第3話 宝物
3人の学生は朽ちかけた拝殿の入り口に立っていた。
その視線は中央にある、{何か}に釘付けにされていたのである。
「これって、まさか・・・」
そう言いかけたハジメの目は驚きと興奮が入り混じっていた。
拝殿の中央には小さな木箱が置いてあった。
その色はどこかくすんで見える。
大きさは手のひらより少し大きいものだった。
警戒しながらゆっくりと3人はその木箱に近づいていく。
何か仕掛けがあるわけではないらしい。
「開けていいか?」
ハジメは俺たちに同意を求めた。
俺とマナブは頷く。
ぎぃ。と小さな音を立てて木箱が開く。
「なんだこれ?」
ハジメが首を傾げている。
俺たちも木箱に顔を覗かせる。
そこにあったのはチョークのような形をした棒が5つ。
奇妙な形を作りながら並べられていた。
恐る恐るマナブが木箱に手をのばす。
「チョークみたい。」
手に取って小さくそう呟いた。
どう見てもチョークだ。素材は分からないが。
俺は思わず笑いを噛み殺した。
ハジメも吹き出しそうになりながらも、それを見ている。
期待外れもいいとこだ。
てっきり、神域回廊なんだから、もっと金目になるような物があると思ったのだ。
「もしかしたら、3階層の拝殿にもあるかもな。」
ニヤニヤしながらハジメがそう呟いた。
「え。2階層で終わりじゃないの?」
マナブがすかさず聞いてくる。
「ああ。この神域回廊は3階層まである。1階層の拝殿にもあるかもしれない。」
俺はマナブにそう答える。
「だけど、今日は3階層までは潜らない。マナブが初めてだし、収穫もあった。」
「これ以上は必要ない。楽しみは取っとくもんだ。」
続けて説明した。
ハジメとマナブは頷いた。
この神域回廊は3階層まである。
目的を達成した以上、深追いは厳禁だったのだ。
なにかあってからでは遅い。無事に戻ることの方が何より重要だったのだ。
それにここはまだ誰にもバレていない。
焦る必要は微塵もなかった。
「そろそろ、引き揚げよう。」
俺は2人に合図した。
それをきっかけに、集めた魔石と手に入れた宝物を鞄に収納する。
3人は元来た道を戻り東屋へ向かった。
その手前には1階層への転移陣があった。
目印を確認して転移陣に乗る。
その時。
得体のしれない悪寒が背中を走る。
脂汗をかきながら周囲を確認する。
来るときに付けていた東屋の印はある。間違いなく1階層だ。
思わずハジメと目が合う。
どうやら、同じ不快感を感じているようだった。
「あんなの、ここに来て初めてだ。」
「なんか、いるかもしれねぇ。」
ハジメが怯えた声で小さく呟いた。
「もしかして、さっきの・・・」
思っていた事が口に出ていた。
そう思った時、底の知れない恐怖が3人を包み込む。
「すぐにここを出よう。」
俺は咄嗟に指示を出した。
言葉よりも体が先に反応していた。
急ぎ足で拝殿を通り過ぎる。
背後になにかいるような感覚が思考を支配する。
脇目も振らずに走る。
その先に狛犬が2匹向かい合っている。
その中央にこの神域回廊の出入口となる転移陣があった。
目印の確認も怠らない。
飛び込むようにして3人は転移陣に乗った。
さっきと同じ悪寒が走る。
額に浮いた汗が夏の蒸し暑い風に触れてくすぐったい。
崩れかけた狛犬の頭には帽子が乗っていた。
どうやら無事に戻ってくることが出来たようだ。
マナブも肩で息をしながら確認していた。
「なんだったんだ?今の。」
帽子を回収しながらハジメに聞いた。
「分からねぇ。良くはないな。」
額の汗を拭きながらハジメは答えた。
そんな言葉にマナブは怯えているようだった。
「ま。無事に戻れたんだから、さっさと例のブツを捌こうぜ。」
すでにハジメは悪い顔になっていた。
現金なやつめ。
だがその判断は間違ってはいない。
この魔石は無許可で持ってていいものでは無かった。違法である。
手元に置いておくより、さっさとお金に換えてしまう方がよっぽど安全なのだ。
「そんなに時間も掛からなかったし、さっさと終わらせよう」
俺は2人に言った。
「え!?まだこんな時間なのか?」
マナブが時計を見ながら驚いている。
「そういえば、言ってなかったか。ここの神域回廊の時間は現実世界に比べて。速い。」
俺はマナブに説明する。
「だいたいこっちの倍だな。この前測った。」
ハジメがすかさずフォローを入れる。
俺たちが神域回廊に入って約2時間が経過していた。
つまり現実世界では約1時間しか経っていないのである。
「法則ぶっ壊れてんじゃん。」
マナブがつっこんできた。
確かに、この世界では相対性理論がある。詳しくは知らないが。
噛み砕いて説明すると
重力が強いと時間が速くなる。
重力が軽いと時間が遅くなる。
そういう理論らしい。 うーん頭が痛い。
神域回廊では重くも軽くも感じなかったが。よく分からん。
「一番大事なのは現実だ。あまり深く考えるな。」
俺はマナブにそう諭した。
煮え切ったような煮え切らないような顔でマナブが頷く。
「バカは考えなくてよろしい。」
ハジメが横槍を入れる。
「お前が言うな。」
思わず言葉が出てしまった。
3人は笑いに包まれる。
「それじゃあ、行こうぜ。」
ハジメが先陣を切って麓へ向かう。
俺は視界から途切れかける神社を一目見て、山を下りた。
その3人の背中には達成感と精神的な疲労感が醸し出されていた。
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