表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/38

32話プロローグからのプロローグ

 タブレットから雨森雨音(あまもりあまね)の姿が消え、十五夜の魅化神社(みげじんじゃ)が映し出される。


 ここから先の出来事はタブレットの中で再生された出来事……


 タブレットの中の乙守楽人(おともりらくと)と少女の物語である。


 * * *


 乙守楽人が目を覚ますと濃い藍色のスクリーンが視界に広がった。その中心には光り輝く丸い大きな物体。満月である。そして、満月の傍らには人形のような少女の顔が楽人を見下ろしているのが見えた。


 視界の情報に遅れ、後頭部から優しい感触が伝わってくる。仰向けになっているのはすぐに気づいたが、少女に膝枕をされていることに気づいたのは少し経ってからであった。


「気付け薬を飲ませた。酒のようなものじゃが、酒のように悪酔いすることもなかろう」


 実際のところは翌日彼はダルさに悩まされることになるのだが、この時の楽人は知る由もない。


「さて、楽人よ……改めて問おう。美少女とはなんぞや」


 少女からの問いかけは随分と哲学めいている。


「夢……希望……オアシス……」


 楽人からの返答は随分と妄想めいている。


「酔っておるのか?」

「違うよ! 酔ってなんか……うっ……」


 乙守楽人は起き上がろうとして頭を抱えた。


「無理をするな。転んだ時に打ちどころが悪かったのだろう」

「違うんだ……」


 再び楽人は少女の太ももの上に頭を乗せた。少女は彼の頭を軽くひと撫でする。


「違うんだ……」


 楽人はため息をついた。不可思議な空間、不可思議な状況、不可思議な問いかけが「ああ、これは夢の世界なのだ」と彼を錯覚させる。夢見心地のまま妄想が言葉となって紡ぎだされる……


「俺、美少女が好きなんだ」

「知っておる」

「でも、美少女グッズを集めたり、美少女イベントに行ったりすると、そこにいるのは……俺なんだ。たくさんの俺なんだ。俺だらけなんだ」

「美少女はおらぬということか?」


 彼はこくりと頷いた。


「何年経っても、何十年経っても俺は俺にしか出会えない……」

「声優がおるのではないか?」


 少女は意外にもサブカルの話についてこられる。「意外にも」と言ったのは少女が霊的な存在に見えるためだ。


「声優は……ススキを照らす満月なんだよ。手を伸ばしても届かない」


 彼にしては随分と詩的な表現で手を満月の方へ向けた。十五夜と気付け薬が彼を詩人にしたのだろうか。


「ねぇ……おばあ……ちゃん?」

「ほぉ、わかるのか」

「右目の下にホクロがある」

「ふむ、今は乙守栄子(おともりえいこ)の姿を借りておる。そなたと2人でよく神社に来ていたのでな」

「なんだ……魅化姫様(みげひめさま)か……」

「なんだとはなんじゃ。おぬしやはり酔っておるな」

「えへっ、えへへ~」


 楽人はいつも以上に気持ち悪く笑い、ヨダレを垂らす。魅化姫様は表情をひとつも変えず、手でヨダレを拭った。


「魅化姫さまって、美少女なの?」


 随分と神を畏れぬ発言だ。


「わらわは自然そのもの。実態など存在しない。強い想いを持つものに宿ることはできるがの」

「想いが強ければ、亡くなった人でも……?」

「乙守英子のことは特別でな。彼女は生前、乙守楽人の傍で見守ってほしい、と願ったのじゃよ」


 祖母が長年神社へお参りして願ったことは楽人への想い。栄子から引き継いだドジっ子体質を持っている楽人のことを見守ってくれる存在が必要と感じたのだろう。そして、魅化姫様は祖母の想いを受け取り、栄子の身体を借り、彼に会いにきたのだ。


「そっか。おばあちゃんって美少女だったんだな」

「その美少女じゃが……美少女とはなんぞや。容姿を具体的に答えよ」


 問いかけ方が、高校だか大学だかの試験のようである。


「美少女は美少女だよ」

「0点じゃ」


 否、試験の「ように」ではなく、本当に試験であった。


「美少女と言えども黒髪長髪、ツインテール、ポニーテール、猫耳、ケモミミ、魔女っ娘、ボーイッシュ、ゴスロリ、メガネ委員長など……いくらでもおるではないか。世界中の人々を美少女に変えるなど1000年以上人々が溜めた想力を使用しなくては叶わぬ願い。わらわが世界中の人々をツインテールの美少女にしたあとで、そなたが『メガネ委員長が良かった』と言っても、ツインテールメガネ委員長にさえできぬのじゃぞ?」


 「美少女とはなんぞや?」の問いかけの真意を聞くまで、随分と時間が経ったようにも感じたが、中身は本当に……本当に……どうでもいい問いかけであった。


「……りタン」

「ナポリタン? そなたは世界の人々をナポリタンに――」

「雨森タン!」


 楽人は勢いよく起き上がった。どうやらテンションが回復してきたようだ。


「ほぉ、彼女が美少女か」

「えへっ、世界中のみんなが雨森タンになったら、いつでもどこでも雨森タンに会えるんだぁ」

「よいじゃろう」


 良いのか? と思わなくもないが、人間の善悪の基準と神の善悪の基準が必ずしも同じとも限らない。


「世界中の皆が雨森タンになる。皆『ふぁえ!?』と驚くのじゃな」


 魅化姫様はサブカルにやけに詳しい。いつも楽人を見守っているため、残念な知識が身についてしまったのだろう。


「そうそう、そんでもって、みんな雨が降るの!」

「ふむ、皆の頭上に『低気圧』が出来上がるのじゃな」

「待って!」


 乙守楽人はなにかマズいことに気づいたのか待ったをかけた。


「なんじゃ。写真は撮らせぬぞ」

「あ! え! あ、ちょっと待って! そうじゃなくて、みんな雨森タンじゃマズい。みんな『低気圧』って、世界が大洪水だよ! 世界が終わる! 終わっちゃうよ!」

「そういえば、そうじゃのう。困ったのう。『ふぁえ!?』と驚くところまで望みを叶えてしもうたわい」

「え!? あ! え? でも『ふぁえ!?』って驚いてくれるなら……」

「姿は変わらんぞ。おじさんが『ふぁえ!?』と驚くのじゃ」

「なにそれ誰得……」


 落胆の声と共に冷たい風が通り過ぎる。十五夜の夜に何を下らない願い事をしているのだろう? 明日からおじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんが「ふぁえ!?」って驚く。……本当に誰得な世界である。ありがとうございました。


「さて、改めじゃが、どのような美少女が望みなのじゃ?」

「あれ? まだ大丈夫なの!?」

「左様」

「やった!!」


 楽人はガッツポーズをした。どうやらテンションMAXになったらしい。


「皆、黒髪長髪にするのか、ツインテールにするのか、ポニーテールにするのか、猫耳にするのか、ケモミミにするのか、魔女っ娘にするのか、ボーイッシュにするのか、ゴスロリにするのか、メガネ委員長にするのか――」

「ダウト!」


 ダウトとはトランプゲームの一種である。ここでは「それは違う!」と同意と解釈して構わないであろう。


「なにがじゃ」

「委員長は1人だ!」

「ふむ」


 正論である。クラスメートが全員委員長だったら誰がクラスをまとめるのか? 仮に全員が委員長だとしたら学級委員会に集まるのは全校生徒ということになる。教室に所せましと委員長が入ってきて、皆メガネをかけ、椅子に直角に座り、メガネをクイッとかけ直すのだ。


「全員委員長の世界なんてどう見てもおかしい! だからダウト!」


 全員美少女の世界はおかしくないのであろうか?


「では、皆個性的な美少女になればよいのじゃな? しかし、どうしたものか……」

「自然な形で美少女にできないの?」


 こういう無茶振りを平気でしてくる依頼主(クライアント)を相手にするのは神様もさぞかしお困りだろう、と思いきや――


「ふむ……元の体格をなるべく変えぬまま美少女にするということかのう。それならば可能じゃぞ」


 可能だという。さすが神様である。


「しかし、それじゃと美少女になり得ない体格や体質を持っていた者は美少女にならぬぞ」

「それはね――」


 2018年9月24日。月夜の下にて、美少女化について数時間にわたりしょうもない話し合いが行われた。


 結局、一部雨森雨音化になってしまう願いができあがったわけだが「世界が大洪水!」といったレベルの問題は他に起きないのだろうか?


 楽人の酔いが覚める頃、最後に魅化姫様は念を押した。


「本当に、その願い、叶えてよいのだな?」


 こうして全ての物語は始まるのであった――

ここまで読んでいただきありがとうございます。

この後の予定ですが、次話番外編「美見未海の物語」は5月26日~27日頃。

次章は6月23日~24日頃投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ