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第73話 デモニッシュの影(2)

 デモニッシュを捕まえたい。でも、片瀬さんから強く止められた。


 そんな僕が小畑さんに会いに行ったのは、自然の流れだった。小畑さんならデモニッシュのことをよく知っている。片瀬さんとはまた違った話が聞けるかもしれない。


 小畑さんにアポを取ってブレイズに事務所に行くと、中はひどく荒れていた。


 事務所の入り口近くにいた有城さんに話を聞くと「ブレイズ、解散するから」とのことだった。見ると、色々な人が慌ただしく物を整理している。


 ……そっか。ブレイズ、解散するんだ。もっとも小畑さんがあの調子なのだから、仕方ない話である。


「アキラくん、こっちだ」


 会議室から、小畑さんの声が聞こえる。僕は有城さんや他のメンバーに軽く挨拶すると、会議室に向かった。


「いやいや、嬉しいよ。アキラくんから連絡してくれるなんて」


 椅子に深く腰かけたまま、小畑さんが言う。雰囲気から察するに、今日は調子がいいみたいだ。目も見えてるみたいだし。


 少しホッとしながら、小畑さんの向かいに座る。


「いえいえ。……ブレイズ、解散するんですね」


 いきなりデモニッシュの話を出すのもなんだと思い、雑談がてらブレイズのことに触れる。でも言ってから「逆にいきなり解散のことを話題にするのはどうなんだろ」と後悔する。


「あぁ。まぁ、もともと優秀なメンバーがそろっているからな。みんな俺がいなくても十分第一線で働いてくれるよ」


 小畑さんはそこまで言って「おっと」と声を漏らす。


「飲み物を忘れていたな。おーい美沙。アキラくんにコーヒーでも淹れてやってくれ」


 遠くから有城さんの「はーいっ」という声が聞こえる。


「どうもすみません」


「年下が気なんか遣うんじゃない。……それで、話っていうのは?」


 小畑さんが本題を振ってくれる。僕は咳ばらいをしてから、片瀬さんとの件を話した。


 すると小畑さんはハハハっと高笑いをしてから、僕に向き直る。


「片瀬のやつ、そんなことを言ってたのか。まぁ無理もないか。怖いんだろ、自分のせいでアキラくんを失うのが」


「怖い……ですか」


「アイツは琴乃が死んだのも、自分のせいだって思ってるみたいだからな。自分の選択で誰かを失うのはもうコリゴリなんだろ。本当は関係ないのに」


 あっけらかんと片瀬さんのことを話す小畑さんを見て、思わず内心で首を傾げる。


 聞いた話だと、小畑さんはかなり片瀬さんのことを恨んでいるみたいだったけど……その様子はあまり感じ取れなかった。


「片瀬の言うとおり、デモニッシュはおそらく反社とも繋がりがあるだろう。少なくとも、大量に盗んだブツを売りさばくだけのマーケットは確保しているハズだ」


「……やっぱり、そうなんですね」


「まぁ犯罪組織なんてそんなモンだろ。それで、アキラくんはデモニッシュを捕まえる気なのかい?」


 小畑さんの問いに、僕は静かに首を横に振る。


「まだ、わかりません。片瀬さんから反対されてますし、それに僕なんかの力で捕まえられるかも微妙ですから……」


「片瀬が反対してるのは知らんが、アキラくんならいつかは捕まえられるだろ」 


 小畑さんは深くイスに腰かけると、続けた。


「アキラくんには才能があるからな。Gメンとしての才能が」


「……随分と、僕のことを買ってくれますね」


 それは小畑さんに最初に会ったときから、ずっと抱いていた疑問だ。


 小畑さんは最初から僕のことを買ってくれている。こんな変哲もない高校生の僕のことを。


「まぁな。若いうちに自分の才能に気づいて、その才能を伸ばせる環境に身を置けるヤツなんて少数だからな」


 小畑さんが言うと、ちょうど有城さんがコーヒーを淹れて持ってきてくれた。有城さんはコーヒーを二つテーブルに置くと、会釈をする。僕も小さく会釈をしてお礼をした。


「その点で言うと、美砂もそうだな」


 差し出されたコーヒーを飲みながら、小畑さんが有城さんを見ながら言う。


「なになに~? 何の話ぃ~?」


 有城さんが自分のことを話題にされてると気づいたのか、話に入ってくる。


「なんでもねぇよ。はやく仕事に戻れ」


 小畑さんはうざったらしそうに有城さんに言う。こんな態度を取っているけど、有城さんをブレイズに勧誘したのは小畑さんみたいだし。ちゃんと信頼してはいるんだろうな。


 有城さんが「えーっ」と渋々会議室を出ていく。小畑さんはコーヒーをひと啜りすると、思いついたように口を開いた。


「……才能でいえば、片瀬が一番ない」


「片瀬さんに才能がない……ですか?」


 その言葉を聞いて、思わず眉間にしわを寄せてしまう。心外だった。


 たしかに片瀬さんは、僕や綾乃が加入するまではずっとGランクだった。しかし僕たちは片瀬さんのGメンを見て育ったし、決して片瀬さんのスキルが劣っているとは思っていない。それに片瀬さんがいるからこそ、僕や綾乃の高校生組は大手を振ってGメンができるのだ。その片瀬さんを、才能がないなんて。


「アイツは人見知りだから、本当はGメンなんか向いているワケがないんだ。アイツにはもっと、別の向いている仕事があったハズなのに」


 そう言って、コーヒーカップを持ったままうつむきながら黙り込む小畑さん。その様子を見て、僕はさっきまでの憤りが間違いだったと知る。


 小畑さんは、本当は片瀬さんのことを心配しているんだ。


「……もしかして、責任を感じてるんですか? 片瀬さんをS.G.Gに巻き込んでしまったことに」


「ふっ。まったく小賢しいヤツだな、君は」


 そう悪態をつきながらも、小畑さんは嬉しそうに笑う。


「そうなのかもな。アイツは俺がS.G.Gに入るのを見て、後を追ってきたが……これは俺と琴乃だけの問題だ。本当はそんなことする必要なかったんだ」


 遠い目をしながら、小畑さんはつぶやく。それが小畑さんの偽りのない本心であることは、僕でも理解できた。

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