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恋するアフロディーテ  作者: 沙莉
星に願いを

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20/21

第5話 流れ星に託した、二人の願い

たくさんお喋りして、たくさん美味しいお料理食べて。楽しい時間を過ごせた。


そしてたくさんお酒を飲んだのに、頭の芯は冴えきっている。どうしてだろう。






珍しくしっかりした私は、駅への道すがら、公園を見つけてしまった。


少し大きめな公園で、芝生が生えていて。何となく、直人さんの腕を引いた。


「もうちょっと、そこでお喋りしたいな」


そうおねだりをすると、直人さんはくすりと笑って頷いて、私の手をきゅっと握って近くのコンビニに入った。


酔った私がふらつかないように、の処置で握ってくれた手だったかもしれない。


それでも私にとっては、この瞬間は夢心地。大好きな直人さんの、大きな手。






ずっとずっと、離さないで。




好きなの。こんなにも、大好きなのよ。絶対、手離したくない。






その想いが、私の中で駆け巡る。




ぽわーんと考えていた私に、直人さんが手にした籠に入れる前に、確認をとってくれた。


「まどかちゃん、これ、どっちがいい?」


そう尋ねてくれたのは、ポテトチップスの味の種類。コンソメか、うす塩か、のり塩か。


私の好みとしては、圧倒的にのり塩だけど、でも歯のり状態を直人さんに曝け出したくない。うす塩は、少し食べていて物足りない。


「コンソメがいいな」


「うん、じゃあ後は……」


そう言いながら、私の手をしっかりと引き、直人さんは次々にお菓子を選んで。そして冷えたビールをいくつも籠に入れて、お会計を済ませた。


そのままコンビニの袋を手に、私たちはあの公園へと入っていった。


そう言えば、アウトドアのデートってあんまりない私たち。それに気付き、ゆっくりと歩く直人さんの肩に、頭をもたらせた。


ぎゅっと腕を掴んで、私の右半身を直人さんに密着させる。凄く、安心する。どうしてかしら。


今まで交際した男の人に、ここまで依存した気持ちになんてならなかった。だけど、直人さんには私の全てを預けたい。


そう思う自分とは裏腹に、心配している私がいる。


直人さん、迷惑じゃないかしら。こんな、ストーカーまがいな女に振り回されて。


私の恋心が、暴走しているのは分かってる。だからこそ、心配になる。だって、嫌われたくない。


あっちこっちで何かしら出来事が起きるたび、落ち着きなく不安になる私。


泥沼どん底に落ちそうになる私を、さらりと救ってくれるのは、もはや直人さんしかいないの。


だから、この手を離さないで。




「……ここらへんが、いいかな?」


ふいに直人さんの声がして、私は意識を急上昇させた。


駄目ね、折角の二人きりの時間なのに。


私はにこりと笑って、なだらかなその芝生の上に腰を掛けようとしたら。


「待って」


直人さんは、さっと自分のハンカチを敷いてくれた。こういうさりげない優しさが、ますます私の恋心をヒートアップさせてしまうこと、分かっているのかしら?


「……ありがと」


赤くなりそうな頬を押さえ、短くそう言って、そのハンカチの上に腰掛けると。


目の前には、綺麗な星空が満天に広がっていた。


「凄いね、ここ、あんまり明かりないから。これだけ星が見えるスポットって、ここらへんではあまりないかも」


直人さんも、直に隣に腰掛けながら、天を見上げた。


凄まじい程の星空。この都会に着てから、初めて見るかもしれない。


思わず感動して、天空に釘付けになっていると、直人さんがぽつりと呟いた。


「まどかちゃん、あの……」


「え?」


止まってしまった直人さんの言葉に、思わずそう返してしまい、彼に目を向けると、月と星との僅かな明かりにも、真っ赤になって俯いた直人さんがそこに映っていた。


驚いて、直人さんを見つめ続けると、彼はふいに手を伸ばし、私の手をきゅっと握り、目線は足元の芝生に向けたまま続けた。


「あのさ……俺を選んでくれて、ありがとう」


驚きすぎると、人間って言葉にならないのね。


直人さんの突然のその言葉に、私は瞬きを繰り返すしか出来なかった。


だって、選んでもらったのは私の方だと思っていたから。だから、信じられない気持ちでいっぱいだった。


「直人さん……?」


「俺、こんなんだから。だから、まどかちゃんに相応しいなんて思ってない。だけど、まどかちゃんが言ってくれた言葉が、……その、まどかちゃんが俺を、ええと……」


言いよどんでいるその言葉の先を知り、私はくすりと笑って言った。


「私が、直人さんを好きってこと?」


直人さんは僅かにほっとしたような顔をして、私に微笑んだ。自分じゃ恥ずかしくて言えないのね。紛れもない事実なのに。私が、直人さんのことを好きだってこと。


だけど、そんな一言を言うのに照れてしまう、あなたがいいの。


私がにこにこしていると、直人さんは片手を私に繋いだまま、もう片方の手を背後について、もう一度星空を眺めた。


「うん、そう言ってくれたから。だから、俺は自信っていうか、勇気っていうか。そんなものが沸くようになったんだ」


そして、私に目を向けた直人さんの眼差しは、アルコールが入っているなんて思えないほど真摯で。


私は爆発してしまうのではないかと思うほど、胸がドキドキして止まらない。


「凄く、嬉しかった。今も嬉しい。まどかちゃんといられる時間、俺にとってどれほど貴重なのか、毎日実感してる」


「直人さん……!」


私は感激してしまって、思わず直人さんと繋いでいた腕に抱きついた。スーツに、私のファンデーションがたくさんついてしまうかも。


後で、たくさん謝るから。だから、今は許して。


ぎゅーぎゅー直人さんに抱きついていると、彼はふいに、私の頭部に手を伸ばした。そして、私の髪をそっと撫でた。


優しく、柔らかく。


思わず見上げたら、眼差しも同じような色をしていて。心臓が、止まりそうになる。


「まどかちゃんの可能性を、俺が潰すハメにはなりたくない。応援したいんだ。何の力もないけど、でも、まどかちゃんがやりたいことを応援していきたい」


そう言ってくれた直人さんを、今、私はどんな顔で見上げているんだろう。


微笑んでいるのだろうか。


泣きそうになっているのだろうか。


それすらも、分からない。


呆然とした私の頬に、直人さんの手がゆっくりと這った。


「俺は、ずっとまどかちゃんの味方だから」


どんな道を選んでも。


直人さんは、私を見てくれているの?


心の底を、見透かされてしまったかな。迷いに迷っている私の、本心を。


傍にいたいの。直人さんの一番近くにいたい。だけど、総務主任と会話して、私の中に芽生えたものが確かにある。


自分の可能性、試してみたい。


どこまで出来るか、分からない。だけど……。


「……直人さん、抱っこして」


私の不意打ちのお願いに、直人さんは硬直してしまった。私の頬を撫でてくれた手も、固まっている。


思わず声を上げて笑いながらも、私はさっさと直人さんの膝に乗っかって。そして向かい合わせの彼に、ぎゅーっと抱きついた。


暖かい。


体温だけじゃない。伝わってくる気持ちが、凄く暖かくて心地いい。


おずおずと、私の背中に回してくれた手。それが段々強くなり、私の体がまるで直人さんと溶け合うような錯覚を覚えていく。


「まどかちゃん…………まどか…………」


耳元で、熱い吐息と共に囁かれる。


ドックンドックン、胸がうるさい。だけど私は、ぎゅっと直人さんにしがみついたまま。


だって、動けない。目線は、目の前に輝く星から動かせないの。


「まどか、愛してる……」


そう囁く声。続いて、私の耳たぶや首筋に、柔らかい感触が当たり、私は僅かに直人さんから身体を離した。


ちょっとだけ私を見上げる形になった直人さんは、私から片手を離し、眼鏡を外して。


変わらず赤く染めたままの頬を、小さく緩ませた。


「総務に行っても、俺たちの関係は変わらないよ」


見破られている。


私の思い。全部、直人さんには筒抜けだ。


泣き出しそうになるのを堪えて、頷いた。


その私の頬に当てていた手が、ゆっくりと上へと上がり、私の後頭部を捉えると、ぐっと引き寄せた。


重なる唇。初めて、直人さんからの熱い口付け。


それに恍惚となりながら応えていく。


全身が、まるでその触れ合っている場所全てになっているかのように。私は直人さんのぬくもりを体中で求めていた。


「っ……は…………」


時折離れ、また重なり合い。


どれほどの時間だろう。最後は結局、私は直人さんの頭部を抱き締めて、私から求めてしまっていた。


最後に、軽く唇に音を立ててキスをして、僅かに顔を離した直人さんは、にこりと笑って言った。


「こうしている時間って、凄い幸せだね」


嬉しかった。


キスの後、仕事の話を言われたら、また悩むところだったのに。


そうね、本当に幸せ。


あなたといるこの時間が、私の全てであればいいのに。




今現在では有り得ないことを願った私の目の前に、白い軌跡が映った。


「直人さん、流れ星!!」


「え、本当!?」


慌てて振り返った直人さんは、ぶつぶつと何かを唱えた。きょとんとしている私の腰を抱いたまま、直人さんはくすりと笑った。


「間に合わなかったかな、残念」


「何をしてたの?」


「流れ星が見えている間に、願いを三回唱えるとそれが叶うって言うだろ? だから……」


その途端、直人さんはまた俯いてしまった。私はきょとんとしたまま、その直人さんを覗き込む。


「何を、お願いしたの?」


「ええと、えっと……」


「なあに? 気になる。教えて?」


「その……まどかちゃんが、幸せになれますようにって」


ずっきゅーん。




どこまで落とせば気が済むの?


さっきまで、あんな熱いキスをくれた人のこの言葉。




何だか私ばかりがそんな思いでいるのが、突然悔しくなってしまった。


「ずるい。私も直人さんの幸せを願いたい」


「ええ? いいよ、俺は……」


「嫌。早く星、流れないかなあ」


私が眉を寄せてそう言うと、直人さんは抱いていた私の腰を更に引き寄せ、耳元で囁いた。


「それじゃ、二人で同じ願いをしよう?」


「同じ?」


思いもしなかった言葉だった。瞬きしていると、直人さんがこっそりと私に囁き、思わず私も微笑して頷く。


それなら、二人合わせて三回言えるね。


そして。


「あ、流れた!!」


「まどかちゃん、早く!」


急かされ、私は目を閉じて祈った。




ずっと一緒にいられますように。




一人頭二回言えたら、二人分で三回言えた事になるよね。


間に合ったかな?


思わず直人さんと顔を見合わせ、笑った。




そして、私はこの日に決意した。




直人さんのためになる仕事をしていきたい。そのために、スキルアップしていきたい。


こんな理由、情けないかもしれないけど。それでも。後悔だけは、したくない。






翌週、室長に異動願いを届け出た。

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