第1話 悪だくみ
「お主も悪よのぅ。」
「いやいや、そなたほどではないわ。」
教室の隅からそんな声が漂っている。
なんとも楽しそうな顔をしたタケシとハジメがいた。
いつもの茶番である。
だが、本当に悪いことを考えているなんて、誰も蚊ほどにも思っていない。
そんなことをしていると、一人の男が近寄ってきた。
「斎藤 マナブ」 俺の友達だった。
背は俺より少し低くやせ型だ。黒縁の眼鏡の奥に黒豆のような瞳を覗かせている。
典型的なガリ勉オタクである。
だが、彼の知識量は凄まじく、特に日本史の情報量がハンパない。
そういった面では尊敬していた。
そんなマナブは俺たちに近づくなり、周りを気にしながら小声でささやいてきた。
「今日の放課後に潜るんだろ?」
一瞬びっくりしたが
俺とハジメはニヤニヤしながらうなずく。
「大丈夫なのか? もしバレたら鑑別所は免れない。」
心配そうにマナブが言う。
「大丈夫だよ。言い訳もアリバイも完璧に用意してる。」
淡々と俺がそう説明する。
「ならいいか。」
「俺も混ぜてくれない?興味がある。」
自信なさげにマナブが言う。
「なに言ってんだ、この計画を知ってる時点でお前も共犯じゃないか。」
ハジメが悪そうな顔をしながらマナブに諭した。
それもそうだ。本来なら未登録の神域はギルドに報告する義務があった。
それを怠ってかつ、悪用すれば法律で裁かれることになる。重罪なのだ。
「そうだな。一緒に来るのは構わないが、覚悟は必要だぞ?」
俺は含みのある言い方でマナブに言う。
「分かってる。だけど神域回廊に行ける機会なんてそうそうない。」
やや引き攣った顔をしながらマナブはそう言った。
「あたぼうよ!それでこそだ。」
ハジメは気分で調子を合わせてくる。
「それじゃあ、授業が終わったら行くか。」
俺は頭に浮かぶ計画を考えながら、そう締めくくった。
この世界に突如として現れた、神域のことをみな口々に{神域回廊}と呼んでいた。
なぜダンジョンと呼ばないかはその構造にあった。
ダンジョンならば迷路があって、階層があって、とイメージしやすいものがある。
だがこの神域回廊にはあてはまらない。
転移後の風景は元の場所に酷似しているし、階層を跨ぐための分かりやすい階段なんて無いからだ。
一度入ってしまえば元居た場所と区別がつかない。厄介なのだ。
だが、対策も当然ある。
繁華街にある神域回廊であれば「音」が変わる。
人気のない場所であっても元の場所に目印でもつけておけば、判別ができる。
少し頭を使えば分かることなのだ。
そんなことをなぜ俺が知ってるかって?
当然、行ったことがあるからだ。
なんならこれから行く。
俺たちだけが知る、秘密の神域回廊があるのだ。
その場所を使って俺たちは小遣いを稼いでいた。
その日の放課後、街はずれの人気のない裏山の麓に3人は来ていた。
小さいときからの遊び場だ。
「マナブ、チャリはしっかり隠しとけ。」
俺は吐き捨てるように注意する。
ハジメは何やら鞄をごそごそとまさぐっている。
「じゃあ早速、準備に入ろう」
俺もそう言いつつ鞄を開けた。
「俺は何も持ってきてないけど、大丈夫かな?」
マナブは怪訝そうに聞いてくる。
「今日は深くまで行かないし、ここにはでかい魔物もいない。心配すんな。」
俺は慣れた手つきで槍を作りながら言う。
神域回廊は危険だ。下手をすれば命を落とすし、迷えば帰ってこれない可能性があった。
だが力量と欲を出しすぎなければ、どうということはない。
心構えと準備が大事だった。
「ほな、先いくでぇ~」
ハジメがふざけながらも俺たちを待ってくれていた。
ほんと、調子が狂う。だが嫌いではない。
ムードメーカーというものは良くも悪くも必要だ。
「よし。ここから先は藪漕ぎになるけど、はぐれんなよ。」
俺は二人を肩越しに見ながらそう告げる。
目的の神域回廊は裏山の中腹あたりにある。
だけど毎回同じ道を使うと跡が残ってしまうが為に毎回、経路を変えるのだ。
バレない為には慎重さが必要だった。
誰だって自分だけの利権が欲しい。人も、国も。
しばらくすると、目的の場所が見えてきた。
うっそうとした木々に囲まれて、ところどころに人が手をいれていたであろう痕跡が散見される。
表の参道はとうの昔に崩れたまま朽ち果てていた。
登り口は山に帰り、表からは見えない。
知らぬ人からすればここに神社があったことなど分からないだろう。
そう言ってもいいぐらいに、この場所は放置され、忘れ去られていた。
ここを見つけたのは、たまたまだった。
冒険心でいろんな場所を探索していたときに見つけた。
不気味だったのであえて近づくようなことはしなかった。
神域回廊があると知るまでは。
足元に気を付けながら鳥居をくぐり、聖域に入る。
その先には崩れた狛犬が2匹向かい合っている。
その2匹の中央部分に神域回廊への転移陣があった。
今思えば、異様すぎる光景だ。
ほとんど日の光も入らない空間に、ぽつんと赤い羅列文字があるのだから。
時間が違えば肝試しできそうなくらいの雰囲気が漂っていた。
いやすでに怖い。
片割れの狛犬に帽子をかけて目印にする。
「いくか。」
俺は確認を込めてそうつぶやいた。
そしてお互いに目配せをしてうなずく。
3人の学生は転移陣に乗り、そして消えた。
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