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恋するアフロディーテ  作者: 沙莉
恋に恋するアフロディーテ

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2/11

第2話 微笑みの余韻

学生時代の読者モデル経験は、社会人になっても生かされている。

だって化粧の方法とか、プロのメイクさんに教えてもらったりしていた。


そして私も、お化粧やお洒落が大好き。


ある日、友達が告白をするという日、頼まれてメイクをしてあげたことがある。そしてその恋は実った。


その友達が、あちこちにそれを言いふらすものだから、私はいつしか、この会社で告白をしようとする女の子から、次々とメイクを頼まれるようになった。


どうも、私がメイクを施して告白すると、想いが叶うというジンクスが生まれたらしい。


そしてつけられたあだ名は、「アフロディーテ」。美と愛の女神だそうで。大層なあだ名をつけられたものだ。


更に、私が色んな男性に思いを寄せられても、全く受け入れようとしないのを、友達らは揶揄してくる。


『恋に恋するアフロディーテ』


……全く、失礼な。


私だって恋してます。その相手を、誰にも言わないだけ。もし、不破さんに迷惑が掛かったら……そして私の想いを気付かれて、避けられてしまうような事態になったら。


私はきっと立ち直れない。


怖い。不破さんの気持ちが分からないだけに、とても一歩を進めなかった。




そして今日もまた、私の元に一本のメールが入った。


『定時後、メイクをお願いできますか?』


嫌いじゃないから、喜んで受けるけど。でも、もし告白が失敗しても、私を恨まないでね。


そういうニュアンスを含めながら、了承のメールを送り返す。


世の中の女の子、皆度胸あるんだなあ。私、ダメダメ?


でも、初めてかも。こんなに好きなのに、行動に移せないなんて。


不破さんが、重度の照れ屋さんだってこと、知っているからかも。ううん、違う。何より、嫌われたくない。もう見せてくれないけど、今のままの関係だったら、またあの微笑を見せてくれるんじゃないかって、そういう期待も心の底にあったりする……。


私と不破さんが始めて出会ったのは、入社式の日だった。


電車が遅れて、ギリギリの時間に到着した私。予定されていた入社式の会場に向かっても、誰もいない。


「うそ、どうして? え、何で?」


一気にパニックになる私。入り口に、会場の変更を貼り出していたのを、慌てふためいた私は気付かないでいた。


「どうしよう、初日から遅刻なんて有り得ない! クビになったらどうしよう……」


やばい、泣きそう。ルックスだけで採用されたような、情けない就職とは言え、この時期に再就職先を探すなんてとても無理。


私は段々最悪の事態に気持ちが移っていき、何だかもう、涙腺が限界になりそうになっていると。

私がいた会場の前を、一人の男性が通りかかった。


あの人に聞けば、何か分かるかも!!


そう思った私は、思わず彼を呼び止めた。


「あの、新入社員なんですけど、入社式の会場ってここじゃないんですか!?」


彼に走り寄りながら声を上げると、彼は驚いたように立ち止まり、そして私を眺めていた。良かった、これで入社式は何とかなりそう。


そう思った私の前を、彼は無言で歩き去ってしまった。


嘘でしょ!? 無視!?


再びパニックに陥りそうになり、大きな会議室から飛び出ると、廊下の先で彼が立ち止まっていた。そして私を確認すると、また歩き始める。


え、どういうこと?


よく分からないまま、彼の後を追っていく私。


すぐに、気付いた。彼は、曲がり角や分岐点になると、ちゃんと私を待っていてくれた。


そして辿り着いたのは、新入社員がごった返す入社式会場。


「新入社員の方ですね? こちらでお名前を確認してください」


そう受付の女性に言われ、私は心底ほっとした。


少し離れた場所で、まだ私を見ていた男性に、大きく頭を下げた。


「ありがとうございました!!」


すると、その男性は、途端に顔を真っ赤にして、小さく首を振り……そして口元に、柔らかい笑みを浮かべた。一瞬だけ。


その一瞬で、充分だった。私を恋に落とすのには。


こうして、私はその日、その瞬間から。


不破直人さんを、ずっとずっと想い続けている。


また、あの笑みを見せてくれないかな。

はにかんだような、優しい笑みを。


それを、期待しながら。

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