DAY2ー5
椎名美野里の話①
雨が降っていた。それは酷く冷たい雨で私の身体を芯まで冷やした。天沢天音という太陽はもういない。それはそのことを象徴するかのような雨で見ているだけで悲しい気持ちになった。きっと神様も天音ちゃんの死を嘆いていたのだ。私は柄にもなくそんなことを思った。
葬儀会場には数多くの著名人たちの姿があった。彼女の所属していた伊勢プロダクションの関係者から始まり、私の所属事務所やら他の芸能関係者の姿もあった。国民的天才子役の死。どうやらそれは私が思っていたよりもずっと多くの人たちを悲しませたらしい。まぁ、そんな中でもメディア関係者はハイエナみたいに弔問客にマイクを向けては不謹慎極まりない質問を浴びせかけていたのだけれど。
「椎名さん!」
私が焼香を終えて葬儀会場ロビーに出ると同業者の麗子ちゃんに呼び止められた。
「麗子ちゃん……。お疲れ様です」
「うん。お疲れ様です。なんかあいにくの天気になっちゃったね」
麗子ちゃんはそう言うと言葉に詰まったみたいに辺りをキョロキョロ見渡した。そして「バネちゃん大泣きしちゃって大変だったんだ」と続ける。
「そう……。赤羽さん天音ちゃんと仲良かったのものね」
「そうなんだよね。正直あそこまで取り乱すとは思わなかったけど……。やっぱりバネちゃんにとって天音ちゃんは特別な人だったんだよね」
麗子ちゃんはそう言いながら自身も左目をハンカチで拭った。おそらく彼女だってかなり堪えているのだ。感情的にならないだけできっと胸の内は悲しみでいっぱいなのだと思う。
そうこうしていると麗子ちゃんのマネージャーが彼女を迎えにやってきた。
「じゃあレイちゃん帰ろっか。後ろに車回してあるから」
「はい。今行きます」
麗子ちゃんはマネージャーにそう返すと私の方に向き直った。こちらを向いた彼女の目は……。やはり濡れている。
「じゃあ私行くね」
麗子ちゃんはそう言うと寂しそうに「またね」と続けた。私はそれに「うん。またね」と返した――。
その後。私は葬儀会場から次の仕事の現場に直行した。今日の予定はファッション雑誌の写真撮影。要は私本来の仕事だ。女優業は言うなれば副業なのだ。生業はモデル。副業は女優。私の芸能人としての位置づけはそうなのだと思う。
慣れ親しんだスタジオで淡々とポーズを決めていく。指定された表情を作る。ただひたすらそれに打ち込んだ。心は死んでいる。いや……。思えば私がモデルをしているときはいつだって心を殺している気がする。そうでなければこの仕事は続けていけないのだ。心ない血と肉の通ったマネキン。おそらく私はそうあることでこの仕事をどうにか乗り切っているのだと思う。
そういえば天音ちゃんも似たようなこと言っていたっけ。ポーズを決めながらそんなことを思い出した。
『私はねぇ。演技するための機械なんだよ。舞台装置の一部。映像作家の傀儡的な?』
彼女はあっけらかんとそう自分の演技を揶揄していた。天才子役の口から出たとは思えないほど無機質な言葉だ。演技に血が通っているように見せるのが上手いだけで本当は全部機械的に行っている。彼女の言葉にはそんな響きががあった。でも……。今こうして私自身モデルをしていると彼女の言っている意味が分かる気がする。実際、血なんか通っていないのだ。大事なのは本当のことより本当っぽいこと。芸能という世界に入ってからはそれが私の中での一つの真実となった――。




