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第74話 デモニッシュの影(3)

 その日から、小畑さんとデモニッシュを捕まえるための修行が始まった。


 まずはGメンスキルのさらなる向上だ。実際にGメンをする現場に来てもらって、防犯カメラの映像をもとにレクチャーを受ける。


 レクチャーはかなり参考になった。小畑さんは、とにかく万引き犯を見抜くスキルがずば抜けて高い。防犯カメラ越しだというのに、客の些細な行動で、その人が万引き犯かどうかを見抜いている。一緒に仕事をすると、小畑さんがどれだけ格上の人物なのかが身に染みてわかった。


 なにより小畑さんは『ラフなこと』を教えてくれるのが大きい。例えば、全神経を消耗するGメンを長時間できるようにする力の抜き方、とか。真面目な片瀬さんからは教わらなかったことを教えてくれる。


 そして現場でレクチャーが終わると、元ブレイズの事務所に行って、デモニッシュに関しての情報共有を受ける。


 小畑さんと話して新しく分かったことは、三つある。


 一つ目は、被害に遭っているのは個人が営んでいる店舗が多く、スーパーや家電量販店などには姿を現していないこと。


 二つ目は、被害に遭っている店舗は首都圏内が多く、首都圏外にデモニッシュが現れた店舗はほぼないこと。


 三つ目は、一度に数十万~数百万円クラスの商品をまとめて盗んでいくこと。


 小畑さんはこれらの情報をもとに、デモニッシュの被害に遭ったと思われる店舗に足を運んでは、色々と情報を聞き出しているらしい。


 しかし店舗の人に話を聞いても、付近の住民に聞いても、辺り一帯の防犯カメラを確認しても、デモニッシュの痕跡は掴めない。


「デモニッシュは徹底して姿を隠している。おそらく、入念に下調べをしているんだろう。店だけじゃなく、近くの交通量や防犯カメラの位置もすべて完全に把握しているハズだ」


「……敵ながら、すごいですね」


 小畑さんが仕入れてくれた資料に目を通しながら、僕は唸る。資料には地図が印刷されており、ところどころに赤い丸がついていた。赤い丸は、デモニッシュが現れたと思われる店舗。その数はこの地図からわかるだけでも、百には及んでいる。


「デモニッシュのやり口からすると、一度に二~三人は動いているハズなんだ。窃盗しているときには軽自動車ないしトラックを使っている可能性も高い。それなのに聞き込みでも、防犯カメラでも、デモニッシュの痕跡はまったく掴めない」


「逆に、盗まれた物から見つけることとかはできないんですか?」


 小畑さんに尋ねる。例えば商品にロットナンバーとかが記載されていれば、そのロットナンバーが記載された商品を探して、入手経路を逆算するとか。


「それもやってるが、まぁ結果はこの通りだ。特殊なルートで販売しているだろうし、カンタンに足がつくような物は盗まないようにしているんだろうな」


「なるほど……そうなんですね」


 どうやら僕でもすぐに思いつくことは、当たり前に小畑さんも実践済みらしい。


 ここまで足取りが掴めないとなると「デモニッシュは本当に存在するのか?」と思わずにはいられない。しかし長年デモニッシュを追っている小畑さんが「存在しない」と判断していない以上は、きっと実在するのだろう。関東圏のどこかに。


「俺は今は、デモニッシュの過去の出現場所をもとに傾向を分析しているところだ。いくら奴らが神出鬼没の組織だとしても、人が率いている以上は何かしらの癖があるハズだ。盗みやすい店舗の立地、捌きやすい盗品……それらの癖を掴めば、デモニッシュの出現場所を予測できるかもしれない」


 たしかにデモニッシュが盗む店舗を予測できれば、事前に罠を張って対策ができるだろう。しかしなんとも気の遠くなる話である。東京都だけでも何十万という店舗があるのに、その中からデモニッシュが盗みにくる店舗を予測するなんて。


 小畑さんがネズミ捕りをしてまでガーディアンになりたがった理由が、ようやくわかった気がした。デモニッシュは存在が明らかになっていないだけに、S.G.G本部では捜査をしていない。今では一部の有志が独自に捜査しているだけの状況だ。だからこそ、とにかく人手が欲しかったのだろう。


「……それで、僕にできることはありますか?」


「アキラくんにも出現場所の推測を手伝ってもらいたい。といっても、対象外の店舗をリストから外すだけだからそこまで難しくない。データは後で送っておく」


 そうして、僕も本格的にデモニッシュの捜査に携わることになった。


 小畑さんが三年もの歳月を費やして、実態さえ掴めなかった怪物。デモニッシュ。今の僕では、デモニッシュを捕まえることなど到底できないと感じていた。

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