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恋するアフロディーテ  作者: 沙莉
恋に恋するアフロディーテ

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4/12

第4話 端っこの特等席

不安と、不破さんと一緒に飲み会に参加出来るという喜びが入り混じった金曜日。


あっという間にやってきた。


どうしよう、何を着ていこうかな。朝から悩んでしまった。


今まで飲み会なんて、どうでも良かったけど。自分のためにファッションには気を使うけど、男の人の目線を考えてのことなんて、本当に久し振り。


不破さんは、どんな服装が好きなのかな。私はただでさえ、顔が派手だから、せめて服は地味目で攻めてみようかな。


化粧も、ナチュラルを目指したけど、それでも濃い私の顔。鏡の前で愕然としたけど、もうこればかりは仕方がない。


何度も定時まで、化粧を直し、服装をチェックして。


そして決戦の火蓋は切って落とされた(私の中で)。





まずは席順だ。どうにかして、不破さんの傍に座りたい。

幹事の里佳によると、席順は公平にクジで決めるそうだ。


「里佳、私、座りたい席があるんだけど、都合つけてもらえない?」


そう頼んでみたけど、里佳は苦笑して手を振るばかりだった。


「ダメダメ、まどかはすぐに端っこ座りたがるじゃない。出来ればあんたにはドカーンと真ん中に座ってもらいたいのよ。そして私達が物色する時間をくれれば、尚言うことはないけどね!」


……エサですか、私は。


やる気マンマンの里佳にそれ以上何も言えず、私は祈りながらくじを引いた。


最初だけ。後はきっとダラダラになって、席の移動も可能になるだろう。


そして引いたくじは、微妙。不破さんが端っこの席で、石橋さんも逆の端っこの席で。


私は里佳の思惑通り、ど真ん中という結果になった。


楽しげな笑顔で言い寄ってくれる男性陣だけど、私の返事は全て上の空。一人ぽつんとなった不破さんが、気になって仕方ない。


里佳、あんた幹事でしょ? どうして不破さんを一人にさせるの! あ、でも、他の子が話しかけたら嫌だな。それは嫌だ。


悶々としていると、石橋さんが突然大きな声を張り上げた。凄くビックリするような、大きな声だった。


「あー、もう!! この席順、最悪じゃね? もう一度席替えしねえ?」


何て失礼な。目の前の女の子にそんなことを言って、悪いと思わないのかな。


やっぱり最低、この男。


でも、利用する価値はあるかも。恋する女には、怖いものはないのだ。


「最悪っていうのはないけど、でも席替えをするのも面白いかもね。よかったら石橋さん、こっちに来ない?」


そう言うと、一気に面白くなさそうな顔をした営業の男性陣の間に、石橋さんが笑顔で割り込む。


「さすが、まどか。俺の気持ち、分かってくれてんだなー」


そう満面の笑みを浮かべている石橋さんを目の前にして、私もすっくと立ち上がった。目を見開く男性陣に、軽く手を振り、私の中で最高の微笑を湛えた。


「じゃあ、私も移動しようっと。皆、いろんな人と会話を楽しんでね。……あ、ちょっとそこ、詰めて詰めて」


そう私が割り込んだのは、もちろん端から二番目。

分厚い眼鏡を掛け、無表情で一人お酒を傾けていた不破さんの隣だった。


あっちでは、不穏な空気が流れているみたいだけど、私には関係ない。里佳に責任持って対処してもらおう。


それよりも、私はもう、心臓バクバク。だって、腕が触れそうなくらいの距離に、不破さんがいる。


ちらりと顔を見上げてみた。


長めの前髪の下には、太い黒縁の眼鏡。相当目が悪いんだろうな、横から見ると、レンズの厚さが半端ない。その奥には、きっと誰も気付いてないだろう。切れ長の綺麗な目が、長い睫に縁取られている。


時折、仕事途中で目が疲れたのだろう、眼鏡を外して瞼を押す不破さんを見て、私は何度も胸をキュンキュンさせていた。


だって本当に眼鏡を外した不破さん、カッコいい。でも、誰にも言わない。私だけの秘密。


すっと通った鼻筋も、いつも真一文字に引き締められた唇も、私にとってはどんな素敵な芸能人でも敵わない。


見つめていたい。いつまでも、見ていたい…………。


「……山岸さん、いいの?」


ふと、声を掛けられた。ふふふふふ、不破さんから!!!


心臓が凄い勢いで高鳴り、だけどそれを見破られないように、私は精一杯余裕の笑顔を浮かべた。だってこんなにドキドキしているのを感づかれたら、気味悪がられるかもしれない。嫌われたくない。


「何が?」


さりげない口調で、ビールを口に運ぶ。どうしよう、味が全然しない。


「こんなところに座ったら、つまらないんじゃない?」


世間話っていうの? これ。だとしたら、初めて。入社4年目にして、初めての快挙!


心の中でガッツポーズをしながら、私は不破さんにビールを継ぎ足した。


「つまらないなんて、そんなこと。あ、不破さん、ビールでいいの? 他のお酒頼む?」


いいぞ私。このまま会話を進めていこう。


「いや、俺、あまり酒、強い方じゃないから」


そう言いながら、不破さんは眉を軽く寄せ、そして私の方に手を伸ばした。


え、あ、そんな突然…………!


……違うか、ちょっと暴走しすぎてしまった。不破さんは、私の手にしていたビール瓶を受け取っただけだった。何か危ないな、私。落ち着こう。


不破さんが眉を寄せたのは、やっぱり照れてしまっていたからだったみたい。頬が、お酒とは違う赤みを差している。


くうぅ、何て可愛い反応! そして可愛い仕草!!


片手で私のグラスにビールを注いでくれながら、目は私を見ない。見て欲しいのにな。頑張ってナチュラルメイクにしたのよ? 服だって、いつもよりずっと地味目なのにしたのに。


「山岸さんは、ビールでいいの?」


本当は、もうサワーとか飲みたいけど、でもビールだったらこうして注いでくれるから。


だから、お腹いっぱいになってきちゃったけど、ビールでいこう。


「里佳、こっちにビール5本追加して!」


次の瞬間、私は里佳にそう注文して、不破さんを驚かせることに成功した。


ふふ、楽しい。隣で座ってお酒飲むことが、こんなに嬉しくて心がときめくなんて。


どうしよう、このまま告白しちゃおうかな。


ドン引きするかな、不破さん。男の子って、照れると冷たい反応したりするもんね。


『冗談じゃねえよ、何でお前みたいな尻軽女と』


なんて言われたら、私きっと一生立ち直れない。


どうしよう、どうしよう。


頭の中での妄想を止められずにいる私に、不破さんは不思議そうに首を傾げた。お酒が入って、ちょっと余裕が出てきたのかな。今度は、ちゃんと私の目を見てくれている。


ドキドキドキドキ…………


その瞳が、私を映している。それだけで、もう昇天しそうになる。


「あの……」


言いかけた私に、不破さんは瞬きをして目を伏せた。ああ、その仕草ヤバい。何て長い睫。横から見ると、眼鏡越しにダイレクトに見えて、色っぽすぎる。


「あ、ごめん。……あのさ、今までちゃんと言えなかったんだけど、でも……いつも、ありがとう。俺たちの仕事のフォローしてくれて。来客の対応とか、細々したことやってくれて、ずっと感謝してた」


そう、小さな声で言った不破さんの声は、とても澄んでいて、耳に心地いい声で。


しかも、しかも『ありがとう』って!!


実はもう大興奮冷めやらぬ状態でいるのに、私はそれをかろうじて抑えてにっこりと笑い、


「こちらこそありがとう。そういう言葉を貰えるのって、なかなか無いから。とても嬉しい」


そう応えた。


頑張った私! 大人な反応をかろうじて出来た!


ずっとバクバクしている胸をそっと押さえ、私は軽く宙を見上げた。




チャンスか!? チャンス到来だろうか! どうする私!!




アドレナリン大放出の私を、静かに見据える視線に気付かず、私は一人密かな盛り上がりを止めることが出来なかった。

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