いつか大聖女に
「ふふふ。本当に仲が良いのね」
カルネア様は、私と殿下を見て、微笑ましそうに笑うと、ふと真面目な顔になった。
「ラフィナは本当に優秀な聖女ですね……。膨大な聖魔力に、優れた自制心と揺るがない意志があります。『ネマの呪い』という未曽有の危機にも、逃げずに立ち向かう勇気も素晴らしいです。あなたはきっと、立派な『大聖女』になれますよ」
「そんな、買い被り過ぎですよ。私はただ、自分が快適に生きられる環境が欲しいだけです」
私の言葉に、シルアレク殿下が大真面目に反論する。
「いや、『大聖女』は歴史的偉業を成し遂げた聖女に与えられる特別な称号だ。ラフィナがネマの呪いを打ち砕けば、まさに『大聖女』に相応しい偉業と言えるだろう」
「そうです! ラフィナ様なら、絶対に大聖女様になれます!」
リンリルまで同調して、瞳を輝かせていた。
「ラフィナが、『ユリアリス』以来の『大聖女』になることを願っていますよ」
ユリアリス。
かつて私を救ってくれた、あの大聖女様の名前だ。
カルネア様と同時期に聖女になった方で、カルネア様とユリアリス様は長年の友人だったと聞いている。
「……結果的に、そうなれたら光栄です」
私は素直な気持ちを口にした。
そう……大聖女に憧れが無いと言えば嘘になる。
『いつか、大聖女様のように……』
幼い頃から、そんな思いを胸に抱いていた。
「とても頼もしいですね。リンリルちゃんも、まだ小さいのに苦労を掛けてごめんなさいね」
「いいえっ! ラフィナ様の弟子になれて幸せです! カルネア様も優しくて、神殿はとても楽しいです!」
「そう言ってもらえると、心から安心します。ありがとう……今の私には、あなた達を見守ることしか出来ないのが心苦しいです」
カルネア様は、寂しそうに微笑んだ。
聖女の持つ『聖魔力』は、悲しいことに年齢と共に衰えていく。
若い頃は特別優秀だった彼女も、今では日常的な薄い瘴気を祓うのが精一杯で、今回のようなネマの強力な呪いや、絶望した被害女性たちが放つ濃密な瘴気を、完全に浄化する聖魔力は残っていない……。
ゆえに、『浄化』を行える聖女は私しかいないのが現状だ。
「リンリルちゃんが来てくれて、本当に良かったわ。若い世代の聖女は皆、ネマの化粧を使用して再起不能になってしまった……。私世代の聖女は皆、結婚して引退しているし……」
そう……今や深刻な聖女不足の状態だ。
だからこそ、異例の処置でリンリルを『聖女候補生』として迎えているのだから。
「私も皆に『化粧品を使っちゃダメ』って説得したんだけど……ダメでしたからね」
化粧は規律違反なのは当然として、『臭いから危ない』と訴えたけど、止めることが出来なかった。
特に……友達だったシルキーが化粧をして、聖女を辞めたのは本当にショックだった。
それを見透かしたように、カルネア様が問いかけてくる。
「ラフィナ……シルキーには会った?」
「いえ、あれっきり……その後、偶然街で見かけましたけど、特に何も……」
ネマの化粧をして、外見だけでなく、内面もすっかり変わってしまったのが見て取れたのを思い出して、胸が痛んだ。
「実は、お願いがあるの」
カルネア様は真剣な顔になり、声を落とした。
「王都の下層区から、濃密な瘴気が立ち上っているの。おそらく……シルキーだと思う。ラフィナ、お願いできるかしら」
下層区は私が居た孤児院がある地区であり、シルキーの家がある場所だ。
最近ゴダゴダしてたから、しばらく行っていなかった。
私は『臭い』で瘴気を感知するので、離れた場所の探知が苦手だったりする。
その点、カルネア様は聖魔力が衰えたとはいえ、瘴気の感知は今でもずば抜けていて、王都中の瘴気を察知する事が出来た。
シルキーが高濃度の瘴気を発している……。
嫌な予感が、全身を駆け巡った。
「わかりました……いってきます」
私は弟子のリンリルを連れて、下層区へと出発した。




