↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/14

DAY2ー3

 そうこうしていうとコース料理が運ばれてきた。食前酒のワインと前菜のシュリンプカクテル。こう言っては失礼だけれど一昨日の結婚式の料理よりずっと美味しそうなメニューだ。


「とりあえず乾杯しようか」


「うん」


 ワイングラスがチリンと小さな音を立てる。そしてグラスの中の赤ワインがほのかに揺れた。穏やかな乾杯だ。こんな日が来るなんて想像だにしになかった。素直にそう思う。


「にしても……。やっぱり私って赤羽さんには嫌われちゃってるんだね。誘っても断れちゃったよ」


 コース料理が一段落し肉料理が運ばれてきた頃、椎名さんはそう言って軽いため息を吐いた。


「まぁ……。否定はしきれないかな。でもバネちゃんも椎名さんのことそこまで嫌ってるワケではないと思うよ? 多分だけど……。気まずいんじゃないかな」


「うーん、そうだね。私もそんな気はするけど……。でも正直今日はあの子にも来て欲しかったなぁ。ほら、こうして大人になったら一緒にお酒飲もうって天音ちゃんも言ってたし」


 椎名さんはやや不満げにそう言うと再びため息を吐いた。さっきより幾分大きなため息。おそらく椎名さんはバネちゃんとの確執を今回で解消したかったのだと思う。


「八年経ったけどさ……。やっぱりバネちゃんも完全には立ち直ってないんだよ。だってあの子にとって天音ちゃんは……」


 私はそこまで言い掛けて言葉に詰まった。バネちゃんにとっての天音ちゃんは……。おそらく親友であり理解者でありライバル。そんな一言では言い表せないような関係だった。私の理解を超えた。そんな絆で結ばれていたのだと思う。


「そうね。赤羽さんは特にあの子と仲良かったもんね。お葬式でもあんなに取り乱してさ」


 そう。椎名さんの言うとおり天音ちゃんとバネちゃんは本当に仲が良かったのだ。それはもうただの同業者ではなく親友を超えて戦友と言っても差し支えないレベルだったと思う。


「それは……。そうだね」


「うん。だからさぁ。あの子がこの業界辞めるって言ったときは大して驚かなかったんだ。多分だけど……。赤羽さんにとっては天音ちゃんは自分の半身みたいなものだったんじゃないかな? だから天音ちゃんが亡くなって身体の半分を引き裂かれたってぐらいショックだったんじゃないかなぁって今は思うんだよね。……ま、本人に聞いたワケじゃないから分からないけどね」


 椎名さんはそこまで話すと肉料理をナイフで器用に切り分けてそれを口に運んだ。その様子は妙に生々しく見えた。身体の半身を引き裂かれて片一方が胃袋に落ちていく。その感覚に少し気味悪さを覚える。


「バネちゃんね。今は幸せだって言ってはいるんだよ? 現役時代に始めたブランドも好調みたいだし、旦那さんとも仲良いし、子供も可愛いって言ってる。ただ……。椎名さんの言うとおり半身なくした痛みは消えてないんだとも思うかな。あの子たまぁーにすごく寂しそうな顔するんだ。明後日の方向見てすごい冷たい目したりしてさ」


「そっか。まぁ仕方ないよね。幸せと不幸は両立しちゃうもんだし、実際赤羽さんは幸せいっぱいなんだと思うよ? まぁ、私から言わせて貰えば……」


 椎名さんはそこで一旦言葉を句切った。そして「不幸に蓋をして見ないために幸せぶってるように見えちゃうけどね」と言った。酷い言い草だ。バネちゃんが聞いたらきっと椎名さんに掴みかかると思う。


 でも……。私には椎名さんの言うことが真実のように思えた。赤羽可憐という人間。その本質を突いているように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。