尊い命
「怪物だト?」
突如として現れた謎の男が自身の放った攻撃の軌道を
容易く逸らした事に動揺している。
レィダの本能がコイツを生きたまま連れて帰る事の
リスクが高い事を感じ取った。
「お前強いナ。大人しく俺についてきてくれないカ?」
「――断る」
「んー困ったナ。
生かして連れ帰るのはリスクが高そうダ――」
レィダは自身の足を刃物状に変化させ
大振りの蹴りを行う。
もし、まともに食らえば胴が真っ二つになる勢いだ。
「――これは驚いタ」
謎の男はその攻撃に対し、その場から一歩も動く事なく
片手で刃を掴み受けきった。
「これだけ派手に暴れた割にこの程度か……」
レィダは足を変形させ掴まれていた手から逃れた。
「うん、やはりリスクが高いナ
これ以上力を出せば殺してしまウ
さて、どうしたも―― 」
目の前にいたはずの男は音を立てず
気づけばレィダの背後へと姿を移していた。
背後から感じる圧は『死』を想起させる程のもの
瞬間、攻撃に備える為にレィダは両腕を変形させ
盾のような物へと姿を変えた――
周囲に轟く衝突音は地面を揺らし
その衝撃で地割れを引き起こした。
盾のような物に変形していた腕は
対象を捕らえるための捕具へ変化したが
瞬時に察した男は盾を足場にして身をかわした。
「やはり強いナ……生きて連れて帰るのは諦めて
ここは身を引くのが最適な判断のようだナ」
「――って誰が逃すかよ」
男はレィダの懐へと移動し拳を構えたが
違和感に気づいた。
レィダの腹部に穴が空いており
その中から何かが射出される。
直ぐに違和感に気づいたことにより
ダメージを受けることなく回避した男の目の前には
両手が長く鋭い爪のようになった【イーバヤ星人】が
こちらを睨みつけていた。
「あとは頼むぞフカフィ――念の為言っておくが
あいつは殺すなヨ」
「はいぃ、お任せを」
レィダは姿を消し、その場には別の【イーバヤ星人】が
残った。
「これはどうもぉ、私は【ランク2】のフカフィ。
これからぁ、たーっぷり楽しみましょ」
ねっとりとした喋り方は聞き手に不快感を与えると同時に
関わってはいけない何かを感じさせた。
「うっふふ、じゃあ行くわよぉっ」
鋭い爪を地面に引き摺るように迫ってくる。
爪は地面を切断しており、その切れ味を知らしめていた。
だが、爪が振り上げられた場所には既に誰もいない。
呆気に取られているフカフィの視界がゆっくりと
地面へと近づいていく。
「あ……れぇ?」
フカフィの視界に映っているのは胴体だけの自分
その光景を見てようやく自分の身に何が起きたかを知る
そして、何も出来ず自身の心臓へと刀が突き刺された。
圧倒的な力の格差を前に男へ感嘆し絶命するのだった。
「逃げられたか……」
敵がいなくなった事を知ると
男は持っていた刀を地面へ投げ捨て
直ぐにその場から離れようとしている。
「ま……待ってくれ、あんたは……一体――」
「喋らない方がいい
この騒ぎだ、時期に救助隊が来る
運良く助かった命を無駄にするな」
そう言い残し男は姿を消した。
薄れゆく意識の中
ダイは動かなくなったナロの側へ近づこうと
必死に地面を這い蹲る。
「ナロ……ナロ……ナロ……」
伸ばした手は届く事なく
そのまま意識を失った。
このレィダによる無差別な攻撃で
約20万人の尊い命が失われた。
この件で人々は【イーバヤ星人】に対する恐怖と
政府に対する疑念で溢れた。




