えていたら、目が冴えてきたような気がするんだけど、でも寝なくちゃと焦って、ギューギュー目を閉じていた。


羊が一匹、羊が二匹って数えると眠れるっていうけど、あれは絶対嘘。私、最高5万匹以上までいったことあるもの。


だから、羊はやめて、直人さんを数えよう。


直人さんが一人、直人さんが二人、直人さんが三人……クローン? ちょっと怖いかも。


ていうか、そうなったら私は何番目の直人さんを愛せばいいの? 日替わり? 今日は直人さん一号、明日は五号、みたいに?


果てしなくくだらないことを考えていると、段々脳内がぼやけてきて……






車の止まる音がした。そして少し後に、パタンと車のドアが閉まる音。


ガラガラと何かを引きずる音がしたので、私はばっと身体を起こした。


嘘、帰ってきた!! 直人さんが、帰ってきた!!


まずは鏡。うっすら施したメイクを補強して、慌しく髪を梳かして整えた。


そして玄関前に立って待機していると、そっと鍵を開けて、ドアノブが捻られるより先に。


「直人さん!!」


私は素足で玄関に飛び降り、ドアを勢いよく開いた。


「うぉっ!? ま、まどかちゃん!?」


びっくりしていたような声で私を呼ぶ直人さんの声。ああ、毎日電話で聞いていたけれど、やっぱりいい。生はいい。


本当はすぐにでも抱きつきたいんだけど、私は感動のあまり打ち震え、その場に硬直してしまった。


直人さんはにこりと笑顔を浮かべ、玄関に入り。


そしてその場にスーツケースを置いて、居間まで歩いていった。


私はその後を追いながら、どの言葉を先に口にするべきか悩んでいる。


『お疲れ様』『ずっと会いたかった』『向こうでどうだった?』


悶々と悩む私に、直人さんはくすりと笑みを浮かべて手招いた。


おずおずと乙女な私が近づくと、直人さんは嬉しそうな笑みを浮かべたまま、


「ただいま」


「おっ、お帰りなさい……」


「まどかちゃん、俺が今、何を考えているか分かる?」


へっ?


直人さんのことは大好きだけど、私はエスパーじゃないので、そこまでは……。


だけど、にこにこと笑う直人さんが私の返事を待っているので、私は上目遣いで直人さんを見上げた。


「あの……間違ってても、笑わないでね?」


「うん、笑わない」


直人さんが頷いたから、私は小さく呟いた。もう、目線は直人さんを見れなくて、足元に落ちている。


「えっと、ええと……私を、抱きしめたい?」


何て恥ずかしいことを言っているんだろう、私は。自分で言ってしまってから、めちゃくちゃテレてしまったんだけど。


でも、ふわりと私を包み込んだぬくもり。それが強く熱くなり、私を直人さんはぎゅっと抱きしめた。


顔を肩に埋めて、囁かれた声は、さっきよりもずっと甘い。


「正解。それじゃ、次は?」


「つっ、次? え、ええと、キ、キスしたいとか……?」


それは直人さんの気持ちを読んだわけではなく、単なる私の願望なんだけど。


でも、直人さんは私から片腕を離すと、その手で私の顎を捉えた。


くいと上を向かされると、そこにあるのは優しい笑みばかりじゃなく、ドキドキするような艶やかな色あいの顔。


「うん、それも正解……」


目線を真っ直ぐ私の唇に捕らえ、段々近づいてくる直人さん。


塞がれた一ヶ月ぶりの感触の唇は、喜びで震えてる。


するりと入ってきた舌に、必死で合わせていると、直人さんは私から顔を上げ、そして頬をそっと撫でた。


「まどか、次は……?」


次? 次って言ったらもう、アレしかないでしょ? でも、帰ってきて早々はいくらなんでも……


「言って、まどか。俺、もう……」


もう限界!? う、嘘、早く言わなくちゃ。だけど、そんな恥ずかしいことを私が言うの? どんな顔をして言えばいいの。


抱いてって言うの? それとも直人さん、私を抱きたい? って聞くべき?


あたふたと考えていると、くすりと笑った直人さんが、私の首筋に顔を埋めた。そしてちゅっと音を立ててそこにキスをする。それだけで、ふるっと身体が喜んだ。


「時間切れ。だから、罰としてベッドじゃなく、ここで……」


そしてゆっくりと寝かされた私は、ベッドじゃなくてソファに座らされ、その前に胡坐を掻いた直人さんが、私のパジャマのボタンをゆっくりと脱がし……


「あっ……」


直人さんの手が、私の身体をゆっくりとなぞって……


「やっ、だめ……」


やがて身体を起こした直人さんは、私に目線を合わせて顔を近づけ、




私に頭突きを食らわした。




「いだっ!!」




……ちゅんちゅんと、スズメののどかな鳴き声が聞こえてくる。


そして私は、ベッドから、頭から落ちていた。


「……」


もちろん、隣には直人さんはいない。


ひぃー!! 夢!? なんていう生々しい……恥ずかしい!!


誰も見てはいないというのに、私は飛び上がるように起きて、あまりの恥ずかしさに顔を押さえた。


熱い。手も顔も、まるで熱があるみたい。


いくら直人さんが帰ってくるのが嬉しいからって、こんな夢を見るなんて。私、痴女!?


ていうか、私って直人さんの身体が目的みたいじゃない! やだやだ、最悪!!


それに何あれ。最後の頭突き。何で直人さんが私に頭突きを……全くもって、意味不明。


そもそも夢って基本的に、意味不明だけどね……。


今日、いよいよ直人さんが戻ってくるっていうのに。私は朝からトーンダウンしてしまい、総務についても無言を貫いていた。何か一言喋ると、私の痴女っぷりを大公開しそうな恐怖もあった。


昼休みまで、必要最小限喋らないでいた私は、休憩中に里佳と真菜から首を傾げられるくらいヘンだったようだ。


直人さんが帰ってくるのは嬉しい。だけど、どんな顔をして出迎えよう。


出来れば、夜に帰ってきてくれるといいな。


確かに私は絶賛欲求不満中。心も身体も、直人さん不足で限界ギリギリ。


だから、職場でも、直人さんの姿を見たら抱きつきそう。ヤバい、危険。


どうしよう、どうしようと自分を抑えている中で、目の前に座っていた里佳が、ふと視線を上げて。ニヤリと笑って私の腕を突っついた。


「なあに?」


その問いに、里佳は顎で私の横を指し示す。


訝しげな表情を浮かべた私は、その場所に顔を向けると。


目の前に、すんごく目の前に。


直人さんがいた。






一ヶ月ぶり。


少し痩せた? でも、髪の毛ちゃんとカットしたのね。眉に掛かるくらいの長さの前髪、前よりも軽くなったみたい。後ろもちゃんと短めに切ってある。


眼鏡越しの瞳が、優しく細まり、私の声を待ってる。


お帰りって、言わなくちゃ。


でも、泣きそう。一言声を出したら、絶対泣く。そしたら、抱きつきたい衝動に駆られる。


もし抱きついたら、キスしてもらいたくて仕方がなくなる。


分かってる。


だから、その一連の行為を止めるには、声を上げない方がいい。


でも、無言のままでいたら、直人さんがヘンに思う。私が待っていなかったって勘違いするかも。


頭の中でグルグルと色々考えていると、直人さんの目が見開き、慌ててスーツのポケットをまさぐっている。


そして身体を寄せて、私を覗き込んだ真菜が、一瞬絶句した後、私を指差して、突然大爆笑した。


「ぶははははは!! まっ、まどかー!! あんた今の一瞬で何を考えてたのよー!!」


「妄想癖もここまでくると変態の域ね」


溜息交じりの里佳に向くと、彼女はヒクッと頬を引き攣らせた。


「動くな!! 気持ち悪い!」


気持ち悪い? 何たる失礼発言。だけど、何か手にポッタンポッタン垂れてくる。あれ、私とうとう泣いちゃった?


「ま、まどかちゃん、これっ!!」


慌てた様子の直人さんが、私にティッシュを押し付けた。そして何枚かを手にして、私の鼻をぎゅっと押さえた。


ひっ、痛い、いたたたた!


昼休みの食堂で。


久し振りの再会だというのに、私は愛する婚約者に突然鼻を摘まれるという展開に、頭が着いていかなかったんだけど。


「エロいこと考えてたんでしょ!! ぶはははは、この痴女!!」


私を指差して大爆笑中の真菜の声で、私は自分が鼻血を出したことにやっと気がついた。






さ……最悪じゃないの!! 最悪極まっちゃったじゃないの!!






一ヶ月ぶりの再会で、嬉しくて。あまりに嬉しくて。


静かに脳内大暴走の私は、興奮が収まらずに鼻血噴出。


ありえない……お帰りの一言も言えずに、直人さんを見た瞬間鼻血って、……


呆然とする私を、直人さんは心配そうに覗き込んだ。


「大丈夫? 医務室行こうか。立ち上がれる?」


優しさ全開の直人さんに、里佳が冷たい声を放った。


「放っておきゃいいのよ。どうせただの欲求不満なんだから」


と、恥知らずな発言をして、更に私は鼻血を噴出してしまった。


ああ、もう……エンドレスに直人さん帰国後のシュミレーションをしていたのに、全て泡のごとく消えていってしまった。


私はティッシュを自分で抑えながら、直人さんを見上げた。隣で歩く直人さんの空気。直人さんの香り。全てが懐かしく感じ、涙が出そうになる。


だけどそれを堪えて、発した言葉は。


「…………おひゃえりなひゃい」


……消えてしまいたい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ