第5話 未知との遭遇
あの出来事から数日が経っていた。
授業が終わった教室の隅に3人の学生が話し込んでいる。
「どっちにせよ、1度確認する必要があると思う。」
俺はハジメとマナブに考えを促す。
「それは、そうだよな。いつまで金が持つか分かんねぇし。」
ハジメが真面目に答える。
「その現象だけでも再確認して、ギルドに報告するのが良いと思う。」
マナブは真剣に話した。
その時。口を開こうとする俺をハジメが手で制してきた。
{聞いたかよ、隣町の神域回廊の噂。}
教室に入ってきた1人のクラスメイトが仲間に話しているのが聞こえた。
俺たちは耳を澄まして聞く。
{ああ、「妖怪」が出た。って話だろ。}
{なんでも、プロのギルダーがやられたらしい。}
俺たちは唾をごくりと飲んだ。
ギルダーというのはギルドに所属する、専属のプロ達のことである。
ギルドにはランクがあって、下から「プライベート」。次に「アマチュア」。
「セミプロ」。「プロ」。最高峰が「マスター」。
といった具合にレベルに見合った人たちがいた。
今回やられたギルダーは「プロ」レベルの人らしい。
ハジメがすかさず目配せをしてきた。
どうやら話を聞いた方がよさそうだ。
俺たち3人はその話をしているグループに声をかけた。
一通り話を聞いて分かったことがいくつかあった。
「妖怪」というのはごく稀に神域回廊に出現するらしいとのこと。
隣町の神域回廊とは俺たちが知っている場所ではなかったこと。
その「妖怪」によって、パーティーを組んだギルダーの半数が命を落としたこと。
眉唾物の話ではあったが筋は通っていた。
本来、神域回廊に携わる情報はすべてギルドが管理しており、噂が流れること自体珍しい。
それだけ今回の事件が異常だった。ということだろう。
あの婆さんなら、他に何か知ってるかも?
そんな考えが頭をよぎるが、神域回廊に関する情報はそれこそ裏社会では重宝されているだろう。
婆さんにぼったくられる未来が想像出来たので、話を聞くのはやめておこう。
「俺たちの、「あれ」とは関係なさそうだったな。」
席に戻り、ハジメが俺の机に腰掛けながら言ってきた。
「もしかしてだが、妖怪がいる可能性もあるな。」
マナブが声を落としてそう言った。
「おまえ、詳かったっけ?」
俺は腕を組みながらマナブに聞いた。
「ああ。日本の昔話には妖怪が出てくることが多い。場所が場所だし。」
「でも、まだ見たこともないから、伝承どうりかは分からんけどな。」
マナブが得意げな顔をする。
正直、未知なことばかりだ。
それでも今後のことを考えると、確認しない訳にはいかなかった。
「次の休みにハジメと潜ろうと思うんだけど、マナブも来てくれないか?」
俺は期待を込めて聞いてみた。
「悪い。その日は外せない用事があるんだ。」
マナブがばつの悪そうな顔をする。
「なんだ、なんだ? 彼女でもいるのか~?」
ハジメがふざけながら聞く。
「彼女ならいるよ。でも違う用事だ。」
淡々とマナブが言った。
俺とハジメは本気でずっこけた。
まさか、俺たちの中で一番モテなそうなマナブに彼女が・・・
ハジメはあまりの衝撃に放心していた。
同感だ。同士よ。
そんな俺たちを見かねてマナブが話す。
「その日は無理だけど、他の日なら合わせられるよ。」
「あ、いい。俺たちだけでいく。」
ハジメが心の籠っていない声で答えた。
「そうか。気を付けて行けよ。もし万が一妖怪がいたら容姿だけでも教えてくれ。」
そう言い残して、マナブは去っていった。
さてさて、話が変わってきた。
マナブの彼女、、、じゃない。
今は神域回廊の調査の事に集中せねば。
「とりあえず、いつも通りの準備をして神域回廊に臨む。」
「今回は調査がメインだ、状況を確認して無事に戻る。いいな?」
俺は確認するようにハジメに言った。
「ああ。分かってる。」
どこか上の空の様なハジメ。
さっきの事がよほどショックだったらしい。
そんなハジメを見かねて声をかける。
「神域回廊の調査が終わったら、今度はマナブの彼女の調査だ。」と
途端にハジメに精気が宿った。その目も輝きを取り戻しているようだった。
数日後の休日。
俺たち2人は装備を整えていつもの神域回廊の前に来ていた。
準備は出来てる。段取りはハジメと済ましていた。
後は状況を確認して、無事に帰るだけだ。
狛犬に帽子を被せて転移陣に足を進める。
転移した時、やはりあの不快感がこみ上げる。
大丈夫。これも覚悟していた。
自分を奮い立たせる為にもそう念じた。
1階層に来て、すぐに状況を確認する2人。
特に変わった様子はない。
散発的に虫の魔物がいるが、これはいつも通りだ。
「あれも一応見とくか?」
ハジメが崩れかけた拝殿を指差しながら聞いてきた。
俺は大きく頷いた。
拝殿の扉に手をかけてゆっくり引っ張る。
なかなか重いな。
ぎぎぎと音を立てて扉が開いた。
拝殿の中には何もなかった。
「ないってこともあるのね。」
少し落胆しながらハジメが呟く。
「とりあえず2階層に行こう。」
俺はハジメに合図した。
東屋に向けて歩き出す。
東屋の柱には前回付けた印が残っている。
その手前にある転移陣。
「行こう。」
俺は小さく言葉を発して、転移陣に乗る。
さっきより強い不快感が押し寄せる。
前は動揺してて気が付かなかったが、階層を跨ぐたびに不快感の度合いが変わっていた。
転移した後、さっきと同じ要領で周囲を確認する。
ハジメと目が合った。
たぶん同じことを考えているのだろう。
恐らく何かがいるとすれば3階層であると。
3階層への転移陣はこの東屋からはちょうど真反対にある鳥居の下にある。
2階層の魔物の数はそこまで多くはなかった。
初めて2階層に来た時に危険な魔物はあらかた片づけていた。
残っていたとしても、金策用のナメナメ君だけなのである。
俺たちは鳥居に向かう途中で拝殿に寄ってみることにした。
開いたままの拝殿。
拝殿内の中央部分には中身のない木箱が置いてあった。
「やっぱり変化は無いな。あるとすれば3階層か。」
俺の言葉にハジメも頷く。
そのまま拝殿を後にして鳥居に向かう。
そこに3階層への転移陣が赤く光っていた。
鳥居にバンダナを結んで目印にする。
転移陣を前にして俺は確認した。
「準備はいいか?ハジメ。」
「なにかあっても、一人で逃げるなよ?。」
ニヤニヤしながらもハジメは頷いた。
こういう時はハジメの反応が心底頼りになるのであった。
2人で転移陣を踏む。
今まで感じたことのない悪寒が全身を駆け巡る。
「大丈夫だ。出来る。」
短く、自分を奮い立たせた。
3階層に転移してすぐ、俺たちは呆気にとられた。
3階層はいつもと変わりがない様子だった。
表立った魔物は倒してあるし、厄介な魔物はほったらかしにしていた。
こちらから仕掛けなければ襲ってくる様子もない。
「いつもと変わんないじゃん。ちょっと期待してたのに。」
残念そうにハジメが呟く。
「まあ問題なければいつもと同じだな。手ぶらじゃあ帰れん。」
俺はそう締めくくる。
変化は無い。
俺たちはいつも通りに魔物を倒して魔石を集める。
「帰る前にあそこも確認しておこうぜ。」
「なんか、お宝があるかも。」
そういってハジメは3階層の拝殿を指さす。
ハジメが待ちきれんとばかりに拝殿に駈け寄った。
拝殿の扉を開けながらふざけて言う。
「御開帳~。」
その刹那。ハジメの目が見開く。
「誰??」
ハジメのその一言に全身の毛が逆立つのを感じた。
急いでハジメの元に駈け寄る。
そして、中を見た。
拝殿の中央には着物を着た女性らしき人が向こうを向いて座っていた。
なぜ?なんでここに人が?もしかして妖怪?
様々な憶測が頭の中を駆け巡る。それでも分からない。
俺たちは動けなかった。
ハジメの額には脂汗が滲んでいた。俺もそうだろう。
意を決して、震える声を抑えてその女性に声をかけてみた。
「あの~。」
動かない。
だが、ゆっくりと、ほんとうにゆっくりとその女性が振り返る。
{それ}を見たとき。
俺たちは悲鳴をあげながら、脇目も振らずに逃げ出していた。
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