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お師匠様はお留守です!  作者: 瀬名 杏子
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恋占いのついで III

薬局が休みの日に出来上がった恋のお守りを持って、デッセ商会の新店に行った。


従業員に取りに行かせると申し出があったけれど、開店前で忙しいのにわざわざ来て貰うのは申し訳ない。


レイアは厚いヴェールで顔を隠し、踵の高いロングブーツを履いて、化粧を施し胸に詰め物をしていた。


19才位に見えないこともない。


時折ふらつくので、エヴァンが支えると、その度にすれ違う女性達から鋭い視線が飛ぶ。


デッセ商会に着いた時には、レイアはいつもよりずっと疲れていた。


「いらっしゃい、レイア、エヴァン。ライアンも来てくれたのね。」


今日のジェニーは、髪を一つに編み込んでロングスカートと同色の水玉のリボンで結んでいる。


「ニャア。」


他に人目もあるから、人語は話せない。


「どうかしら?胡散臭い?」


レイアは、ジェニーの前でくるっと一回転する。


「胡散臭く…ないとは言えないわね~?」


黒のヴェールと黒のロング丈のワンピースの上に、裏地は光沢のある紫のサテンの長めの黒のマントを羽織っている。


黒のレースの手袋をはめて、世間一般の魔女のイメージに合わせたらしい?


へそ出しファッションのカミーユは、規格外なの?


「まだ、整理出来てなくてゴタゴタしてるけれど、気に入った商品があったら声をかけてね。」


店内には、商品を並べている従業員が二、三人いる。


「新店は、カフェを併設したの。こちらへどうぞ。」


真新しい白いテーブルと椅子は、清潔感がある。


「こちらが、出来上がった恋のお守りなんだけど、どう?」


「可愛い!良く出来てるわね。私も一個欲しいわ。」


「何色がいい?」


「どの色にしようかしら?あら、ライアンの首につけてるのは...?」


僕も真っ赤なハート型の硝子を首に付けさせられている。


古代魔法文字でハートに刻まれているのは『恋愛成就』ではなく、僕の名前だ。


「ライアンは可愛いから、とっても似合うでしょう!」


「ニャー。」


ううう、そう言われると拒否出来ない。


エヴァンの生温かい視線が痛い。




「いらっしゃいませ。今日はこちらまでご足労頂いて、ありがとうございます。」


「ロベール、こちらが占いをお願いしたレイアさんと護衛のエヴァンさん。」


「初めまして、ロベールです。」


今日もロベールは五月の風のように爽やかだ。


爽やか過ぎて、一周回って胡散臭い。


「初めまして。早速ですが、これがお守りなんですが、いかがでしょうか?」


「これですか?可愛いですね。普通にトートバッグに付けても可愛い。売れますよ。」


レイアは、ピンクのハートのお守りをトートバッグに付けている。


社交辞令なんだろうか?背中がむずむずする。


「カフェのおすすめメニューの試食をお願いしてよろしいですか?護衛の方は甘い物は召し上がられませんか?」


「いえ、せっかくなので頂きます。」


いいな、僕も食べたい。


紺のワンピースに白いエプロンとヘッドドレスをつけた女の子が、パンケーキやアップルパイをテーブルの上に並べる。


「おいしそうでしょう?」


ジェニーは、ニコニコしながら、紅茶をカップに注ぐ。


「いただきます。」


レイアは、パンケーキから手をつけた。


アップルパイは、レイアあんまり好きじゃないんだよね。


「恐れ多いですが、もう少し…?」


「もう少し、何ですか?」


「もう少し、可愛く盛り付けられませんか?焼きたてのパンケーキにメープルシロップとバターもおいしいのですが、生クリームとフルーツ?…でも単価が高くなってしまうかしら?」


「可愛くですか?」


ロベールは、困惑しているようだ。


「厨房は向こうですか?」


レイアは、レースの手袋を外すと立ち上がった。


全部食べてからにするべきだったかな?

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