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すっぴん聖女はイケメン王子に溺愛される ~私以外の女が化粧で劣化した事件~  作者: ネペタ


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出発

 王都を襲ったスタンピードの鎮圧と、第一王子派閥の崩壊から数日後。


 私たちは王城の広間にて、国王陛下から直々の謁見を受けていた。


「この度の王都防衛、誠に見事であった。ティエリーよ、未曾有の危機を未然に察知し、被害を最小限に抑えたその慧眼、大儀である」


「はっ。勿体なきお言葉でございます、陛下」


 玉座からの労いの言葉に、ティエリーが優雅に一礼する。


 そして国王陛下は、隣に立つシルアレク殿下と、その後ろに控える私へと視線を移した。


「シルアレク。そして、聖女ラフィナよ。……報告は受けている。先の魔物襲撃において、聖女の放った『光』が巨大な合成獣の瘴気を一瞬にして吹き飛ばしたと」


「はい、父上。彼女の聖魔力は、ただの癒しや浄化に留まりません。あれは間違いなく、魔女ネマの呪いを打ち破る唯一にして最強の『矛』です」


 殿下が誇らしげに胸を張って答えると、国王陛下は深く頷き、力強く宣言した。


「国中の女性たちが美を奪われ、悲嘆に暮れている今、もはや一刻の猶予もない。……余はここに、正式な勅命を下す! シルアレクよ、聖女ラフィナと共に『魔の森』へ赴き、元凶である魔女ネマを討ち果たせ!」


「御意に」


「ですが父上、魔の森の深部を探索し、強行突破するには、僕とティエリー、そしてラフィナだけでは前衛が不足しています。……そこで、先の防衛戦で抜群の戦果を挙げた二人の『猛者』を、討伐隊に加える許可を頂きたい」


 シルアレク殿下が後ろを振り返り、合図を送る。


 すると、広間の大扉が開き、純白の騎士服を纏ったヴィノンと、真新しい革鎧で正装(?)したヤンバラが進み出て、玉座の前に片膝をついた。


「王国騎士団第一部隊所属、ヴィノン。殿下と聖女様の剣となり、盾となる覚悟にございます」


「冒険者ギルドのヤンバラだ! ま、細かい礼儀は苦手だが、魔の森のデカブツ共の相手なら俺の右に出る奴はいねえぜ!」


 堅苦しいヴィノンと、王の前でも相変わらず豪快なヤンバラ。


 国王陛下は二人の頼もしい姿を見て、鷹揚に笑い声を上げた。


「よい! 王国が誇る若き双璧よ、次期国王と聖女の命、貴様らに託す! 必ずや生還し、この国に真の『美しさ』と平和を取り戻して見せよ!」


 こうして、国を挙げた最強の五人パーティーが、正式に結成されたのだった。


***


 そして、いよいよ王都を出発する日の朝。


 神殿の門前には、私たちの旅立ちを見送るために、リンリルとカルネア様が立っていた。


「ラフィナ様……どうか、お気をつけて。絶対に、絶対に怪我なんかしないでくださいね」


 リンリルが、大きな深紅の瞳に涙をいっぱいに溜めながら、私のローブの裾をぎゅっと握りしめる。


 私はしゃがみ込み、彼女の頭を優しく撫でた。


「大丈夫だよ。私には、こんなに頼もしい護衛が四人もついているんだから。それに、私が怪我なんてするわけないでしょ」


「はい……っ! 私、お留守番の間、カルネア様と一緒に神殿をピカピカにしておきます! 瘴気も、悪い虫も、全部綺麗にお掃除しておきますから!」


「ええ、頼んだよ。私の一番の弟子」


 私が微笑むと、リンリルは涙を拭って力強く頷いた。


「ラフィナ、殿下。そして皆様も、どうかご無事で」


カルネア様が、聖女の長として深く祈りを捧げるように両手を組む。


「魔の森は、神の光すら届かないと言われる禁忌の地。……ですが、ラフィナのその真っ直ぐで力強い光があれば、きっとどんな暗闇も晴らせると信じています」


「ありがとうございます、カルネア様。……あの腐った化粧品の匂いを世界から完全に消し去るまで、必ずやり遂げてみせますよ」


 私がきっぱりと宣言し、立ち上がって振り返ると、そこには出立の準備を完全に整えた四人の男たちが並んで待っていた。



「準備はいいかい、ラフィナ。大丈夫、君の進む道は、この僕が必ず切り開いてみせる」

 先頭に立つのは、我らが次期国王にして、万能の魔法剣士シルアレク殿下。


「未知の魔の森、そして貴女の聖魔法の底知れぬ力……ふふっ、魔法使いとしての知的好奇心が抑えきれません。最高の研究旅行になりそうですね」

 その後ろで、空間収納の鞄を叩きながら不敵に笑うのは、後衛支援と戦術構築を担う、宮廷魔法使いティエリー。


「聖女様。貴女に指一本触れさせるような失態は、我が騎士の誇りにかけて絶対に犯しません。全霊をもって、前衛を務めさせていただきます」

 冷気を纏う魔法剣を腰に差し、一切の隙なく気を引き締める、絶対零度の氷の騎士ヴィノン。


「ガハハッ! 堅苦しい挨拶は抜きだ!  デカい魔物は全部俺が真っ二つにしてやるから、お嬢ちゃんは後ろでどっしり構えて、あのデタラメな光をぶっ放してくれや!」

 そして、己の背丈ほどある大剣を軽々と肩に担ぎ、白い歯を見せて笑う、規格外の豪腕冒険者ヤンバラ。


 前衛に、ヴィノンとヤンバラ。

 中衛に、シルアレク殿下とティエリー様。

 そして後衛に、私。


 元々、『魔の森』へは少数精鋭で挑む予定だったが、まさに隙のない布陣になった。



「頼りにしていますよ、皆さん」


 私は深く息を吸い込み、澄み切った朝の空気を胸いっぱいに満たした。


(待っていなさい、魔女ネマ。貴女が作り上げたこの狂った世界を、私たちが正してやるから)


 私たちは、リンリルとカルネア様に力強く手を振り返し、王都の北門を抜けて、真っ直ぐな街道へと足を踏み出した。


 向かう先は、王国の遥か北。

 見えない魔女が潜む、禁忌の領域――『魔の森』へ。


 私たちの、本当の反撃が、今ここから始まるのだ。


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