第8話 授けられし者
薄暗く異様な雰囲気を醸し出す、崩れかけた拝殿の入り口に5人の男女がいる。
整えられた装備に包まれた女性が2人。その手にきらりと輝く剣が握られている。
学生服に身を包んだ男3人の手には、みすぼらしい槍が携えられていた。
バン!と大きな音を立てて、拝殿の扉が開いた。
すかさず中の様子を確認する5人。
そこにいるはずの妖怪の姿は、なかった。
「それはバグってる!。その立ち回りはバグってるぞ!。」
「ここまで来たんならいるだろ!。 普通。」
ハジメが憤りを隠せないようだ。
途端に、落胆する5人。
微妙な空気がこの拝殿内を支配していた。
「転移陣の不快感はあったのに、ここにいないなんて、、、。」
「どこか散歩にでも行ったのか?」
考えられることを俺は口に出していた。
「{のっぺらぼう}はもしかしたら、人見知りなのかもしれない。」
「俺たちが5人で押し掛けたもんだから、隠れちゃったのかもね。」
マナブが顎に手をあてながら、そう考察した。
確かに。マナブの考察は案外馬鹿にできない精度がある。
「あいつ、おちょくってんのかよ。俺たちの時はビビらせに来たくせに。」
ハジメが続けて言った。
まだ腹の虫が収まらないらしい。
それは、ただの八つ当たりだ。
少しだけ{のっぺらぼう}のことが気の毒に思えた。
「ここにいないんだったら、探すしかない。」
「俺はミサキと一緒に、、、」
そう言いかけて彼女達が動いた。
「私達は2人で行動するわ。」
ハルカがミサキに目配せしながら言う。
なんだこの2人。もしかして「出来てる」のか?
いらぬ考察が俺の頭をよぎる。
「ああ、そうか。なら俺たちはこのまま3階層を捜索する。」
「君らは2階層を探してくれ。」
マナブが的確な指示を出してくれた。
こういう時のマナブは頼りになる。
さすが彼女持ち。
俺たちは2手に分かれた。
「いるのは間違いないだろうから、油断はするなよ。」
俺は2階層への転移陣に向かう彼女達に声をかけた。
「どうかしらね。あてにはしてないわ。」
ハルカがそう答える。
「さてと、俺らもぼちぼち探そうか。」
彼女達を見届けて、俺は2人に言う。
「どうせなら手土産でも探そうぜ。まだ魔物はいるんだし。」
ハジメが提案する。
「そうだな。もうここはギルドの管轄になるだろうし、見納めでもしとくか。」
俺はそう答えた。
3人で連携して魔物を狩る。その手つきは慣れたものだった。
マナブを除いて。
ふいにあの不快感が俺たちを襲う。
途端に固まる3人。
なんで、今?。
あらゆる「問」が頭の中を交差する。
マナブが固まったまま、目だけはこちらに向けていた。
「出やがったか。」
ハジメが吐き捨てるように呟いた。
その言葉で、俺たちは同時に振り向く。
{のっぺらぼう}が少し離れて立っていた。
着物姿で髪は長い。しかし顔が無い。
見ているだけで顔を背けたくなるほど不気味だった。
{のっぺらぼう}は動かず、俯いているように見える。
そして両手で大事そうに何かを握っている。
しかし、ここで疑問に思った。
襲い掛かってくる様子が無い。
ただ、どこか悲しげな様子がそのしぐさで伝わってくる。
俺は意を決して{のっぺらぼう}に近づいて行く。
「おい、タケシ。」
マナブが心配そうに声を掛けてくる。
俺は力強く頷く。
{のっぺらぼう}の目の前まで来たが、奴はなぜか動こうとしない。
なんだ?マジックでも見せてくれるってのか?
そんないらぬ考えが頭をよぎった時。
おもむろに{のっぺらぼう}が手に持っているものを渡してきた。
俺は流れるようにして、それを受け取ってしまう。
途端に、体がフワっとする不思議な感覚に身を包まれた。
そんな俺の様子を見て、{のっぺらぼう}は頭を傾ける。 笑った??。
いや、表情とかはないのだが、確かに笑った。
俺は{のっぺらぼう}から受け取ったものに目を落とす。
くすんだ金属のような見た目の手鏡。
まるで、錆びた銀製品のような輝きをしている。
持ち手は無く、その大きさは片手に収まるほど小さい。
俺はふと、{のっぺらぼう}に視線を戻した。
ニコっと笑うしぐさを感じさながら、{のっぺらぼう}は消えた。
すぅっと気配を消すように。
途端に俺たちに降りかかっていた緊張感が無くなる。
「ぶはぁ~。 流石にヤバいと思ったぞ。」
マナブが力の抜けた顔で言ってくる。
「あいつに何をもらったんだ?。」
ハジメがニタニタしながら聞いてくる。
「なんだろうな、これ。」
そう言って俺は手鏡を2人に見せた。
「見せてくれよ。」
そう言ってハジメが手を伸ばしてきた。
ハジメの手が手鏡に触れる。 その瞬間。
バシィ!!っと大きな音を立てて、ハジメの手がのけ反った。
「いってぇな!。なんだこれ。」
ハジメが手を抱えながら苦悶の表情で言った。
俺は無言で手鏡をマナブにも差し出す。
「俺は、いい。」
そう言って、首を振りながらマナブは後ずさる。
「お前は平気なのかよ。」
ハジメが少し悔しそうに言う。
俺は頷いた。
「これは、たぶん相当古いものだろうな。美術館とかで見るレベルかもしれない。」
俺はそう言いながら、手鏡をまじまじと観察した。
いたって普通に見える手鏡。欠点は金属が霞んで見えるくらいか。
「能天気だなタケシは。」
マナブが鏡を覗きながら言ってきた。
「お前しか、触れないアイテムだったら、それは呪われてるんだぞ。」
マナブがそう付け加える。
「タケシ、お前呪われちまったのか。」
変な効果音を口ずさみながら、ハジメがニタニタしている。
「まあ、何とかなるだろ。彼女らにも試してもらうか。」
そう言う俺も、悪い顔をしていたかもしれない。
ハジメとマナブも乗り気なようだった。
俺たち3人は彼女らと合流すべく、魔物狩りもそこそこにして、2階層への転移陣に向かった。
鳥居に結ばれたバンダナも忘れずに回収する。
2階層への転移陣に乗った時、今までの不快感は感じなくなっていた。
「やっぱり、あいつが原因だったのかもな。」
ハジメが思い出すかのように言った。
2階層で彼女達は東屋にある、1階層への転移陣のすぐ近くで
なにやら作業をしているようだった。
「おーい。妖怪がいたぞー!。」
そう言いながらハジメは彼女達に手を振っていた。
彼女達も俺たちに気が付いて小走りで駈け寄ってくる。
「あなたたち大丈夫?。それで妖怪は?。」
ハルカが矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。
俺たちは3人で彼女達に今までの経緯をかいつまんで説明した。
「それで、これなんだけど。」
俺はそう言ってポケットにしまっていた、手鏡をハルカに渡そうとする。
バシィ!!という音と共にハルカがのけ反り、尻もちをつく。
それを見て、ハジメとマナブがゲラゲラと笑っている。
「痛ったい!。」
「あんたたち知ってたんでしょ。もう最低。」
ハルカがそう悪態をついた。
ミサキはそんなハルカの様子を本気で心配しているようだった。
つかつかと歩み寄ってくるミサキ。
バシィ!!と甲高い音を立てて俺はミサキにビンタされた。
なんで俺?。
痛む頬をさすりながら、2人に謝る。
それを見て、ケタケタと笑うハジメ。
いつか絶対仕返ししてやる。そう心に決めた。
「{のっぺらぼう}がいないんじゃあ、もうここに用はないわね。」
落ち着きを取り戻したハルカが淡々と言った。
俺たち5人はその足でギルドに報告しに行くことになった。
1階層へ移動して、拝殿を通り過ぎる。
その先には向かい合った狛犬がおり、その中間点に表への転移陣がある。
いつもの見慣れた光景。
それが今日で終わると思うと、少し寂しい気持ちになった。
転移陣に乗り、表へと転移する。
ヒグラシの鳴き声が鳴り響いていた。
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