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DAY2ー6

 椎名美野里の話②


 天沢天音は私の憧れの人だった。日本を代表する子役にして業界最大手の伊勢プロダクションの稼ぎ頭。彼女はそんな存在だったように思う。


 だから彼女の死は少なからず私に衝撃を与えた。誰からも愛され、誰からも悪く言われない。そんな子が自殺するなんて……。そう思わずにはいられなかった。まぁ……。そうは言っても心に抱えた闇なんて本人以外には分かりようもないのだけれど。


 天沢天音の闇。それはいったいどんなものだったのだろう? 葬儀の日から続く雨は絶えず私にそんなことを考えさせた。そして雨が止んだ頃……。私のところに赤羽可憐がやってきた――。


「久しぶりだね」


 開口一番彼女はそう言って苦い顔を私に向けた。私はそれに「そうだね。久しぶり」と当たり障りなく返した。こうしてこの子と話すのは共演作のクランクアップ以来だ。


「レイちゃんから聞いたよ。天沢の葬式来てくれたんだってね……。ありがとね」


 赤羽さんはまるで天音ちゃんの家族みたいに言うと私に頭を下げた。親族でもないのにそんなこと言うなんて……。と内心思う。


「いや……。まぁ天音ちゃんには散々お世話になったしね。お葬式ぐらい顔出すよ」


「フ……。まぁでも顔出して貰えてあの子も嬉しかったと思うよ。本当にさ。天沢って一度共演した相手のこと大事にしてたから」


 赤羽さんはそう言うと少し呆れたみたいに肩をすくめた。そして「あのさ」と続ける。


「私さ。この業界やめることにしたんだ」


「やめる? 事務所抜けるってこと?」


「うん。なんかね……。もうそろそろ潮時かなぁって。ほら、これからさきマルチタレントでやってくったって難しいと思うんだよね。何もかもが中途半端っていうか……。さ」


 赤羽さんは歯切れ悪く言うと軽いため息を吐いた。そこには『もうこれ以上ここにはいたくない』という気持ちが見え隠れしていた。おそらく天音ちゃんの死が彼女にそう思わせたのだと思う。


「そう……」


「いやぁ。マジで短い芸能生活だったけどさ。結構楽しかったよ! レイちゃんや椎名さんとも会えたしさ。ま、椎名さんともなんだかんだ仲直りできて良かったよ」


 赤羽さんはそう言うと無理な笑顔を作った。明らかに本心ではない。それを包帯で無理矢理取り繕ったような笑顔。そんな風に見える。


 私はそんな彼女の体裁だけを保っただけの言葉を聞いて怒りを覚えた。言葉にこそしていないけど彼女が芸能界を引退する理由は天音ちゃんなのだ。そう考えると無性に腹が立った。だって……。死んだ天音ちゃんは赤羽さんが芸能をやめることなんて望んでいないはずだから。


「ふーん。そっか。逃げるんだね?」


 気がつくと私は赤羽さんにそんな心ない言葉を投げつけていた。逃げる理由に天音ちゃんを使った。どうしてもそれが許せなかった。当然これは私のエゴだ。赤羽さんの人生なのだから好きにすれば良い。頭でそれは分かっていたけれど……。これだけは譲れなかったのだ。


 その後。私たちの間には気まずい沈黙が流れた。そしてやがて赤羽さんが口を開く。


「……なんて言われたってやめるから。じゃあね椎名さん」


 彼女はそれだけ言うと逃げるように去って行った。その後ろ姿を見て私は『負け犬』と小声で呟いた――。


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