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すっぴん聖女はイケメン王子に溺愛される ~私以外の女が化粧で劣化した事件~  作者: ネペタ


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悪女・伯爵令嬢のビネッタ

 ティエリーと、神殿の地下で手合わせをした翌日。


 いよいよ現実味を帯びてきた『魔の森』への出発に向け、私とリンリルは物資や保存食を調達するため、王都の街へと買い出しに出ていた。


 ネマの呪いが顕現化してからというもの、相変わらず街の景色は一変している。


 すれ違う女性たちのほとんどが、顔を隠すために深くベールを被り、うつむき加減で足早に歩き去っていく。


 かつての華やかな賑わいを見せていた『ネマ通り』様子は、見る影もなく陰鬱としていた。


「……ラフィナ様」

「うん、分かってる」


 私の手を握るリンリルが、不安そうに身を寄せてくる。


 道行く女性たちから、私に向けられる『異質な視線』がいくつも混ざっているのだ。


 ネマの呪いが顕現化した当初は、「助けてほしい」という縋るようなものだった。


 しかし、私が神殿でどれだけ浄化を行っても、彼女たちの失われた若さが戻らないと知れ渡るにつれ、その視線は変化していった。


 呪いを免れ、一人だけ若く綺麗な素顔を晒して歩く『私』に対する、刺すような『嫉妬』と『憎悪』の視線だった。


(自分たちは老婆のような姿になったのに、私だけが無傷で若いまま。おまけに、容姿端麗で知られるシルアレク王子から溺愛されている。まあ……不公平に感じて、憎みたくなる気持ちも分からなくはないけどね)


 私が内心で毒づきながら歩いていると、正面からベールも被らずに堂々と――しかし、酷く不機嫌そうに肩で風を切って、歩いてくる女性と鉢合わせた。



「あら、ごきげんよう。今をときめく『一人勝ち』の聖女様」


 前方から、刺々しい声で呼び止められる。


 そこには顔を隠さずに立つ一人の女性がいた。

 豪奢なドレスを見に纏う――伯爵令嬢のビネッタだ。


 彼女も、あの王城でのパーティーに居合わせ、その時に『浄化』を施した一人だ。


 最も症状が重かったエリザとは対照的に、最も症状が軽かったのがビネッタだったので、印象に残っている。


「ビネッタ様。貴女も、私は❗随分とお元気そうで」


 私は無表情のまま、彼女の顔を観察した。


 彼女の顔は、他の被害女性たちのような『原型を留めない化け物』や『たるみきった老婆』にはなっていない。

 目尻や口元に皺が刻まれ、頬にいくつかシミがある程度。


 二十歳という年齢からすれば随分と老け込んでいるが、他の被害女性の惨状に比べれば『中年女性(おばさん)」程度で済んでいる。

 

 ゆえに、他の被害女性とは違い、ベールで顔を隠していないようだ。


「聖女様はいいわねぇ。国中の女が苦しんで引きこもっているのに、一人だけ綺麗な顔を晒して、毎日男たちにチヤホヤされて。……さぞかし気分がいいでしょう?」


「別に……。私はいつも通りに生きているだけです。貴女の呪いの症状、他の方に比べると随分と軽症ですね」


 私が淡々と事実を指摘すると、ビネッタはフンッと自慢げに胸を反らした。


「当然よ。私は元々美しいから、エリザみたいなブスが、必死に塗りたくっていた化粧品に頼る必要なんてなかったの。……でも、周りがみんな使っているのに、流行に乗れないのもダサいでしょう? だから、男からプレゼントされたネマの高級品を、付き合いで少し使ってあげていただけよ」


 なるほど……エリザのようにネマを狂信していた訳ではなく、『自分は素でも美しい』という絶対的な自信があったからこそ、使用量が少なく、呪いの被害も浅く済んだというわけだ。


 そんなビネッタの目が蛇のように細められ、私をねっとりと睨みつけた。


「……聖女様はいいわね。皆が苦しんでいるのに、一人だけ綺麗な顔をして、シルアレク王子に寵愛されて、チヤホヤされて……自分が一番賢くて美しいって、優越感に浸っているんでしょう?」


 再度嫌みを言う彼女の目には、どす黒い嫉妬の炎が燃えたぎっていた。


 軽症とはいえ、彼女は間違いなく『自慢の若さと美しさ』を理不尽に奪われたのだ。


 元々が『強者女性』であった反動から、彼女の心の中にはネマへの怒りと同時に、ただ一人無傷でいる私への強烈な憎しみが渦巻いているようだった。


「思い上がらないことねぇ。今は消去法で、貴女に男が群がっているだけよ。勘違い女の澄まし顔は、本当に目障りだわ」


「……」


「何も言えないの? まったく反吐が出るわ」


 一方的な嫉妬とマウントを浴びせられ、私は深いため息をついた。


 そして、冷ややかな視線で、彼女の老け込んだ顔を真っ直ぐに見返した。


「あ、そうですか。まあ、元々がどれだけ綺麗だったか知りませんけど、今の貴女はただの『性格の悪いおばさん』にしか見えませんから、もう私に話しかけないでもらえますか。時間の無駄なので」


「なっ……! き、貴様……っ!!」


 顔を真っ赤にして激怒するビネッタを無視すると、私はリンリルの手を引いてさっさとその場を後にした。


 背後から「絶対に許さないわよ!」という金切り声が聞こえたが、ただの負け犬の遠吠えに付き合っている暇はない。


 私たちには、世界を救うための準備があるのだから。



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