DAY2ー4
その後。私たちは食事を終えると近隣のスターバックスコーヒーへ向かった。シーフードを食べたあとにカフェ。前回来たときもこの流れだった気がする。
「あのときもこうだったね」
「だね」
スターバックスの扉に手を当てながら私たちはそんな言葉を交わした。そして二人して苦笑いを浮かべた。おそらく二人とも当時のことを思い出したのだと思う。
店内に入ると私たちはすぐにカウンターで飲み物を注文した。私はイングリッシュブレックファーストティーを。椎名さんはカフェミストをそれぞれ頼んだ。これも前回と同じだ。まぁ……。前回は三人で、さらにその三人目はキャラメルフラペチーノといういかにもスタバという感じのメニューだったのだけれど。
「今日はありがとうね。付き合ってくれて」
椎名さんはカフェミストを一口飲んでから思い出したように呟いた。
「ううん。こっちこそありがとう。私も会えて嬉しかったよ」
「……正直ね。今日麗子ちゃんに会うのちょっと怖かったんだ。変わってたらどうしようとか、嫌われてないかなとか……。ね」
椎名さんはそう言うと目尻を左手の親指と人差し指で摘まんだ。その表情は酷く苦々しく見えた。おそらく彼女はこうして私を誘うために結構な葛藤をしたのだと思う。
「嫌ったりしないよ。まぁ……。バネちゃんのことがあるから椎名さんが気を遣っちゃうのも分かるけど」
「うーん。まぁ……。ね。ほら、私と赤羽さんって何て言うかな……。住む世界が良くも悪くも違い過ぎるんだよね。あの子ってムードメーカーで私なんかより業界の人たちにも愛されてたからさ。逆に私は嫌われ者だし」
椎名さんはそんな風にサラッと自身を卑下した。口調はいつもと変わらないだけに一瞬それが卑下であると気づけなかった。この子は昔からこうなのだ。好意も敵意も。場合によっては殺意でさえ息を吐くように口にする。
だから私はそんな彼女に『そんなことないよ。椎名さんだって人気者だよ』なんて気休めを言う気にはなれなかった。気休めは気休め。モルヒネと大差ないし、何ならその気休めが切れたときの揺り返しの痛みは酷いものだと思う。
「そうだね。……失礼だけど椎名さんはキャラクター的にヴィラン寄りかも知れないね。普段も性格悪い役柄多いし、きっとそういう役が上手いんだと思う」
気がつくと私はそんな失礼なことを口にしていた。でも……。これは紛れもなく本心だ。悪役を演じさせたらこの子以上の女優はそういない。これは皮肉でも何でもなくそう思う。
「プッ。ありがと。褒め言葉として受け取っておくよ。……ま、とは言ってもそうなったのはあの作品以降なんだけどね」
「あの作品って……。終末魔法少女?」
「そうそう。本当にアレ出てから私の方向性真逆になったんだよね。それまでは清純派で売り出しかけてたのに……。気がついたらすっかり悪女路線だよ。まったく……。事務所も勝手だよね。売れると分かれば私の気持ちなんかお構いなしだもん」
椎名さんはそう悪態を吐くと楽しそうに笑った。そして「本当にあの作品で私の人生変わっちゃったよ」と続ける。
「……懐かしいね。今思い出してもあのときの椎名さんは本当に綺麗だったよ。あ! もちろん今も綺麗だよ? ただ……。あの役は特別だった気がするんだよね。キラキラしてて……。天音ちゃんに負けないくらい可愛かった」
「ありがと。そう言ってくれてすごく嬉しいよ。正直ねぇ。私もあのときが女優人生で一番輝いてた気がするんだ。麗子ちゃんがいてくれて、赤羽さんとはピリつくほど仲悪くて。それで……。天音ちゃんがまだ生きててくれた。ちょっとクサいけど青春してたなぁって今は思うんだよね」
椎名さんはそこまで話すと寂しい笑みを浮かべた。そして「もう戻れないのが悲しい」と呟くとかつて私たちがまだ一八歳だった頃の思い出話をポツリポツリと語り始めた――。




