表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋するアフロディーテ  作者: 沙莉
恋に恋するアフロディーテ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

第1話 レンズ越しの恋心

好きなのに。こんなにも、好きなのに。


想いが告げられない。



今日も出社後、昨日定時後に配送された郵便物を、社員達に届けて回る。


「おはようございます」


そう、にっこりと笑みを浮かべながら。


私は、山岸まどか。この会社の企画室の庶務を担当している。


本当は、総務部での採用になるはずだったのだけど、面接の際に、丁度その場に居合わせた企画室長が、私の経歴を見て、ぜひにと庶務を任されることになった。


高校、短大の間、読者モデルをやっていたのが、彼の興味を引いたようだった。


私としては、バイトの代わりのつもりだったのだけど、男性には物珍しい経歴だったのかもしれない。


そして私の少しばかり派手な外見は、よくこの会社を訪れる外国人のお客様にも受けるだろうからと。そんな、女として情けないような、腹立たしいような理由で採用されてから、早四年。


私も段々と今の環境に慣れ、そして自分の容貌を上手く利用しつつ、社会人として何とかやっているところだった。


「おはようございます、石橋さん」


そう言いながら、一昔前のサーファーばりの茶髪の男性の前に、いくつかの手紙を置いた。


「おはよー、まどか。今日も変わらず別嬪だね!」


別嬪って……私は引き攣った笑みを浮かべて、その場を立ち去ろうとしたけど、その私の腕を石橋さんが掴んだ。


「なあ、毎日言ってるけど。まだ俺と付き合う気になんない?」


見た目チャラ男、中身もチャラ男の石橋さんは、どうも私に気があるらしく、ことあるごとに言い寄ってくる。


でも、はっきり言って、好みじゃない。私はチャラチャラしてだらしない男は嫌。それに、許可もなしに、名前を呼び捨てにされたら、正直面白くない。


石橋さんは、話せば楽しい人かもしれないけど、仕事ちゃんとやってないもの。時折社内で見かけても、誰かとおしゃべりばっかり。会議でも、理屈ばっかりで、結果を出さない。口先男の相手なんて、ごめんこうむる。


「何よ朝から。離してよ」


「何でだよ、俺のどこがダメ? 言ってよ、直すように努力するし」


あんたの全てが嫌なのよ。


そう言いたいのを、ぐっと我慢して、私は手にした郵便物を彼に見せた。


「仕事の途中なの。邪魔しないでくれる?」


そう言うと、渋々ながらも手を離してくれた。やれやれ。


そして、ふて腐れたようにパソコンを立ち上げる石橋さんの隣……私の席の真後ろに当たるんだけど。


そこに、真っ黒い髪で、黒縁眼鏡を掛けて。もう仕事を始めている男性が座っていた。


彼と石橋さんと私は同期。といっても、短大卒の私と、四大卒の彼らとは年齢が違うけど。


カチャカチャと無言でキーボードを操る彼の前に、邪魔にならないようにそっと郵便物を置いた。


「おはようございます、不破さん」


私が小さく声を掛けると、不破さんは、ぴくりとキーボードを打っていた手を止め、パソコンの画面から目を離さないままに軽く頭を下げてくれた。


「おいおいおい、まどかが挨拶してるっつーのによ、おはようの一言も無しかよー!」


そう隣で石橋さんが大きな声を上げて、私は眉を寄せてそれを止めた。


「やめてよ、ちゃんと頭を下げてくれたじゃない。それでいいのよ!」


「んだよ、不破、お前社会人としての常識がなってないっての! 何だよ、ったく。朝からお前の陰湿なツラ見てると、腹立ってくんなー!!」


ばん、とファイルを机に叩き付けた石橋さんは、そのまま立ち上がってどこかに言ってしまった。


全く、社会人としての常識がないのはアンタだっつーの。


馴れ馴れしく人の名前を呼び捨てにしたり、不愉快極まりない暴言を吐いたり。挙句に仕事もロクに出来ない男が、よくもまあそんなことをずうずうしくも言えるものだ。


私はムカついて仕方ないけど、でも一番今、嫌な思いをしているのは不破さんだし。小さく溜息をついて、未だパソコンの画面から目を離さない彼を覗き込んだ。


「あの、あんまり気にしない方がいいよ?」


そう言うと、不破さんはやっぱり私には目を向けず……だけど、小さく頷いた。そして、また、キーボードをカチャカチャと打ち始める。


私はその後姿をしばらく眺め、口元に笑みを浮かべるのを押さえられなかった。


だって、耳が真っ赤になってた。


不破さんは、長めの髪で分厚い瓶底眼鏡を掛けていて、誰とも仲良く会話しないから、暗くて陰湿だと思われているけど。


でも、違う。


本当は、メチャクチャ照れ屋なだけ。それを、私は知っている。


今日も、朝からいいもの見れた。不破さんの照れた後姿。それだけで充分、一日の活力になる。


私は、不破直人さんに、恋してる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ