11話2日目異変の予兆8
乙守楽人と早馬駿が美毛森市についた頃には日が沈み、辺りは薄暗くなっていた。
時刻は18時30分。
美毛森駅の広場は黄色と青色のイルミネーションが輝き、幻想的な雰囲気を演出している。美毛森ランドへ続く遊歩道は家族連れや恋人たちを夢の世界へと誘うのだ。
もちろん、楽人と駿は美毛森ランドへ行く気はなく、これから魅化神社へ行こうとしているのだが。
「あっ! 駿!」
ふいに駿が声をかけられた。女性の声だ。
「未海ちゃん!」
「あれ? 駿ってば声が高いニャン?」
「ふぁえ!?」
駿は油断してマスクを外したまま、女性に声をかけてしまった。一方未海ちゃんと呼ばれた女性はというと、目をパチクリして首を傾げている。狐目と猫目を足して2で割ったような彼女の目は愛嬌があり、印象深い。真ん丸な狐目といった感じだ。
彼女は美見未海。早馬駿の彼女である。金色の髪であり、横髪に赤いリボンをつけている。楽人曰く、赤いリボンの付け方と位置、および心構え(?)が美少女としてパーフェクトということだ。意味が分からない。服は黒に近い藍色の私服を着ている。人によっては、猫というより魔女のような印象を受ける人もいるだろう。
ピコン♪
気づけば、楽人は写真を撮っていた。
「あっ! 先輩! こんばんはですニャン♪」
未海は体をくるっと70度横へ回転したかと思うと、猫の手のように両手の拳を軽く握り、ふくよかな胸の前へ出した。右足は軽く膝の高さまであげ、自然な感じのカメラ目線でウィンクし、舌をちらっと出して挨拶してみせた。この間わずか2秒である。肩からショルダーバッグをさげているにも関わらず、動作に無駄がない。
被写体の背景は、濃い藍色の空の下、黄色と青色のイルミネーションが散りばめられた背景となっている。背景まで計算して2秒でポーズをとったとしたら、彼女は相当あざとい。
未海が楽人のことを「先輩」と呼んだのは、単純に彼女が1つ下の中学3年生だからである。ちなみに語尾に「ニャン」をつけるのは、これまた単純な理由で彼女は「ニャン」をつけたい年頃なのだ。きっとあと数年もして大人になれば恥ずかしい過去として封印したくなるに違いない。だが、中学3年生ならばまだ「ニャン」はギリギリ許されるだろう。
ピコン♪
「ニャン♪」
ピコン♪
「ニャン♪」
写真を撮るたびに彼女はポーズを変える。その動作に1秒もかからない。かなり訓練された動作である。このようにノリノリで写真撮影に応じてくれる人物も楽人の周りにはいるのだ。
「もういいでしょー」
駿が苦笑交じりに止めに入る。
「そういえば駿ってば、声ヘンじゃない?」
「う゛っ……」
「早馬は風邪なんだよ。病院寄ってきたんだ」
「大丈夫?」
未海は駿に近寄り、前かがみになり、上目遣いで駿のオデコを触った。
「大丈夫だよ、ありがとう♪」
恋人が恋人を心配してオデコを触る光景。
ピコン♪
その光景は1枚の写真に収められた。
「もういいって――」
「あのさ……写真撮らない?」
「写真なんていつでも……」
「なになに? どうしたニャン?」
黙ってしまった駿のことを、目をパチクリしながら気にする未海であった。
「未海ちゃんには話しておいた方がいいな」
「ニャン?」
駿は意を決して……と、その前に駅前で写真を撮ることにした。
駿と未海との写真。
駿と楽人との写真。
駿、未海、楽人の3人の写真。
一通り写真を撮ったあと、遊歩道を歩きながら駿は「自分が美少女になるのではないか?」と話した。
「にゃははははっ。神様に美少女にされるぅ~? そんなことあるわけないニャン」
「そう……だよねー。あははっ。……そうであってほしいよね」
「そういう訳だから今から神社に行くんだ」
「あたしも行く~」
未海は「はいはいは~い!」と手を挙げてアピールする。
「用事があったんじゃないの?」
駿は遠回しに「来ないでほしい」と言っているようにも思える。
「ぶーっ、それが恋人に対しての態度ですかニャーン?」
「いや、違う違う違うって! 来てほしくないって訳じゃなくってね。夜も遅いし、夜の神社ってコワイから……」
「まだ7時前じゃん! ……ニャン! それにもう夕ご飯買ったニャン」
「またカップ焼きそばなの?」
「ぶーっ、今日はサンドイッチニャン!」
未海はご機嫌斜めのようだニャン。
「先輩、先輩、もう駿のことなんて置いて、2人で神社に行きましょ」
「えへっ、それは嬉しいなぁ~」
「おい」
袖をつかまれつつ上目遣いで未海に提案された楽人は満更でもない様子だが、駿は面白くない。横目でちらりと、駿の怒る態度を確認して未海は満足そうな表情を浮かべた。
「で、どこの神社に行くのニャン?」
この後未海は怖ろしい目に遭うのだが、この時の未海は知る由もなかった。




