第24話 戦友の再会
俺達は一旦装備を確認しなおした。
幸いにも破損した武具や装備はない。このままクエストを継続できるだろう。
倒した猪にマーカーを着けてこの丘を後にした。
イレギュラーが発生したとはいえ、討伐隊はかなり奥まで進出しているはずだ。
遅れを取り戻さなければならない。
俺達は先ほど戦った場所まで戻ってきた。
運搬隊のパーティーが倒れた猪を解体している。
そのうちの1人が俺達に気が付いて声を掛けてきた。
「大丈夫ですか~?。」
「マーカーが途切れたので急いで来てみたのですが。」
「ああ。すまないな。{つがい}の猪が現れて対処してたんだ。」
俺は解体されている猪を見ながら言った。
「この個体をあなた達だけで?。」
「すごいな。流石は調査隊か。」
「えらく若いってのにやるもんだ。」
口々に驚きの声を上げていた。
それも仕方のない事だった。
運搬隊はその多くがプライベートランクやアマチュアランクで構成されている。
対処する魔物といっても小型獣か虫くらいだろう。
「あっちにも別の個体があるんだ。終わったらそっちも頼む。」
俺は印が出ているマーカーを指差しながら言った。
「すまねぇみんな。あっちは倍のデカさだ。」
ハジメがわざとらしく付け加える。
「嘘だろ。これでも大きいのに。さらにデカいなんて。」
「俺はもうだめだ、腹が減って動けねぇ。」
「初クエストがこんな重労働だなんて。」
猪を解体していたパーティーから落胆の声が上がる。
それを見ながらニタニタと笑うハジメ。
お前性格悪すぎだろ。
「向こうの個体は魔石を取り出しやすいように切ってあります。」
「こっちよりかは幾分かマシですよ。」
俺はカバーするように言った。
「おお。それはありがたい。時間も時間だし、一緒に食事でもどうですか?。」
パーティーリーダーとおぼしき人物が声を出した。
昼休憩か。すっかり忘れてた。
さっきまで小休止してたしな。
俺は迷いながらチラっとミサキの方を見る。
「お昼にしましょう。急いでもあまり変わらないわ。」
ミサキは透き通る声でそう言った。
「じゃあこの猪を料理しましょう。携行食だけなんて味気ないですからね。」
運搬隊の1人が声を上げた。腕に覚えがあるようだ。
「それはいい考えね。普段は食べられない野生の味ってことかしら。」
ハルカが元気を取り戻した。
俺達は合同で昼食にありついた。
「猪って美味いんだな。」
ハジメが串焼きをガツガツ食べながら言う。
「適切な処置をしないと鮮度の落ちが速い上に臭くて食べられないの。」
「神域回廊から産出するにはコスパが悪いのよ。」
ハルカが上品に食べながら説明した。
「まさにギルド冥利に尽きるってことだな。」
口をもごもごさせながらハジメが締めくくった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時は少し遡る。
タケシ一行がプロギルダーの説明を受けていたとき、大柄の男はとある地方のぬかるんだ大地を歩いていた。太陽の日差しで古傷が薄っすらと顔を覗かせている。
瀬切れを起こしたその地はエンの指示によってダムの放水が止められていた。
ここはかつて村があった場所だ。
ダムの建設計画から村人は疎開を余儀なくされて、今は地図からも消え去り雨季には水の底になっている。
「たしか、こっちか。」
山本 エン。 ミサキの父親であり現ギルドマスターとして本部を任されている男。
エンは1人大きなバックパックを担いでこの地を訪れていた。
親友であり戦友でもある 小坂 カズキ を探していた。
ギルドマスターの1人でハルカの父親だ。
最後に佐藤 タケシと会ったと言われてから数か月が経過している。
それからは一切の音沙汰がなく、ごく一部のギルダーにのみ消息不明を知らせていた。
日本に2人しかいないギルドマスターが行方不明となればその影響は計り知れない。
元々放浪の旅をしていたカズキだが、理由があった。
時と水の流れによって、この地は記憶にある原型を残していない。
かろうじて面影のある地形を頼りにエンはこの地にある神域回廊を探していた。
「橋はまだ残っていたか。先人に感謝だな。」
エンは泥にまみれた小橋を見つけて呟いた。
橋を渡り、かつて雑木林があった方へと歩みを進める。
そこには強い赤色をした神域回廊への転移陣が光っていた。
エンは少しホッとした。
気を引き締めて転移陣を踏んだ。
周りの景色が変わる。
まだ水に沈んでない頃のまま、この神域回廊は機能していた。
エンはだるさを感じるほどの重さに慣れながら周りを見回した。
「懐かしいな。」
エンは小さく呟いた。
聖域が変わっていないのであれば、この先に神社の拝殿があるはずだ。
エンは歩みを進める。
時折魔物が襲ってくるが一刀の元に切り伏せた。
鳥居を潜り、拝殿まで進む。
拝殿の大きさは4畳半といったところか、それほど大きくはない。
扉に手を掛けてゆっくりと開いた。
キィっと音を立てて扉が開く。
拝殿の中にはボロボロのコートを着て肘枕をしている男が1人いた。
「よお、久しぶりだな。早かったじゃないか。」
カズキはエンを見上げて言った。
「早い?表では数か月経ってるぞ。ここでは2週間くらいか?。」
エンは少し計算しながら答えた。
この神域回廊はギルドも把握していない場所である。
正確な時間軸は分からないがここでの時間は表と比べて遅い。
「なんか持ってきてくれたんだろ?魔物は食べ飽きたよ。」
カズキは胡坐に姿勢を変えて言った。
エンは持ってきたバックパックから取り出した装置を発動させる。
薄い膜のように見える空間が2人を包む。
異空間装置から派生して開発された装置。
神域回廊の時間軸を表と同調させるものだ。これで流れる時間は同じとなる。
「異空間装置の小型化か?。初めて見たな。」
カズキは興味深々に見る。
「まだ本格仕様じゃない。マスターだけに持たされている試作品だ。」
エンはざっくりと仕様を説明した。
「忙しくてな、ここであまり時間を使えない。」
エンはそう言いながらもバックバックに詰め込んでいた食料や嗜好品を取り出した。
「準備のいいことで。最初から当たりをつけてたのか?。」
「まあな。そろそろだとは思っていたよ。お前がいるならここしかないと思った。」
「合ってたか?。」
エンは低い声で言った。
「御明察さ。俺はここから出られなくなった。」
「あの長鼻に言われた通りだよ。せめて時間がゆっくり流れるここを最後に選んだんだ。」
カズキは手を広げながら説明した。
「何とかする。今はあいつを倒せる人材を育てている。」
「佐藤 タケシには会ったんだろ?。」
「あいつは素質がある。この俺の威圧にも萎縮していなかった。」
エンは思い出すように言った。
「タケシ君か。確かに彼はセンスがいい。」
「前に、ねぐらにしていた神域回廊の番人とやりあってたしな。」
「健気でいい子だよ。見ず知らずの俺の為に命を張ったんだから。」
「あの鶏と戦ったのか?!。プロの連中でも手を焼くぞ。」
エンは少し驚いた。
「ああ。彼は番人の攻撃を見切っていたよ。実力をつければ申し分ない。」
「俺があの時あそこに居たのも、何かの縁なのかもな。」
「縁と言えば、佐藤はハルカと添い遂げると言っていたぞ。」
「ハルカを!?。」
カズキは身を乗り出した。
少し考えて、落ち着いてカズキは言った。
「そうか、そうか。タケシ君がハルカの夫になるか。」
「いけ好かないやつだったら追い返すつもりだったんだけどな。」
「彼の事は気に入っているよ。親としてはハルカの気持ちを尊重したいがね。」
「そう言うだろうと思ったわ。万事抜かりはない。」
「さっきから思ってたけど、えらく爺さんみたいな話し方するんだな。」
カズキは話題を切り替えた。
「こう見えても俺たちは神域回廊を知らん人間の倍は生きてるぞ。」
滅多に笑わないエンが笑いながら言った。
「そういえばそうだったな。帳尻が合ってると思ってたが、暴れ過ぎたか。」
その言葉を皮切りに昔話に花が咲く。
エンは酒と杯を取り出して乾杯をした。
待ってましたと言わんばかりにカズキは杯を受けた。
ひと時だが、楽し気な空間が2人を包み込んでいた。




