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すっぴん聖女はイケメン王子に溺愛される ~私以外の女が化粧で劣化した事件~  作者: ネペタ


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ラフィナVSネマ

 魔の森の最深部で、圧倒的な質量を持った純白の光が真っ向から激突した。


「くっ……! なんて光だ、目が開けられない……!」

「二人の聖女の聖魔力が衝突して、空間そのものが軋んでいる……! 殿下、これ以上近づくのは危険です!」


 シルアレク殿下たちが、腕で顔を庇いながら後退していく。


 ネマ――大聖女ユリアリスから放たれる聖魔力は、私がこれまで出会ってきたどんなものよりも重く、そして途方もない密度を誇っていた。

 女性たちの若さを吸い上げ、無理やり全盛期の十五歳に固定されたその身体には、一人の人間が到底抱えきれないほどの聖魔力が渦巻いている。


「素晴らしいです、ラフィナ。貴女の光は本当に淀みがない」


 ネマは15歳の可憐な顔に、大人びた静かな微笑みを浮かべて私を見た。

 その口調は、先ほどの刺々しいものから、かつて私が知る『大聖女』のような、穏やかで丁寧な敬語へと変わっていた。


「ですが、世界を根底から浄化するには、もっと……もっと途方もない力と、『覚悟』が必要なのです」


 ネマが両手を天に掲げた瞬間、彼女の背後から津波のような純白の光の波が押し寄せてきた。

 私は一歩踏み込み、自身の無尽蔵の聖魔力を解放してその光の波を受け止めた。


 ガガガガガッ……!!


 聖魔力と聖魔力がぶつかり合い、周囲の空間が悲鳴を上げる。

 極限まで高められた純粋な力同士の衝突は、やがて空間を越え、お互いの『精神』すらも共鳴させ始めた。


(……これは)


 激しい光の瞬きの中で、私の脳裏に、私のものではない『記憶』が濁流のように流れ込んできた。

 それは、ユリアリスが一人でこの魔の森の結界を維持し続けていた、過去の光景だった。


 ◇


 ――『ユリアリス様、どうかこの国をお救いください』

 ――『結界の維持を、どうかお願いいたします』


 国の期待を一身に背負い、若い時期すべてを魔の森の結界維持に捧げた日々。

 ただ国のために、必死に清貧を貫いた。

 彼女には誇りがあった。

 『私がこの国を護る』という、たった一つの自負が。


 男に関われば聖魔力が濁ると信じ、自らを厳しく律し、誰に甘えることもなく孤独に祈り続けた。

 すべては、この国と人々を守るため。


 しかし……ある日、王弟ディレイ殿下の命を懸けた研究により『魔導器』が完成する。

 魔の森の脅威を、機械が封じてくれるようになった。

 その時、彼女の耳に届いたのは、残酷なまでの『時代の変化』だった。


 ――『これで、大聖女様もようやくお役御免だな』

 ――『最近はお年も召されて、聖魔力も衰えていたからな。ちょうどいい引き際だろう』

 ――『これも時代だな。用済みというやつだ。英雄ディレイ様のおかげで、私たちはもう彼女にすがる必要はない』


 身を粉にして、尽くしてきた人生。


 しかし、国は魔導器の完成に沸き返り、老い始めた自分には手のひらを返したように「お疲れ様でした(もう必要ありません)」という冷たいレッテルを貼った。


(私の人生は、一体何だったのでしょう……)


 ◇


「……私は、初めて絶望という感情を味わいました。ディレイ殿下が魔導器を作ったのは、私から存在意義を奪うためだったのかとさえ思いました。本来、新しい結界が誕生して喜ぶべき事なのに……ディレイ殿下が偉業を成し遂げたことを称えるべきなのに……」


 ネマのひんやりとした声が、私の脳裏に直接響く。


「長年の疲労と、聖魔力の衰えで私は憔悴していたのでしょう。何とも浅ましい思考です……大聖女が聞いて呆れます」


 自虐気味に吐き捨てた後、決意を込めた声色になった。


「だからこそ、私はもう一度、全盛期の自分を取り戻す必要があったのです。知識と経験(スキル)が備わった今の私が、あの頃の聖魔力に戻れれば、魔の森に蓋をするのではなく、浄化が出来る。いつ壊れるか分からない機械(ガラクタ)に頼るのではなく、私の手でこの国を救済すると誓ったのです」


 悲痛なまでの使命感が生んだ孤独な決意。


 彼女は自分自身の価値を証明するために、大聖女としての使命を果たすために、あえて世界を敵に回し、泥を被る道を選んだのだ。


 だが……それを理解した上で、私は真っ向から彼女を否定した。


「……貴女の悲しみは分かりました。でも、やり方が悪臭まみれです」


「……」


 ユリアリスは、無表情で私を見据えている。


「身を粉にした頑張りが報われず、『時代遅れの用済みおばさん』扱いされた貴女の絶望と孤独は十分理解出来ます。でも、勝手に他人の『若さ』を犠牲にするなんて許せません。いくら、後で元に戻す算段だったとしても、被害者の苦しみと絶望は確かに存在するんです。そんな独りよがりな救済は間違っています」


 私の脳裏に、絶望に泣き叫ぶシルキーの姿が浮かんでいた。


 私は、体内にある全ての聖魔力を、右手の指先の一点へとギュッと凝縮させた。

 ティエリーとの特訓、そしてキメラ戦で感覚を掴んだ、私の最強の『矛』。


「それに……すべてを一人で抱え込んで、自分を犠牲にするような『完璧な聖女』の時代は……ここで終わりにします!」


 チリチリと空間が焦げるような音と共に、私の指先に星のような光が灯る。


「『超・圧縮浄化ハイ・ピュリファイ・レイ』!」


 私が指先を弾いた瞬間――。


 極限まで圧縮された純度100%の光のレーザーが、ネマの放っていた莫大な光の奔流を真っ二つに引き裂きながら、一直線に突き進んだ。


「なっ……魔力を、一点に圧縮して……物理的な破壊力に変換している……!?」


 ネマが驚愕に目を見開く。


 他者から吸い上げた不純な力を含んでいるネマの聖魔力の光では、私の純粋で暴力的なまでの『圧縮浄化』を相殺することは出来なかった。


 ピシィィィィッ!!


 ユリアリスが展開していたドーム状の結界が、硝子のように砕け散る。


 光のレーザーは彼女の華奢な首筋のわずか数ミリ手前で、ピタリと静止した。

 少しでも指先を動かせば、彼女の頭を吹き飛ばせるという、完全な「詰み」の状態。

 このコントロールも、特訓と日々の鍛錬の積み重ねのおかげだ。


「……私の勝ちですね、先輩」


 私が静かに告げると、吹き荒れていた聖魔力の嵐が嘘のようにピタリと収まった。


 静寂が戻った森の最深部で、15歳の姿をした大聖女は、自身の首元に突きつけられた光の刃を見つめ……やがて、憑き物が落ちたように、ふっと穏やかな笑みをこぼした。


「素晴らしい……。私の見立て通り、いえ、それ以上です。ラフィナ」


 ネマは両手を下げ、完全に敵意を解いた。


「圧倒的な魔力量、それに加え、的確に事象を撃ち抜くその制圧力。……合格です。貴女なら、私と共にこの森を完全に浄化することができるでしょう」


 私は、ネマ……いや、ユリアリスにゆっくりと歩み寄って、彼女の前にスッと右手を差し出した。


「女性たちを貶めたことは許しませんし、後でたっぷり反省してもらいます。……でも、この森の瘴気を根こそぎ祓うという貴女の目標には、私も大賛成です」


「ラフィナ……」


「貴女一人じゃ無理でも、私がいれば出来るんですよね? 私もずっと、世界の悪臭をどうにかしたかったので」


 私が淡々と、しかし確かな敬意を持って告げると、ユリアリスの無表情だった顔が微かに綻び、ポロリと一筋の涙がこぼれ落ちた。


「……ええ。よろしく頼みます」


 彼女は私の手をしっかりと握り返した。


 ユリアリスの顔は若く美しかったが、その瞳の奥には、長年の重責から解放されたような、深い安堵の色が浮かんでいた。

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