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すっぴん聖女はイケメン王子に溺愛される ~私以外の女が化粧で劣化した事件~  作者: ネペタ


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聖女VS宮廷魔法使い

 神殿の地下に広がる荘厳な空間。


 かつて、高位の聖女たちが儀式に使用していたという逸話があり、現在は災害時の避難所として、堅牢な結界が張られた石造りの巨大な広間になっている。


 その中央で、私とティエリーは10メートルほどの距離を空けて対峙した。


「行きますよ、ラフィナ殿」

「ええ、いつでもどうぞ」


 私が無造作に右手を下ろしたまま頷くと、ティエリー様はスッと目を細め、その右手を前にかざした。


 その瞬間――空気が、鳴動した。


 彼の手の前に、青白い光を放つ幾何学的な『魔法陣』が瞬時に3つ展開される。


 一切の無駄がない、洗練され尽くした美しい術式だ。


 私には聞き取れない短い呪文を滑らかに紡ぐと、魔法陣から極限まで圧縮された高密度の炎の槍が生成され、その1つが鼓膜を劈くような轟音と共に、私に向かって射出された。


 速い――まさに、目にも止まらない勢いで炎の槍は私の横を掠めて、背後で爆発した。


 ……恐ろしいほどの威力と精密さだ。


 この炎の槍は、ただの熱塊ではない。

 きちんと軌道がコントロールされていて、着弾と同時に爆発するように計算された『理屈システム』の結晶だ。


「次は狙います……よろしいですか?」


 こんなのが直撃したら、間違いなく命はない。


「はい。残りの2つ、まとめてもらって構いません」


 私はゆっくりと右手を上げて、ティエリーを見据えた。


 ティエリーは躊躇したように見えたが、一瞬のアイコンタクトの後、残る2つの魔法陣から炎の槍が放たれる。

 

 私を信じてくれたようだ……。

 その期待に応えたいと思った。


 迫り来る炎の槍へ、手のひらを向ける。

 自らの素肌から呼吸と共に、『聖魔力』を外の世界へ解き放つ――。


「『浄化ピュリフィケーション』」


 私の手から溢れ出した高質量の『光』に触れた瞬間、2本の炎の槍は「ジュッ……! 」という短い音と共に、あっさりと掻き消えた。

 爆発も起きず、私には熱すらも届かない。


 ティエリーは驚愕したように目を見開いた後、すぐに細めて、知的な興奮を露わにした。


「……なるほど。事象そのものを無かったことにする、光の塗り潰し……ですか」


 普段『瘴気』や『呪い』を消している聖魔法『浄化』……これが、通常の魔法にも応用出来るのは折り込み済みだ。


 ただ、ティエリー程の上級魔法使いの攻撃魔法を、完全に打ち消せるかは賭けだった。

 

 仮に私が防ぎきれなくても、彼ならおそらく私に危害を加えずに、魔法を収縮出来ただろう。


 私もティエリーを信じていたからこそ、堂々と向き合えたのだ。


 この手合わせは、お互いの信頼関係の上で成り立っている……そう思えた。



 ティエリーは即座に、私に対する認識を切り替えたようだ。


 今度は両手を使い、流れるような連続詠唱と共に、足元から這い上がる精密な土の拘束魔法、頭上から降り注ぐ無数の氷の刃、そして退路を断つような雷撃の網を、息つく間もなく同時多重展開して放ってきた。


 (わぁ……本気だ……)


 どれもが一撃必殺、あるいは確実な捕縛を目的とした、美しくも冷酷な魔法の連撃。


 普通の魔法使いなら、展開された時点で終わりだろう。


 しかし、結果は先程と同じだった。


 私が右手を軽く振るい、放出する聖魔力の『濃度と量』を少しだけ上げる。


 それだけで、光の奔流が地下空間を満たし、雷は静電気に還り、氷は水滴すら残さず消滅し、拘束の土魔法は土くれに戻って霧散した。


「……あり得ない」


 ティエリーが、額に汗を滲ませながら息を呑んだ。


「これほど緻密に計算した多重術式を、なんの代償も詠唱もなく白紙に戻すなど……いや、それよりも更に異常なのは、貴女のその『魔力効率』だ」


「……? 効率、ですか?」


「ええ。あれほどの高質量の魔力を一瞬で放出すれば、通常は体内の魔力回路が焼き切れる。しかし貴女は、息一つ乱していない。単純な魔力量の多さ……即ち、燃料の多さとスタミナの底なし具合もさることながら、その使い方に一切の無駄がなく、極限まで洗練されている。……まるで、呼吸をするように魔力を支配している」


 ティエリーの分析は、おそらく正確だった。


 私は幼い頃から、暴走しがちな強大な聖魔力による『魔力酔い』を抑えるため、常に自分の体内の聖魔力を外の空気と馴染ませ、コントロールする訓練を意識的に、そして無意識的にも続けてきた。  


 それが私の日常であり、生きる術だったからだ。


「その膨大な聖魔力を、幼い頃から完璧にコントロールし続けてきたのですね。……量と質、その両方を極限のレベルで兼ね備えている。これが、ラフィナ殿の聖女の力……」


「すみません。私、魔法学を学んだ事がないので、理屈なんかは全然分からないんです。ただ、自分の周りだけでも綺麗にして、悪臭を嗅がずに済むようにしたい一心で続けていたら、自然に身に付いたものなので……」


 それもこれも、あの時の大聖女様の助言があればこそ、だけどね。


「……無自覚に、とんでもない高みへ上り詰めてしまったということですね」


 ティエリーは苦笑し、肩をすくめた。


「……参りました。私の魔法では、ラフィナ殿にキズ一つ付けることが出来ないと解りました。尤もキズ付ける気はなかったですが……私の取り越し苦労でしたね」


 深く息を吐き出し、彼は敗北を宣言した。



「お疲れ様でした。ティエリー様の魔法……とても精巧で美しいと思いました」


 私が歩み寄ると、ティエリーは床に座り込み、どこか清々しい顔で眼鏡を指先で直した。


「それはどうも……このタイミングで言われると素直に受け取りづらいですが、貴方が本心で言っているのは伝わります」


 確かに、今言うのは嫌味に聞こえるかもしれない……「しまった」と少し焦るが、ティエリーは清々しい表情で微笑む。


「貴方程の方に、そう言っていただけると嬉しいものですね」


 ティエリーが笑うのを、私は初めて見たかもしれない……とんでもない美しさだ。


「……ラフィナ殿。厚かましいお願いかもしれませんが……この機会にぜひ、貴女の聖魔力と聖魔法を、私に『研究』させていただけないでしょうか」


「は? 研究、ですか?」


「はい。我々魔法使いにとって、聖魔法は長らく『未知』の領域でした。昔から、神聖な聖女に男性が近づくことは固く禁じられていましたからね。観測することすら不可能だったのです。ですが、今ならできる。貴女の力を解明できれば、魔の森の攻略に必ず役立ちます。どうか、私に研究させてください」


 真剣な眼差しで頭を下げるティエリーに、私は一つ頷いた。


「いいですよ、お役に立てるなら。すべては、魔の森に隠れてるネマをぶっ飛ばすためです。……それに、私からも一つお願いがあるんです」


「私にできることなら、何なりと」


「私に、新しい聖魔力の使い方……『攻撃』への転用を、ご教授願えませんか?」


 私の提案に、ティエリーはわずかに目を見開いた。


「今の私は、基本的には『浄化』と『結界』しか使えません。瘴気を祓ったり身を守ることはできても、ネマ本人や凶悪な魔物を直接『物理的に打倒する』手段がないんです。魔法の理屈を知り尽くしたティエリー様のアドバイスをもらって、この聖魔法を攻撃に使いたいんです」


「……なるほど。最強の盾を、そのまま最強の矛に作り変えようというわけですね。魔法使い冥利に尽きる、最高の共同研究になりそうだ」


ティエリーは、腹の底から愉快そうに、そして不敵に笑い声を上げた。


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