第26話 違和感の正体
大規模クエストの2日目を迎えた。
朝から筋肉痛で至る所が痛むし、ハジメはなかなか起きて来なかった。
あいつって意外と寝覚め悪いんだな。
ギルドに移動すると彼女達は既に準備を整えていた。
「あなたたち遅くない?。女子より遅いってどういうことよ。」
なぜかハルカがご立腹だった。
「いやぁ、悪いね。」
ハジメが照れながら言う。
ハルカは頬を膨らませながら腕を組み、こちらを睨みつけてくる。
「すまん。寝過ごした。」
なんとも居た堪れなさを感じて謝った。
俺たちは急いで準備を整える為に更衣室へと向かった。
気のせいだろうか、朝から腰に差している刀が重く感じる。
「タケシ。早くしろ。このままじゃ俺たち睨み殺される。」
ハジメが急かしてくる声で考えを切り替えた。
急いでフードコートの方へと向かった。
彼女達が先に注文を済ましてくれていた為、割とすぐに料理が運ばれてくる。
多少遅れたとはいえ朝飯抜きというのはクエストに響く。
味を堪能するのは諦めて、出来るだけ食べるようにする。
それにしても料理のラインナップが変だ。
朝から牡蠣の酒蒸し?。ニンニクがたっぷりと効いた豚肉とニラの炒め物。
急ぎの朝食としてはヘビーすぎる。
だが俺たちは遅刻している身であって、彼女達には逆らえない。頼んでてくれただけありがたいと思わないと。
若干胃もたれしながらも朝ご飯を口の中へと押し込んでいく。
ハルカは文句も言わずに出された料理を平らげるタケシを見て、密かに笑った。
朝食を終えてロビーに行くとクエストメンバーが勢ぞろいしていたが責任者の姿は見えなかった。
危なかった。どうやら間に合ったようだ。
その後、昨日と同じような説明を受けて、俺達は神域回廊へと出発した。
神域回廊へ向かう途中で落石による交通障害で迂回せざるを得なくなり、大幅に時間をロスした。
入ってくるはずの最新情報も通信トラブルで中断されている。
なんだろう。立て続けに物事が滞る。
神域回廊への転移陣まで来てから、さらに違和感に気が付いた。
討伐隊の装備が昨日と若干違う。
猪が出没したからだろうか、大きな盾を装備しているプロギルダーが増えた。
メンバーも少し入れ替わっているように見える。
何か嫌な予感がした。
俺は3人にしか聞こえない声で囁いた。
「今日は何かおかしい。朝から流れが悪いから気を付けた方がいい。」
「え、そうかしら。言われてみればそうかも。」
ハルカは少し考える。
「タケシが言うなら間違いない。結構臆病なところが当たるからよ。」
ハジメが肯定してくれた。
そう。俺の悪い勘はよく当たるのだ。
悪知恵を持っているからなのか敏感なところが昔からある。
気のせいで終わればそれに越したことは無い。だが、何か引っかかる。
責任者の説明も終わり、昨日と同じ流れでクエストが始まった。
俺達も討伐隊に続いて神域回廊に入る。
ざわめく木々、吹き抜ける湿った冷たい風、どこか落ち着かない雰囲気を森全体が発していた。
昨日進んだ道とは反対の方向へと討伐隊は進んでいく。
「そういえばずっと気になってたんだが、神域回廊ってボスみたいなのはいるのか?。」
ハジメが何の気なしに質問した。
「場所によりけりよ。」
珍しくミサキが答えた。
めんどくさそうな顔をしてミサキはハルカに目配せをした。
どうやら選手交代らしい。
「ボスはいるわよ。ただしここの神域回廊みたいに広域なところとか異質な場所に限られるのよね。」
「それでも全体的な統計で言うと、その神域回廊ごとの魔物の中で、強い個体がいるっていう程度らしいわ。」
「昨日倒した猪がそれの可能性はあるわね。」
ミサキの代わりにハルカが代弁した。
「なーんだ。昨日ボスを倒しちまったってんなら、もう攻略できたも当然だな。」
相変わらずの楽観でハジメが言った。
「だから今からそれを確かめるんでしょ。」
ハルカが食いつく。
「油断は出来ないな。俺たちはそれで今まで散々な目に合ってきた。」
俺は過去を振り返りながら言った。
「もしもの時はタケシが守ってくれるんでしょ。」
ハルカはそう言いながら身を寄せてくる。
わざとらしく胸を押し付けるな。けしからんぞ。
ハジメとミサキの冷たい視線が痛い。
「そういうのは、終わってからにしようか。」
俺は若干冷や汗をかきながらそう言った。
ハジメが大きなため息をつく。
「これだからラブラブカップルは。」
昨日の様な失態は冒せない。
奇跡のようなめぐり合わせで生還出来たものの、気を付けねば命を落としかねない。
用心に越したことは無いのだ。
俺たちは昨日と同じフォーメーションで作業をこなしていく。
ここでも違和感があった。
昨日より魔物の数が少ない?。
場所のせいなのか、昨日で倒し過ぎたのか。
昼に差し掛かりそろそろ休憩をしようかと相談していた時に事件は起こった。
「あれを見て!。」
ハルカが前方の狼煙を指差しながら言った。
赤い狼煙。
その色は救援と警告を意味する。
先遣隊なのか討伐隊なのかは分からないが、赤の狼煙は異常だ。
誰かが行動不能になったのか、もしや、、、。
「行きましょう。」
ミサキが短く指示を飛ばした。
救援に向かうべく少し歩いていたところにもう一つ狼煙が上がった。
また赤だ。
赤い狼煙が2つ。常識で考えてもただ事じゃない。
俺達より前にいるのはセミプロ以上のギルダーだ。実力は折り紙付きだった。
こと討伐隊に関してはプロだけで構成されている。
ミサキは一筋の汗を流しながら考えていた。
赤い狼煙が2つ。
運搬隊は即時退却。調査隊は救援及び負傷者の救護。
プロでも対処困難な状況がこの先にある。
「何が起きてるのかは分からない。いつでも逃げれる準備はしておいて。」
ミサキは不安に駆られながらも決断した。
「下がる時は俺がこのまま殿になる。」
俺はそんなミサキを勇気付ける為につい言ってしまった。
ミサキは意外な顔でタケシを見た。
「頼りになるわね。」
俺にとってミサキのその言葉は最上級の誉め言葉だった。
「行こう。」
俺は覚悟を決めて言った。
赤い狼煙にだんだんと近づいて行く4人。
次第に嫌な臭いが漂ってきていた。血の匂いだ。
誰かが負傷しているのは間違いない。しかも臭いが拡散するほどだ。
嫌な予感が大きくのしかかてくる。
4人はフォーメーションを崩すことなく手前側の狼煙の場所まで来た。
「誰もいないじゃん。」
タケシが辺りをキョロキョロしながら言った。
「いや、いるよ。。。」
俺は見たくないものを見ながら言った。
バラバラに千切れた遺体。
それも1人分にしては多すぎる。
「うっ!。」
ハルカが口元を抑えながらえずいた。
「まじか。。。」
ハジメは絶句していた。
少し茂みが広がっている藪のそばに2つに分かれた遺体が転がっていた。
内臓がつぶれ、原型を留めないまま辺りに散らばっている。
下半身にも足りない部位が多く、肉と骨がむき出しになっていた。
その遺体には見覚えがある。あのモヒカン頭のギルダーだった。
いったい何人死んでるんだ。
「ここに散らばってるのは少なくても3人分ね。」
ミサキは淡々と言う。
なんか場慣れしすぎてないか?。
俺はミサキの反応を怪訝に思った。
「先遣隊は2パーティーで6人。討伐隊は3パーティーで13人よ。」
「ここで私達が出来ることはなにも無いわ。先を急ぎましょ。」
いやいや、ちょっと待て。冷たすぎないか?。
仮にもこの人達は仲間だった。
そういう俺も大した動揺は見せてはいないが、いくら何でもそれは、、、。
いや、ある意味ミサキは正しい。
ここで動揺して取り乱せば、冷静な判断が出来なくなる。
ランクが上がるっていうのはこういうことも考えなきゃならないのか。
俺はミサキの対応を見て驚くと共に勉強になった。
もう1つの狼煙までは少し距離がある。
さっきの場所で何かに接敵して追いかけたのか、はたまた逆か。
だとしたら生き残っているであろうギルダーがいるはずだ。
その人達を探すのが今の俺達の任務だ。
俺達は周りを見渡しながら捜索を続けた。
ふと不可解なものを見つける。
俺は3人に停止のハンドサインを送り一本の木に近づいた。
何かとてつもない力で抉られている幹。
その地面には小粒のつぶてのような塊が散らばっていた。
「なんだ?これ。」
俺は落ちている一粒を拾い上げた。
暗赤色の小さな粒。
磨かれたような光沢を放っている。
小豆?。なんでこんなところに落ちているんだ?。
「うわぁあ。誰か!助けてくれ!。」
離れたところから男の声が聞こえてきた。
俺達はその声のする方に振り返った。




